Re:7 深まる謎
その名前を、僕は何処かで聞いたことがある気がした。どうしてなのかは分からないし、そんな人物に会った記憶もない。けれど、遠い記憶のどこかにあるような、そんな気持ち。
星夜は、僕らに対して、自身の好きなもの、苦手なものを詰まり詰まりながら発していった。なんというか、入学式の後の学級会でやる自己紹介みたいで、なんだか懐かしいような、気恥ずかしいような気持ちにもなった。
その中でも深く印象的だったことがあって、どうやら彼は緑が大好きであるということだった。緑といっても、自身の髪のカラーリングの話なんかではなくって、大きく括るなら「自然」が正しいみたいだ。将来は地球の緑に囲まれて暮らしたいとも言っていたよ。そのなんというか、純粋な心に見合った夢だと、僕は思う。
「さて……そろそろあの話をしてもいいんじゃないのかね」
「はい、そうなのですね……」
下を向き、小さな声で「ん~~」っと声を出し、意を決した様子でこちらを見つめる。
「ベガさん、あなたは、宇宙人かもしれないのですよね?」
「ああ、多分。そうだと思ってる」
問われた質問に落ち着いて答えるベガ。向かって左に見えるその垂れ下がった一本の髪は、何かに感づいたかのように、ゆらゆらと揺れていて、せわしなかった。だけど、僕にはあまり理解が追い付かなかったよ。
「……僕も、おんなじなのです」
「…………へ?」
「僕も、宇宙人、なのです」
「えっ……ええええええええ!?」
まさかそんなことがって思ったよ。それまで手がかり一つ無かった、他の宇宙人の存在が、その時初めて明らかになったんだから。それを脳内で理解するのにも、若干時間がかかったけど。
「……やっぱりか。何となくだけれど、予想はしてたな」
「ベガ、気づいてたんだ……」
ベガって察する力が凄いんだよね。空気読みの達人というか、そんな感じかな。それだけじゃなくて、感覚も人一倍優れているみたいなんだ。(宇宙人だから能力は人間より各上だろうというツッコミは無しの方向で。)
「お察しが早くて、とっても助かるのです……。ということはつまり、僕の名前は……」
「偽名ってことか……」
「そういうこと、なのです。本名は、アルトリア=シレースというそうです」
なるほど、この星で名乗るための名前をあえて持つことで、問題事を対処しているってことかーって、僕は一人で感心していた。だけどベガはそんなことよりも、もっと大切なことを疑問として直視していたみたいで……。
「……ん? だとしたら、だ。宇宙のこと、何か分かっていたりしないのか? もしかしたら、それが手掛かりになるかもしれないだろう?」
そう。これ一番重要なことだった。危うく真の目的から逸れてしまうところだった。ベガはやっぱり流石だ。
≪自分のことなんだから当たり前だ。それと、お前は物事を楽観視しすぎなんだよ≫
……ゴホン。話を戻すよ。
軌道修正してもらって、もしかしたらこれで何か糸口が見つかるかもしれない。そんな所まで来たわけだけれど……。そう考えた自分たちは、どうやら甘かったみたいだったんだ。
「……詳しいことは、僕も覚えてないのです。申し訳ないのです……」
詳しく聞いて分かったことは、どうやら彼自身の状況はベガと全く同じなようだということだった。名前が記憶にあるかどうかの差異はあるけれど……。
どちらも何かしらの大規模なショックが影響しているんじゃないかなって、僕は思ってるけど、実際はどうなのかは分からない。
でも、この話を思い出していつも思うことがあるんだ。もし仮に、その大きなショックを受けたとするならば、『この二人には一体、何があったのだろう』。
この疑問が、風船のように膨らんでいってしまうんだ。
「……まあ、そんなところか。アルト、お疲れ様」
アルトリアのことを見守っていた朝倉が、会話の潮時を見て、ようやく口を開いた。
「よし、では、記憶の混乱が起きる前に、これらのまとめと、そしてこれからについてを話そうではないか」
どこにあったのか、ホワイトボードと専用のペンを用意した朝倉は、これまでの話を丁寧に文章に書き起こしてくれたのだった。
……いい人だと確信した。




