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恒星未来伝―Protect Your Eterein―  作者: くろめ
別世界からの来訪者
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Re:5 夢へと進みし……④

 僕と朝倉は、机を挟んで対面する形で、ふくよかで、かつ均整の美のとれたソファーに座った。

 相手は科学者というぐらいだ、相当なキレ者に違いない。

 だけど、彼からは威圧というか、そんな気のようなものは伝わってこなくて―彼の身長の低さもあるのかもしれないが―代わりにあったのは、何でも聞けと言わんばかりの図々しいような、腰が引けているのかよく分からない、不思議な姿勢だった。

「あの……」

「おお、早速質問かい?」

 返事をした時の、その悪戯染みた笑顔すらも不気味なものに思える。

「はい。まずお聞きしたいんですが……。どうして僕の名前をご存じだったんですか」

 僕は恐る恐ると聞いてみる。

「勿論だよ。私は科学者だからね」

「は、はあ……」

 答えになっていないとツッコミを入れるべきなのか悩んだが、この手のひねくれた・・・・・人間は、最後まで話をぼかすだろう。それを知っている・・・・・から、僕は話を掘り下げようとは思わなかった。

 どうでもいいけれど、初めて会った人間に知られているということは、個人情報が少なからず外に出回っているということだと思う。だからこの件以来、個人情報の取り扱いに慎重になったのは、言うまでもないことかな。

 その後暫くは、長い長い沈黙が続いたと思う。体感だけでも、相当長かった。

 そうして、耐えかねたのか、それとも狙ったのか、朝倉からついに口を開く。

「で、君は何の用事で来たのかな」

 別にコミュニケーションが出来ないという訳ではない。単純に、僕は驚いていたんだと思う。言葉が出てこないほどに。彼の小さな身体に圧倒されるとは、まさか自分でも思ってはいなかった。

「……ええと、僕に事情があった訳ではないんですが、僕の友達が、知りたがっていることがあって」

「ほう……君の友達である赤髪の異星人が、自分の記憶を取り戻すために苦心している、ということかい?」

 どうして考えを読んだかのように返答してくるのだろう。ピンポイントで正解なのも不思議でしょうがない。

「だから……なんで判るんですか?」

「それよりもだね」

「スルーですか」

「……記憶を取り戻すために必要なのは、同じような境遇だってことだよ」

 どうやら聞く耳を持たないようだ。 ……触れるべきことではないといった雰囲気で、ベガのこれからに必要なことを、朝倉は淡々と語り始めた。

「まず必要になるのは記憶を司る脳の回路、要するに海馬に存在する、言わば引き出しのようなものの鍵を見つけ出すことだね。それが無ければいつまでたっても引き出しが開けることはない。ではその鍵はどこにあるのだろうか。恐らく私は宇宙に、もっと言えば、彼が住んでいた星にあると睨んでいるよ。そこへ行くことで鍵は外れ、記憶の解放が行いやすくなることだろう。だ、が、そのためには宇宙へと昇るほどのロケットが必要だろう? だが心配無用だ。全て朝倉研究所が出資しよう。だがそれまでには長きに渡る時間を要することだろう。長くて一年はかかるのではと推測している。そこで……」

「あの……全然頭に入ってきません……」

 いきなり色んな事を言われては頭がパンクしそうになるばかりだ。学校の授業より酷いことになっている気がする。

 この男は一体僕らをどこまで知っているというのか。しかも、極めつけは出資という言葉まで出る始末だ。一体どれだけ複雑なことが絡んでいるのか。そして僕にはあまりにも難しすぎた。

「ああ、すまないね。もう少し簡略化した説明をしようか……っと。その前に、張本人が来るみたいだ」

「へ?」

 突拍子もない朝倉の言葉だったけれど、研究所の入口の扉が開いたことで理由が分かった。

 ベガが追いついたのだ。

「はあ……。ここまで運んでくるオイラも、『お節介』だな」

 大きなため息と独り言のような言葉。しかし、背中に負ぶられた人物を見れば、それは独り言などではないと分かった。

「うえぇん……」

 負ぶられた緑髪の少年は泣いていた。恐らくベガに負けたんだろうとこの時点で容易に分かる構図だった。

「おかしい、おかしいのです……。朝倉さんに改造してもらった、このプラズマサスマタを持った僕が、負けるはずが……」

「お前の言いたいことは分かる。だけど、当てなければ意味はないんだ。オイラが勝ったのは、お前の命中精度が低すぎるからだよ」

「うぅう……納得できないのですーッ!!」

 自分の敗北に納得がいかない少年と、敗因を無慈悲にも語るベガ。なんだか二人からは、似たような雰囲気を感じ取れた。その雰囲気の正体が一体何なのか。それははっきりとは分からなかったけれど。

 それよりも……サスマタって……。

「(ぷぁあはは)」

 僕は変な笑い声しか出てこなかった。


 それから一拍を置いて、誰もが無言になったのを見計らったのか、朝倉はついに口を開いた。

「さて、ようやく……役者がそろったようだね」


 彼の口から放たれる話は、全てが想像を絶する話だったんだ。

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