その7 出会いは夢へと進みゆく④
お姉さんには苦しみがありました。
それは妹さんの死です。彼女が妹さんについて語っていらっしゃるとき、瞳は潤み、言葉に詰まり、時々声が上ずっていたのです。それだけならばまだいいのですが、最早、この世にすら絶望したかのような感情が映って見えたのです。彼女にとって、妹さんの存在は、命よりも大切だったのでしょう。
僕は彼女を支えられるような言葉がなかなか浮かんでこなくて、一方的に聞き入って、黙ってしまうような形になってしまいました。申し訳ないことをしてしまったと、痛切に感じています。
自分になにか出来ることはないかを考えるも、どうしようもないのです。解決したくても、僕の手には負えないことです。命のことをどうにかするなんて、僕にはできません。
お姉さんは妹さんの命をどうにかするために、様々な施設や機関を訪れたといいます。でも、どこもかしこも手を差し伸べてくれることはなかったそうです。それはそうですよね。失った命をどうにかしろと言われても、神様仏さまに魂を渡す以外には、方法はないんじゃないでしょうか。勿論どの機関も口々に「我々にはどうすることもできない」、「悪いが帰っておくれ」、「無理なものは無理だ」などと言われ、最終的にはおまわりさんを呼ばれそうになったと言います。
そんな時に彼女が偶然知ったお方。それこそが朝倉さんだったのです。
彼女にとって、朝倉さんは最後の希望。彼に断られるようならば、絶命しようとまで考えたそうです。そうすれば、結果的には妹さんに会えるのですから。
…………。
念入りな下調べの結果、彼女はなんと、自分の住んでいる町の外れの奥深く、人目のつかぬ場所に研究所があることを知ったのでした。
藁にもすがるような思いで、研究所を訪れたお姉さんは、心も身体も、限界が近付いていたのです……。彼女は、全てを託す気持ちでドアをノックしたそうです。
『助けてください……私を、私の人生を……』
その一言で彼女は足のバランスを失い、地面にヘタリと座り込む形になってしまい、そして間を空けずして朝倉さんが扉を開いて、所内に運ばれたんだとか。
朝倉さんは彼女を介抱しながら、今回のようにソファに座らせ、お話を聞いたんだそうです。
話を聞き終えると朝倉さんは少しブツブツと何かを考え始めたらしいのです。それが、ちょっと怖かったらしいです。でもこれは、僕が会話をしている時にも、彼が良く行っている行動ですので、良く分かったのです。
『あなたが命をかけてここまで来たのだ。私もできる限りのことをしよう』
お姉さんをしっかりと見つめて、真剣な眼差しで、了承したのでした。
このお話を聞いたとき、僕にはまず、疑問符が浮かびました。果たして妹さんの命を取り戻すことが、朝倉さんに解決できるような問題なのか。そして、どのようにして解決するおつもりなのか……。
でもそれ以上に、僕の命を救って頂いている最中に、そんな大仕事をもこなしていた朝倉さんに対して、心の奥底から感動が湧き上がってきたのです。
なんだか、彼をもっと好きになってしまいそうでした。重大なお仕事なのですから、そちらを優先してくださっても絶対に良かったはずなのです。なのに、朝倉さんはそうとはしなかったのです。いつでも横になった僕に笑顔を届けつつ、研究やお仕事にも励んでいらっしゃったのです。その姿を思い出すとそれだけで、朝倉さんが輝いて見えますし、かっこいいと思えたのです。
「そういえば、あなたのことを聞いてませんでしたね」
「あっ……」
「(そういえば、全く自分自身の説明もなく、事を進めてしまっていたのです。またまた申し訳のないことをしてしまいました。もう色々と失敗続きですね、今日の僕……)」
僕は、自身の自己紹介と、ここにいる経緯をできる限り分かりやすく説明しました。お姉さんは大分驚いていましたが、それでも、僕のお話をしっかりと受け止めてくださいました。銀髪の女の子といい、このお姉さんといい、僕のお話を真摯に受け止めてくださったのです。とっても嬉しいのです。
「アルトリアさんも大変なんですね……」
「そうなのでしょうか……。僕は記憶がないからなのか、あまり負担には思ってないのです」
「ふふっ、ならよかったです」
ここからしばらく、話題は尽きませんでした。不思議なことに、お互いが直ぐに馴染むことができたのでした。




