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恒星未来伝―Protect Your Eterein―  作者: くろめ
心優しき緑髪
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そのG-F 濃密な時間【後編】

 僕は今まであったことを、ありのままに、そして簡潔に女の子に話しました。気付いたら研究所のベッドにいたこと。朝倉さんにお世話をしてもらったこと。そして自分の記憶が曖昧であること……。この世界の人たちには半ば信じられないことなのでしょうけど、それでも、彼女は僕の話を真摯に受け止めて、そして笑顔で応えてくれました。

「記憶がないのかぁ……ふぅん」

 こくりと頷くと、彼女は何か遠くのものを見るように切な気な表情をし、そして目をぎゅっと瞑りました。一体何を考えていたのでしょう。

 暫くすると、再びその透き通るような青色の瞳を開きました。

「ワタシもね、記憶がないの」

「ええ!?」

 断片的にだけどね。と付け足していましたが、それでも自分と同じ状況にある人物と出会えたのです。

 ……驚きでした。

 しかし、そこに喜ばしい思いなんてありませんでした。お互いに苦しい思いをしているのです。なりたくてなったわけではないのです。だからこそ、嬉しくなんて思えませんでした。それは相手も同じ気持ちでしょう。

「自分の名前も憶えてなくて……気付いたらこの村に居たの」

 そして、再び表情を強張らせて、彼女は続けました。

「……ほとんど何も憶えていないけれど、時々思い出すの。それも、悪いことばかり。自分の記憶なのかも判らないことを」

 僕は唾を呑み込みました。彼女にはその真剣さと言葉の力強さがあったのです。それこそが、彼女の「辛さ」そのものを体現しているように思えるほどです。

「紅蓮の業火に焼かれる兵士。目の前で両断され、半身を切り落とされる子供……っ!」

 想像するだけで身震いをしてしまうようなお話なのです。本人にとってはどれほど恐ろしいことだったのか、予想だにできないほどでした。

「み、み、みっ……」

 右を見ると、椅子の上でミュリンも震えていました。フレバードは真剣な眼差しで、こちらの話を聞き入っていたようです。

「あぁ……ごめんね。つい……」

「いえ、大丈夫、なのです」

 感情的になるのも無理はないお話です。でも、決して無理はなさらないでほしいのです。 

「でも、今はね」

 一変して少し穏やかな表情をした女の子でした。しかし、僕にはこれが、装ったものだということは簡単に判りました。

「旅から一旦帰って来ても、この村の人たちが優しくしてくれるから、すぐに落ち着いちゃうの」

 彼女の言う世界、とは、旅をしてきた国や街を示していたのです。なのに表情一つ変えずに僕のお話を聴いてくださったことが、余計に今までの記憶にあることの壮絶さを物語っているように思えました。

「……今が幸せなら、なによりです!」

 そして会話が一区切りついた後に、「セケネテデレンケオモッチャーシター!!」と店長さんがお魚料理と飲み物を運んできました。思わず身構えましたが、今度は投げずに、普通にコトンと置いてくださいました。

「ねえ、この後、あなたはどうするの?」

「一旦元の世界に帰ろうふぉ思うのれふ」

 美味しいけれどちょっと熱い魚の身を頬張りつつ、応えました。今思うと汚いですね……。

「……そっか。また、会えるかな」

「勿論また、来たいのです」

 飲み込んだ後にしっかりと答えました。お世辞ではなく、本心です。

 この世界は自然に溢れていますし、動物たちも個性豊かで、対話を図るのもとっても楽しいのです。ミュリンやフレバードと出会えたのも、この世界に来たから、なのですから。

「ありがとう……」



 食事を終えて、お会計のときです。僕は肝心なことに気付いたのです。

「お金、持ってないのです……。」

 すっかり忘れていました。この世界で使えるお金なんて、一銭たりとも持ってはいなかったのです。

 しかし店長さんはそれを察してくださったのか、「ツケディッスヨー」と仰ってました。女の子に聞いたところ、「次にまとめて払えば良い」と仰っていたようで……。もしかしたらここの店長さんは、素晴らしい人なのかもしれないと感じました。 ……ちょっとだけ。

 そして女の子ともそこで別れ、僕たちは宿屋へと向かいました。ここも割と真新しい木で出来ていまして、とても心地よく眠れそうに思えました。

 店員さんに「朝倉智哉に言われて来ました」と告げると、「こちらへどうぞ」とベッドルームへ案内していただけました。この際に店員さんが腰を痛そうにしていたので、大丈夫かどうか尋ねたところ、畑作業で痛めてしまったとのことで……なんというか、自然と共に生きることの大変さも、同時に知ることができたような気がしました。

 部屋には三つのベッドが用意されていました。

 ひとり一つを使用して、みんな一斉に眠りの体制に入りました。

 やっと帰れる。朝倉さんに会える。ここでの思い出をたくさん話そう。

 そんなことを思いながら、僕はゆっくり、目を閉じました。


 ……この時フレバードが一番初めに寝付いたのですが、いびきがとてつもなくうるさくて、中々寝付けなかったのは秘密です……。




 『元の世界に戻りますか?』

  はい   ♦

  いいえ




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