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恒星未来伝―Protect Your Eterein―  作者: くろめ
孤独の科学者
21/64

EP 目覚めは夢へと進みゆく

  ☆★☆★☆


 ……ふと気がついたら、僕は見知らぬ場所にいました。

 優しい鉄色の部屋に、様々な器具が置かれていたと思います。

 この時、自分がどうしてこんな所にいるのか、どうして眠っていたのかも、判らなかった……覚えていなかったのです。

「……い、痛いっ」

 試しに身体を動かしてみましたが、痛みで動かすことができませんでした。

 でも、おかげで声が出せるということは分かりました。「声が出せるのならば、誰かを呼べば良い。」僕にとって、それが都合が良さそうだと、まず考えました。

 ……が、瞬時に気持ちは変わりました。「もし僕が、ここに囚われの身となっているとしたら。」それを考えると、安易に声を出す訳にはいかないとも思ったのです。

 暫くの間、判断に迷いましたが、わずかに動く首を使い、自分の身体を見て、意思は一方に動きました。

「包帯だ……」

 そう、手当がされていたのです。傷があるであろう場所には全て、薬が塗付されていたり、テーピングが施されていたのです。

 世に言う「悪心」を持つ者が、このように護ってくださるはずがないと、そう考えたのです。

 相手は信頼できる人だ。僕はそう確信しました。

「誰か、誰かいらっしゃいますか?」

 そうと分かれば話は早いのです。意識するよりも直ぐに、声が出てしまいました。(恥ずかしながら……。)

 一呼吸置いた辺りで、部屋の扉が開く音がしました。

「目覚めたかい?」

 部屋の隅から、優しい声で、問われました。ああ、間違いない、自分は助けられたのです!

「……貴方が、助けてくださったんですね?」

 ただただ、嬉しかったのです。見ず知らずの輩を、わざわざ看護してくださるなんて。

「——ってみよ……助ける? まさかぁ」

「……へ?」

「今から君を、くまなく調べようとしているんだよー?」

 意味が解らず、部屋を見回し仰天しました。


 この部屋、解剖室じゃないですか。


 絶望の淵に叩き落とされた感覚でした。

「嫌あああああやめてくださっあ、僕は食べても美味しくないのですっ!! 確かに髪は緑ですけど、お野菜みたいに健康的になれませんからぁぁああああ」

 必死に命乞いをしていたと思います。涙まで流していたかもしれません。今思えば、とても馬鹿げていることですが……。

「嘘だよ嘘!! ごめん、ごめんって!」

「いやあああああああああああ」

「暴れるなっっあーばーれーるーなー!!!」

 必死に抑えられました。僕よりも、少しだけ小さな手で。

 がむしゃらに身体を動かせたのは、命の危機を感じていたから、なのかもしれません。

 「嘘」という言葉を信じるのにも、少し時間がかかりました。なんせ、一瞬前に裏切られたばかりなのですから、当然です。

「……嘘、なのですか?」

「ああ、すまんね、部屋の空きがなかっただけなんだ」

「……嘘は、嫌いなのです」

 涙目で、じっとその白衣の男……いや、少年を睨みつけました。そしておや、気づいてしまいました。少年は、僕よりも背丈が低かったのです。正直、驚きました。そしてそれと同時に、恥ずかしさもふつふつと、身体全体に沸きあがってました。

「君については気になることが沢山ある。だが、今は傷だらけだ。事実、動くこともままならないだろう? 今はゆっくり休んでいなさい。ここに居れば、安心だ」

 護っていてくださったのは、事実のようです。でも、一体何から……。僕に傷を負わせた、「加害者」がどこかに居る。そういうことなのでしょうか。

 ……全く思い出せませんでした。

「あの……」

「——なのだろ……ん、どうしたんだい」

「何か、知っているのでしょうか」

 対して小さな研究者さんは、複雑そうな顔をしてしまいました。何かお気に障ることを申していないか、ちょっぴり不安になってしまいました。

「私は何も知らないんだがね」

 話を聞くと、研究者さんは、僕が空から降ってきた時、身体中に怪我があったから手当てをしただけだと仰ったのです。

「逆に、君は何も覚えていないのかい」

 彼に問いかけられて、思い返してみました。

 この時、住所やお仕事などの身分を明らかにできることが、名前以外に全く思い出せなかったのです。あまりに不可思議なことでした。とても戸惑いました……。

「名前ぐらいしか……」

 そう言って落胆していた時です。研究者さんは、僕の肩に手をポンと置きました。一瞬ズキリと痛みましたが、それよりも、研究者さんの手平から伝わってくる体温が、僕の心を安らげてくださったのを、良く覚えています。

「名前を覚えているんだろう? それ以上に幸せなことはないだろう」

 彼は、とても優しい笑顔でした。その笑顔を見ていると、とても気持ちが和らいだのです。落ち着くというよりも、全てが救われたような気持ちにすら、なりました。

「私はこの施設で研究をしている『朝倉(アサクラ) 智哉(トモヤ)』だ。 ……君は、何という名前なのかな?」

 この名前に、心の奥底で何かが引っかかったような気がしました。でも、何も思い出すことはできませんでした。

「僕は……アルトリア、なのです」

「……そうか、しっかり言えるんだね。 ……自分の名前は大切にしなさい、アルト」

 いきなり、あだ名を付けてもらえたのです。ちょっと嬉しい……。

「さあ、心も落ち着かんだろう。今日はゆっくり休みなさい。後で軽いものではあるが、食事を持ってこよう」

 「はい」と応えると、朝倉さんは出口へと向かって行きました。

「あのっ」

「……お、どうしたんだい」

「……えっと、ありがとうございます、なのです」

「礼儀正しいねぇ。礼には及ばんよ。私は私にとっての善を貫くだけなのだから」

 そう言うと、お部屋をあとにしました。

 僕は、この優しいお言葉で、朝倉さんがとても素晴らしいお方だと感じたのです。

 小さなお身体なのに、とても寛大な心を持たれている。その不思議なギャップのような何かに、僕は魅了されていました。

「……何か、お手伝いをしたいのです」

 ポツリと小さな声で呟きました。自分には、出来ることは少ないかもしれない。でも、何か力になることができれば嬉しいと、思ったのです。

 でも、今は、眠るのです。身体を休めて、一日でも早く、治すのです。

 お手伝いが出来る日が来るのを信じて、僕は目を閉じました。

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