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恒星未来伝―Protect Your Eterein―  作者: くろめ
孤独の科学者
20/64

その4 出会いは夢へと進みゆく③

 次に私は、先ほどの波長計の隣に設置された「通信機」を調べた。

 この通信機も先ほどの波長計と同様、単純なものではない。これは「別の星との通信機」だ。例えば、他の星が電波を送ってきたとするならば、その電波を受信し、ライブカメラがあれば映像と共に。無ければ音声のみで交信できるのである。現代で言うところの、携帯電話のそれに近い。

 別の星というと、距離による通信のズレが危惧されるだろう。だが、同時期に開発した「空間捻化通信技術≪電波ブースター≫」によって、相手方に送る分には、何ら時間も手間もかからないようになっている。

 このブースターは名前の通り、空間の一部を歪めて通信する技術である。話すのは単純だが、原理は小難しい。ゆえに、初めは使用するのが難しく、理解に苦しんだものである。だが試行錯誤の末、不安定ながら制御させることができたのだった。さすが私だ。

 「送る分には」と言ったが、送りつけてくる側も馬鹿ではないはず。恐らく同じような、もしくはもっと賢い技術を持って、通信を行ってくるだろう。それにより、電波送信によるタイム・ラグはカンマ数秒まで落とし込むことが可能であろうと推測できる。


 ……だが、私のこのブースターには大きな欠点があった。


 ……私はこの通信技術の全てを制御できている訳ではないのだ。例えば、何かしらの条件が加わってしまい、空間の捻れが強くなりすぎてしまったとすれば、通信が滞ってしまったり、何かしらの障害が発生することは間違いない。その点で言えば、少々不便なのかもしれない。

 恐らく、この広大な宇宙には、私より遥かに頭のキレる科学者はごまんと居ることであろう。その者たちの開発した通信機は、この装置以上の性能を誇っていることだろう。そして、その「彼ら」が造った機械というのも、非常に興味深い。もし、許されるのならば、宇宙社会の常識として認められるのならば見てみたいものだ。

 しかし、それだけで終わるつもりなど微塵も無い。私はそんな「彼ら」すらも凌駕した「何か」を知りたい。そのためにも、「彼ら」の知能や技量を知りたいのだ。

 それも加えられてか、あの少年の存在があまりにも輝かしく映るのだ。あの少年が異星人だとすれば、私の夢の全てが叶うかもしれないのだ。他の異星人にもコンタクトを取ることが可能となるかもしれないのだ。これほど喜ばしいことなど、他にあるだろうか。

 異星人一人と対話を行えるだけでも、十二分に感動的だというのに、それを更に上回るというのは……。想像を絶するほどのことだ。この私ですら、何も分からない。

 ……と、ここまで、いかにも「彼ら」が存在するものとして語ってきたが、これら全てが私の空虚な妄想にすぎないことは、重々理解しているつもりだ。だが、いち科学者として、信じざるを得ないのだ。

 浪漫と言った方が素敵に捉えられるだろうか。

 何にせよ、緑髪の少年に興味があることに変わりはない。仮に彼が異星人でなかったとしても、だ。

 例えばこの少年は、一般人であり、落下地点に偶然居合わせた生身の人間だったならば……? 単なる予測にすぎないが、あのように強力な、光る物体を受けて尚、まだ生きている……というこの事実が残ることになる。

 これだけでも研究の対象として、是非残ってもらいたいのだ。

 もしも、新種の人類であったとしても、私は驚かない。進化というのは気付いた頃に起きているもの。それならそれで美味しい発見だ。

 様々な想像で思わず笑顔が綻んだ。この時、誰かに気持ち悪がられようが、全く構わなかったかもしれない。


 そして間も無く、突然のことだった。

 楽しい世界に浸っていた私であるが、ここで、予想だにしないことが起きた。この先のことは、「今でも」鮮明に覚えている。



『……ピ……ピ……ピ……ピ…ピ…」


 ……波長計が、音を立て始めた。

 見ると、小さく、それでいて早く脈打つ波の連鎖が、発生していたのだ。

 その脈は正に、鼓動そのものだった。

 どうすべきかを判断できず、ただただ胸だけが騒ぎ出している。

 真っ白になったのは、この時が初めてだった。これだけでも頭や心は混乱を招いていた。

 だが、世界は、これだけに留まることを知らなかった。


 玄関から、何かを抱えたような、重たく、苦しげなノックが響き渡ってきた。

「助けてください……」

 弱々しい、女性の声だ。

 この声が聞こえた瞬間、心と波は一層大きく脈打った。

「……何が、何が起きる」

 私はすぐさま扉の目の前に立った。

 この時、世界は私に、「運命」の二文字を背負わせたのだろうか。いや違う。もっと、複雑に絡み合ったものが、私に向かってきたのだ。


 私は意を決して、運命の扉を開いた。

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