その3 説明口調である
夜が明けて、陽は昇っていく。そして徐々に沈みゆく茜色を見ながら、一日を終える。更に言えば、夜が明け、そして陽が昇ることで我々は目覚める。これは世界、そして人類に存在する一種のルールだ。
しかし残念ながら、私はこのルールを守れてはいない。何故なら研究に没頭するあまり、「時」という概念を忘れて過ごすためである。昼に寝て、夜に研究をすること。それは最近では、至極当たり前の行いとなっていた。
だが、今日はこれとは少し違う「規則破り」をしている。一見同じ「没頭」であるが、研究とは少し違う。
現在時刻は昼を回った辺りか。
隣の空き部屋に用意された解剖用のベッド-別に解剖を行う気は更々無いが-に気絶し眠る、私より少し背の高い緑髪の少年。気を失っていようと分かるその優しそうな顔立ちに、私は魅了された。彼は本当に異星人なのだろうか。発光物体の正体なのか。などと想像が膨らむ。
そして同時に、彼の生い立ちに興味を持った。生命に興味を持った。更には性格にすら興味を持った。
その興味が私の気持ちを高ぶらせ、緊張させ、興奮させた。
この「没頭」により、私は眠ることなど出来なくなった。
今の今まで何をすることなく、ただひたすらに所内をグルグルと歩き回っているのであった。
「早く目覚めないだろうか……」
思いが漏れ出してしまう。彼は恐らく、いやほぼ確実に異星人であろう。ゆえに回復力も何もかもが、この星の民とは異なっているはずなのだ。その速度の差異など、私には分からない。だが、いち早く彼が目覚め、そして話を聞ける日が来ることを、心から祈っていた。
……考えてばかりでは仕方がない。そう割り切るのには、長い時間を要した。結局、私は研究者である。いつまでも眠る姿を見ている訳にはいかないのだ。自身の研究を進める時間を確保しなくてはならない。そんな義務感が肥大するのを、待つしかなかった。
すぅ……と深呼吸をし、複雑な気持ちを抑える……。
これを繰り返し、気分と落ち着きを、少しだけ取り戻した。
その後、ゲームセンターにあるアーケードゲームぐらいだろうか、私のような高身長(抱きやすい135センチ)をも軽く凌駕する、ビッグな機械(170センチ)とにらみ合う。外面や設計はガタガタであるが、しっかりと起動し、画面も映る。これは、私が初めて開発した、完全にオリジナルの波長計だ。
波長計、というと想像がし辛いだろうか。
イメージとしては、病院で使われる「心電図モニター」のそれに近いだろうか。
……あくまで反応すればの話であるが。
この機械は、一般的には、反応を示すことはない。
反応に至るのは、「この世界が何か重大な方向へ向かっている時」だと考えて、一切の差し支えはない。その変化が大ければ大きいほど、波の触れ幅も大きくなる。
付けても無反応しか出たことのないこの機械であるが、今日は何か胸騒ぎがしていた。いや、そんなまさか。彼が来たことによって、しかもそれだけで、触れ幅が振れるなんてことは流石に無いだろう。
考えを巡らせながら、恐る恐ると電源を入れた。
「…………」
……無反応だった。
何だか安心したような、残念なような。
「重大な局面とは、いつになったら来るのだろう。仮に、来たのが今だったとしたら?」
反応がない事に、少々拍子が抜けてしまった。だが、今何かが起きたとしても、対応ができなかっただろう……と、私は癖の強く、長い髪を優しく掻いた。




