表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恒星未来伝―Protect Your Eterein―  作者: くろめ
家の火元にご用心
11/64

その9-B 予言の少女

 数分ほど経過した。先ほどから玄関の付近で、そわそわと腕を組んで、うろうろとする。窓は既に音無しく、動くことはない。それが余計に、僕を不安な気持ちにさせた。

もし、この火災がきっかけで、ベガを失うことになったならば。


 ……それを考えるだけで、胸が苦しくなってくる。

 僕の力では、ベガを助けに行くことはできない。僕はただ、予知夢を見るだけだから。僕も行ったところで、足手まといになるだけだ。そんな自分自身に苛立ちと、憤りすらも感じる。

 ベガは出会った日からずっと、『自らの命より、他人の命を優先する』という意思を持ち続けている。例え他人であっても、人の命に関わることを聞くと、黙ってはいられなくなる。だから僕は、その度にベガを止めていた。なのに今日は。

「もしベガに何かあったら……」

 室内に力無き声が溶けて行く。

 信じているとはいえ、もしものことだってある。最悪の事態に陥ってしまったら、自分はどうすればいいのか。それが分からない。


「ある時の夜天流衣は言った。自らが見た夢を、現実のものにしたくは無い、と」


 一人の空間では、有るはずのない返事が聞こえてくる。


 僕は、この声を知っている。気づいたら側にいて、様々な助言をくれる。だが、再び気づいたらその場にいない。

 そんな神出鬼没な存在の「音咲オトサキ 鈴香スズカ」。この声は彼女で間違いは無い。

 咄嗟に後ろを振り向く。そこには、神々しさすら感じさせる姿。初めて会った時から何一つ変わっていない、そのサラサラなロングヘアー。白いベール。白人ではないかと思うほどの、薄い肌。僕らと同じほどの背丈をもった、その身体。誇張など抜きに、現代に生きる天使のような容姿をした、金髪少女がそこにいる。

 彼女は、突然僕の前に現れ、そして、気づけば気体のように消えていく。そのため、僕でもその正体や思考、企みや考えは、何一つとして理解していない。

「鈴香……どうしてここに」

「貴方たちが心配になったの。貴方の心が不安定になっているし、あの子は炎の中に飛び込んで行くし」

「……ベガを信じてる。でも、不安なんだ」

「大丈夫。今回の事件では、未来は消えたりしない」

 鈴香はふわりと、僕の頭を撫でる。

 この暖かさは、僕を安心させてくれる。鈴香は、僕やベガが苦しんでいたり、悩んでいたりしたときに、神出鬼没に表れて、助言をしてくれる。それにはいつも助けられていて、そして、支えられてきた。

「今から数分が経過した頃、再び速報が流れるはず。それをしっかり見て」

 ハタから聞いたら意味の分からない言いまわしが、先ほどから続いているが、要するに彼女もまた、僕と同じで「予知」ができるようだ。

 ただ、僕のとは違い、寝なくとも予言をすることができる。パッと言い当てる。何だか超能力者みたいだと、今でも思う。

 僕の予知が夢でかつ、当たりハズレがあるのに対し、彼女の予知はほぼ確実だ。彼女の予知が外れたことは、今までにないのだ。

 鈴香にわかったと伝え、テレビの電源をつけると、男性リポーターが無我夢中で話していた。

『えー、先ほど不思議な現象が起きました。何やら高速で動く何かが、炎の勢いを増す民家の中に入っていきました。えー、また、その物体が、人間のように見えたという話も出ていたんですが、人間だとしたら在り得ないスピードであったので、実際の所、よく分かっていません』

「これ、もしかして」

「そう、その通りよ。でも大丈夫」

 鈴香は断言した。全員助かると言い切ったのだ。その一言を述べた瞬間、事態は好転する。

『あ! 見てください、誰かが出てきました! 良く見ると、赤髪、赤髪の中学生の女の子……でしょうか? 女の子です!』

「ベガっ!」

 その後も男性リポーターの熱い実況は続く。

『なんとッよく見ると彼女は老人を抱えています。それだけではありません、赤ん坊やその母親もいます!! 恐るべきことに、疾風の如く現れた謎の少女。彼女のおかげで三つの尊い命が、救われたのです! ああ、なんと、他の巻き込まれた民家にも入って行ったかと思えば、既に逃げ遅れた人を抱えて出てきています! 速い、速すぎるぞ。彼女は一体何者なのでしょうか。天から舞い降りた神の使い。天使だとでもいうのでしょうかッ!』

「くっさい言いまわしね」

「そうかもね。でも……」

 確かに臭い言いまわしだけど、少なくとも僕は、情を揺するものがあると感じた。

「僕、人の感情に入り込み易いみたい……」


炎の中苦しんでいた人たち。ベガの苦労。そして、リポーターの言い回し。これらが脳から目元で複雑に絡み合い、結びつき、そして、ハラハラと落ちていく。

「相手の意見や言葉、更には思いを真摯に受け止められる。誰が否定しようと、それがあなたの素晴らしい所」

 また、優しく頭を撫でられる。照れくささで、顔が赤らんでしまった。鈴香を見ると、優しく、静かな、それでいて暖かい笑顔を浮かべていた。

 この後すぐに、これらの民家は倒壊した。後少しでも遅かったら、被害に遭った家族は助からなかったことだろう。それと同時に、ベガも……。

 僕は心の底からベガを信じていた。そして同時に、被害を少しでも減らそう。被害に遭う人を、少しでも減らそうとしたのだ。きっと、ベガを止めなかった理由もこれだろう。

 そして今、夢は現実になってしまった。けれど、その中でも最悪の末路は、防ぐことができたのではないだろうか。

 ……でも、彼に向けて言いたい。

「命は大切にしてほしいな」

「そうね、簡単に死んじゃったら、私も見に来た意味がないから」

 なにそれと、僕は笑う。

「ふふ、テレビを見て」

 普段あまり表情を出さない鈴香。彼女が笑い出すのは珍しいことだ。

 驚きつつも、僕も何事かとテレビに目を向ける。

「……ありゃあー」

 ベガが、その場に来ていた取材陣に取り囲まれていた。

『住人を救ったことに対して、何か一言!!』

『えー、っと、な……なんだこれ、カメラ!?』

 テレビカメラを見たことがないベガにとっては、新鮮なものだろう。

『先ほどの高速に映った物体は、あなたですか!?』

『え、ちょ……』

『どうして炎の中に入っていったんですか?』

『なんで人だかりが出来てるんだ!?』

 質問に答える余裕が、ベガには無い様子。

『かわいいね、お茶しようよ』

『ごめん、後にしてっ!』

『ワサフィ新聞ですけど、貴方の事を記事にしていいですか?』

『普段から人を助けてるんですか!?』

『話題の研究所の方ですか?』

『身体を強化すると言われる万能細胞、SQAP細胞はありますか!?』

 あまりに意味の分からない質問になった辺りで、ベガは辛そうな声を出し始めた。

『ああ、ぅぅ……るい、助けてぇ……』

 あまりにも多い質問攻め(責め)に、混乱してしまったようだ。ちょっと可哀想だけど、普段は見ることのできない、ベガの可愛らしい部分を垣間見ることができた。

「帰りは遅くなりそうだね」

「ふふ、そうね」

 鈴香の笑いの目線が、テレビとは別の方向にもあった気がするけれど、きっと気のせいだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ