その9-A 救出大作戦
★☆★
触れ行く風が、心地いい。どうしてだろう。いつも不思議なのだけれど、何故だか、寒いとも、痛いとも思わない。自分の、オイラ自身の、髪や肌に強く撃たるわけでもなく、撫でるように過ぎ去っていく。自分自身の方が速いからなのか、むしろ自分自身が作り出した風の方が、遥かに大きいような気がしないでもない。
これから助けるべき住宅の場所位置は、大まかながらテレビの中で取り上げられていた。それで十分だ。町まで把握できているのだから、かかっても一、二分だろう。
視覚による情報は、音速だろうとしっかりと取り入れられる。「朝倉研」のカメラにある超連写機能みたいな雰囲気で、全て脳に送り込まれているようだ。だから、たとえ数メートル先に人間が居ようと、軽々と避けることができる。そんな自分を見て、皆驚愕とした表情でこちらを見てくるらしいけどな(ルイ談)。オイラは後ろに目があるわけじゃないし、そんなことは分からない。
数十秒だ。家屋の一つや二つに住む住人なら、それだけの時間があれば、助け出すことができる。ルイは、オイラを信頼して、出ていくことを許してくれた。だからこそ、その期待には応えねば。助け出すだけじゃない。その火元の根本理由まで見つけ出して、もし仮に、それが放火だったとするなら、二度とそんな悪さをしないように、後悔させてやろう。
――と。そろそろ到着か。止まる余裕なんてないから、このまま一気にいくぞ……!
沢山の人が近くにいるけれど、スキマがある。あそこをどうにか……。
……よし、何とか抜けた。
熱気が凄まじいな。炎ってこんなに熱かったかな。
外がこんなのだから、室内はもっと酷いはずだ、心して入らないと。
周りの消防隊やら警官は何を思うんだろうな。後は、テレビ局の人たち。
あまり時間はかけたくないし、考えるのはやめよう。
突入だ。もう後戻りはできない。絶対に全員を助け出すんだ。とにかく時間だ。時間がない。とにかく色んな場所を探すんだ。
そうして、一人、二人と逃げ遅れた人を見つけ、助け出していく。
「あんた、一体何者……?」
「天使様だ……」
逃げ遅れた老夫婦に言われるけれど、こちらには名乗るつもりはないから、「絶対に外に連れていきます」とだけ言って、あとは特に何も言わないでおこう。
よし、二人とも外に出したぞ。
「この中にまだ残っている人はいますか」
「こっちにはいません。助けてくれてありがとうございます」
「いえいえ。では、あと二つ残っていますので」
あと二つの民家も、決して犠牲は出さない。助け出す。




