テイク1 月の来訪者(8)
「オ、オレの『ムコ』!? 『ヨメ』じゃーなくって?」
「そーやでルルナ。子孫のウチが存在しとるっちゅーコトは……、そーゆーコトやろ?」
「そそそそりゃ、そーだけど、よ……っ」
オレはその意味を考え、耳まで赤くなった。
こ、この、中身が完全に男なオレが、将来どっかの野郎と……?
オレは、ソイツの、おおお『おヨメさん』、に……?
「キモい。男どうしみたいで、吐き気がする」
ひとによって愛の形はそれぞれかもしんねーが、オレにはムリだ。
リリオは、ふーやれやれといった感じで、
「こりゃ相当重症やなー。どーしたもんかのー?」
「何だオマエ、もしかしてわざわざ未来の世界から、おヨメに行き遅れちまいそうなオレの婚活をヘルプしにでも来たのか? だったら大きなお世話だ、オレはまだ高校生だぞ?」
「安心せーや。ウチはそんなお節介やあらへんで! まあソレはソレでごっつ心配やけど」
「ウルせえ! じゃーテメーは、ウサ耳たちに追われて逃げて来ただけだっつーのか? ——そんなワケ、ねーだろ?」
するとリリオは、その月のように輝く双眸をすがめ、
「鋭いな、ルルナ。さすがはウチのご先祖や。ほな教えたるで。ウチがこの時代の地球へと来た、ホントの目的は——」
ごくり。
「——ルルナを男の子へと変えてやるコトや!」
「えええええぇぇぇッ!?」
そ、そんなコトができるのかッ? いや未来ならカンタンかもしれねえ。これで晴れてオレは星伽と? ……いやいやいや、そんなカンタンに女の子であるコトを捨てちまっていーのかオレ? ソレに星伽にはどーやら……………………好きな、ヤツが——
「げひゃひゃひゃひゃッ! 何マジになっとんねん? ジョーダンに決まっとるうげげぐげッ!?」
「絞め殺す!」
「タップタップ! ……ふー。暴力はアカンゆーとるやろ? 犯罪やで?」
「オマエが言うな!」
「じゃー気を取り直して。ウチの——『ザ・ムーンテイカー』の今回のターゲットは——」
再びごくり。次もボケたらマジで殺す。話が進まねえ。
「——全宇宙、全時空へと散った、超高効率エナジーの塊——秘宝『満月の涙』や」
「——————!?」
「ソレは『大消去』の際に、月の磁場が太陽フレアの磁気嵐と光子結合を起こして産みだされ、すぐにバラバラになって時空の彼方へ飛び散ったそーなんやが——そのカケラのひとつが、この時代、このあたりに存在するっちゅう情報を得たんや。ま、その情報はウサ公たちも掴んどったみたいやから、さっきのようなムダなドンパチをするハメになった——とゆーワケや」
「……そーゆーコトか」
「そーや。そいで、せっかくだから近所に住んどるご先祖にも律儀にアイサツして、ご協力をあおごーってゆー、完っ璧な計画や」
なんだか——ワクワクしてきちまった。オレはソレ系の話、正直大好きだ。だが、
「で、オレにドロボーの片棒を担げっつーワケか。……もし、イヤだと言ったら?」
「ええぇー!? ココまで来てソレはありえへんで! ドロボーやなくってトレジャーハンティングやし、ウチら家族やろ? ……まーでも、コレを見たら断れへんで。グフフフフ♪」
「はあ?」
するとリリオは、不敵な笑みと共に暗い布団の中でサインコードを切り、両手の間に光る立体マップを出現させ、
「コレがお宝のありかを示した地図や!」
「——星伽の家じゃねえかッ!」
——すぱーん! と、悪い子孫をシバくオレ。
「いだあッ!? や、やっぱそーなんか? おトモダチのお家やったら話が早いで! 一緒に忍び込んで、中を案内……」
「断る! どーしてオレが星伽ん家に押し入るコソドロなんかの手引きを——」
「グフフ……。えーんか? えーのんか? セイカにバラしてまうで? ——ルルナの秘密のお宝を!」
「——な!?」
なんて卑劣な!
コイツはやっぱり大悪党だ! でもオレは、決してそんな恐喝に——
「しょ、しょーがねーなぁ。カワイイ子孫の頼みだ。……こ、今回だけだぞっ?」
「わーい! さすがはウチの頼もしいご先祖さま! 好っきや——ッ!」
「コ、コラ! マッパで抱きつくなって! わあ!? ホッペにキスすんなあああぁぁッ!? また、鼻血がぁ——」
これが、オレとリリオの初夜——もとい、オレが自分の七代後の子孫——『リリオ・ザ・ムーンテイカー』と初めて出会った、始まりの夜の物語だった。
次回、新章『お嬢さまの好きなひと』突入だよっ!