テイク1 月の来訪者(6)
——かぽーん。
「確かに……そっくりだが……」
「せやろ?」
オレと、自称七代後の子孫の少女は、狭いバスタブでぎゅうぎゅうになって、差し向かいにお湯に浸かっていた。お、女の子どうしだから問題ない……よなっ?
「あ! コラ、そのムダにデカい胸を湯船にゼンブ浸けるんじゃねえッ! お湯があふれちまうだろ!」
「なはははは! ソレはお互いさまやろ?」
確かに、コイツの体型はホントにオレとそっくりだ。身長も同じ。
脱衣所で、試しにオレの下着の上だけコイツに着けさせてみたら、ピッタリだった。
まさか、スリーサイズも体重も、全部同じなんじゃねーだろーな? 何もそんなトコ、七代も遺伝しなくっても……。
ちなみにオレはソレを直視できない。オレの清純派の好みとは違うとはいえ……、鼻血でも出たら大変だ。
「ほな、お尻をコッチへ向けろや」
「おう、お尻だな……て!? ななななんだソリャぁ!? ——————あっ」
動揺していたオレはリリオに捕まり、あっさりと湯船の中で身体の向きを反転させられた。
「この三日月型の蒙古斑! コレが動かぬ証拠やで!」
「み、みみみ見たなあっ!? 星伽にもまだ見せたコトねーのにっ!」
オレの秘密その二。下着や水着でギリギリ隠れる位置にある、三日月型の蒙古斑。
知ったなキサマぁ!
「安心せーや、ウチもやで」
ぷりっと、自分もコッチにソレを向けてオレのと合わせる、自称子孫。
「コレで小さい頃、どんだけイジめられたか……えぐえぐ」
「オレのせいかよッ!? って、オマエがイジめられるよーなタマか?」
「バレたか。ウチをアホにしたヤツらは、全員時空の彼方へ跳ばしたったで」
「やり過ぎだろ!? ……ってオマエ、やっぱタイムスリップとかできちまうのか?」
未来から来たという少女は、ニンマリとした笑みをその薄桃色の唇に浮かべ、
「できるで。ムッチャ得意や。そもそも、時空を超える《時間◯跳躍》をはじめとした《マキナ》の基礎原理自体、ウチのじーちゃんが異世界からテイクしてきたモンやからな」
……またブッ飛んだ話を聞いちまった。
「ちなみにじーちゃんもルルナの子孫やで♪」
「……ふ、ふーん。それで、《マキ》……何だ?」
「チョイ説明長くなるで。のぼせる前に、身体洗おーや」
「あ、ああ。そーだな」
そうしてオレとリリオはバスタブから出て、並んでごしごしと身体を洗い始めた
。
「《マキナ》っつーのはな、この時代風に言うと——ケータイとかのデジタル機器のアプリみたいなモンや。ウチの時代の、超々テクノロジーを利用したな。指でいろんなサインコードを切るコトによって起動するんや。さっき使った《三日月◯剣》や《空の◯翼》、《不可視◯障壁》も、みんな《マキナ》やで」
「ケータイアプリみたいって……、そんなカンタンなモンなのか?」
リリオは、その抑揚のカタマリのような肢体を泡々にしながら、
「カンタンちゃうな。使える資質のある人間は限られとるし、上級の《マキナ》を使えるヤツはめっちゃ少ないでー。あと、ウチの《三日月◯剣》みたいな《オリジナル・マキナ》や、非合法の《裏マキナ》なんてレアなモンもあるな」
「非合法って……。そーいや、オマエはあの子ウサギのお巡りさんたちが言ってたとーり、ドロボーなのかよ!? 今までのオマエの行動パターンは、まんまソレだぞ?」
「……ルルナ。チョイ、背中洗ってくれや」
「お、おう」
うわ。肌、ツルッツル。
「お返しやで」
「おう、サンキュー……うはははは! くすぐった……って!? ドコ使って洗ってんだ……あっ! コ、コラ! ソコは自分で洗うから! ひうぅっ!?」
もー実況できねえ。放送事故だ! 女の子どうし、女の子どうし……。
「……ウチな、実は——『時空トレジャーハンター』なんや。ドロボーちゃうで」
ようやくその悪い手を止め、耳もとでささやくリリオ。
「な、なんだそーか。映画みたいでカッコイーな! って、言い方変えただけじゃねーか!」
「えらい違いやで。ウチは主に、持ち主不明、もしくは天然のお宝や、不当な手段で得られた財宝を狙っとるんや。ほんとうの善人や、弱い者からパチったコトはあらへんで!」
「ホントか? じゃー何で警察から追っかけまくられてんだよ?」
「そりゃまー……。不法な時間跳躍をして、悪い金持ちからはさんざんギッたからやな。時代を問わず」
「やっぱドロボーじゃねーかよ……」
「なはははは。まあ、そー言うなや」
金銀ミックスの宝石のような髪をかきあげる、自称トレジャーハンターの少女。
「あールルナ。もうひとつ。ウチがルルナの子孫だってゆー決定的な証拠があるんやで」
「何だ? ——————あ」
髪留めを外すムーンテイカー。するとソレは、するすると小さくなり———
「コレは、ウチの《マキナイト・コア》——『ザ・ムーン』や。《マキナ》を行使するための、ハードウェアみたいなモンやな。じーちゃんにそう改造してもらったんやけど、もとはその大きさのタダのペンダントやった。そう——」
「オレの——ママの形見、コレと同じ——————」
オレは、首からかけたままのペンダントを、リリオのものと照らし合わせる。
——全く、同じ——
「あ。あああああああああ…………」
無意識に、リリオに抱きつく。
「わッ!? 何や、やっとウチを子孫として認知してくれたんか? おーよしよし、カワイイご先祖やのう。って、うわ————ッ!?」
——ブバッ!
ついにオレの鼻腔の粘膜がリミットをむかえ、勢いよく鼻血が吹きだした。