テイク1 月の来訪者(4)
目を開けると——お子さまウサギがいた道路の真ん中が、小さなクレーターに変わっている。その中心には、屹立するムーンテイカーの姿が。
強ッ! オレが助ける必要あったのか? いやソレより、
「あああ……オレと星伽の通学路が……。オマエらムチャクチャだな! って、お子さまウサギはドコ行った!?」
「うぐぐぐぐっ! ……あ痛あああぁぁっ!? タ、タコノコ……っ?」
吹き飛ばされた先、反対側の竹林の中で。ツインテールがちょっとアフロ気味になったハーレクイーンが、お尻を押さえてぴょんっと跳び上がった。同情。でも無事みたいだ。
「こーなったら、コッチも切り札なんだからっ!」
そう宣言したお子さまウサギ大は、コスチュームのパ●ツ部分に手を突っ込んで——ニンジンを一本取り出した。
「ポリポリポリ……っ。美味しいっ♪」
ああ。お食事シーンがホントに小動物みたいでカワイイなぁ……いや!
「ちょっと待てオマエ! ソレどっから出した!?」
「むっ? ヘンな想像しないでよねこのエロゴリラっ! タイホしちゃうよっ? コレは《時空倉庫》と言ってねっ、四次元空間にストックしていた備品を取り出しただけだよっ!」
「ダレがエロゴリラだ!? って、四次元パン●???」
すまん。もーついていけねえ。
「えーから早くしろや。オヤツはもう食い終わったんか?」
退屈そうに耳をほじる関西弁美少女。態度悪ッ。
「ナメないでよねっ! 元気いっぱい、ヴァイタル・エナジー充填完了! ——《空の:翼》!」
「そーやな、ココは狭いし、空でやっか! ——《空の◯翼》!」
——ヴヴヴンッ!
素早く指で同じサインを形成した両者の背中に——光り輝く翼が顕現した。
枚数は、どちらも八枚。マジ? コイツら飛べちゃうの!?
「オイ、オマエら! 飛んでいっちまう前に、ブッ壊した道路を何とかしやがれ!」
「ん……っ!? そうねっ。ムーンテイカーっ、あなたが壊したんでしょっ? 何とかしなさいっ!」
「何でやねん。ソンなんは公務員のお仕事やろ? オマエがやれや!」
「ぐむむむ……っ! 仕方がないねっ。コラっ、レッキス起きなさいっ!」
ちょーど足下に転がっていた小さいほうを、げしげしと蹴るハーレクイーン。
「むにゃ……? 何ですかぴょんハーレクイーンさま?」
「この破壊後を修復しときなさいっ! 以上っ!」
「わ、わかりましたぴょんっ!」
飛び起きて、律儀に敬礼するウサ耳小。ドコの世界にもパワハラってあるんだなぁ。
「じゃあ決着を付けるよっ! 『ザ・ムーンテイカー』っ! ——《不可視:障壁》!」
「いつもどーり、返り討ちにして時空の彼方へ跳ばしたるで! ——《不可視◯障壁》!」
「なッ!? き、消えやがった……ッ!」
もう、何でもアリみたいだ。そして間もなく星が瞬く空の上で、両者の姿は見えないが、何かが激突する激しい衝撃音が繰り返された。あのー、ムッチャ音モレしてますけど?
そしてその音は、どんどんと遠ざかっていく。
「むにゃむにゃ……。えーと、《環境・修復》……」
目をこすりながら、反対の手でサインを形成し、壊れた道路や地面を修復するウサ耳小——レッキス。
律儀だなぁ。あ、こんなに小さいのに、けっこー胸がある……。減点だ。
「オマエら……何モンなんだ? さっき、月の警察とか何とか……」
オレの問いに、水色の髪のレッキスは、そのポニーテールをびくっと振るわせ、
「か、過去の民間人には、教えるわけにはいかないぴょんっ! ……でもあとでおとなしくハーレクイーンさまに記憶を消してもらうなら、ちょっとだけ教えてもいーぴょん」
「怖いコト言うな! あ……さっきはブッ飛ばしちまって悪かったな。痛くないか?」
レッキスは不思議そうにこちらを見つめ……ぽっ、と、その頬が赤くなる。あれ?
「へ、へへへいきだぴょんっ! レッキスたちは、この時代より二百年後の月面から、大泥棒の『ザ・ムーンテイカー』を追って——」
——パッパアアアァァ————!
クルマのクラクション。あ、向こうからやって来るのは、星伽ん家のリムジンっぽい。
「! とりあえずココは撤収して、ハーレクイーンさまに加勢だぴょん! このことは記憶を消されるまで、ダレにも言うなぴょん! ——《空の・翼》&《不可視・障壁》!」
「ムチャクチャ言うな! オイ、待ちやがれ——」
ちびウサのレッキスのほうも、四枚の翼を出現させながら姿を消してしまった。