テイク1 月の来訪者(3)
「がっ!?」
「ぴょんっ!?」
もつれて吹っ飛ぶウサ耳少女二羽。女の子相手に暴力を振るうのは趣味じゃねーが、そもそも人間かどーかもわかんねーし、正当防衛だ。あと、お姫さまを救うため……か?
あ。もしかしてオレ、もう敵の幹部倒しちゃった?
「オイ、ダイジョーブか?」
ちょっぴり得意げに振り向くオレに対し、三日月お姫さまは、
「……ナンかよこせや」
「いや、ソレほどでもねえ……は?」
「聞こえんかったか? ムッチャハラ減ったで。ナンか食いモンよこせや」
「…………………………」
何このギャップ? こんな顔してて、関西弁——ってゆーと語弊があって関西圏の皆さまからタコ殴り確定なので、謹んで訂正すると、何この残念な態度?
おまけに、突き出していた左手の平がいつの間にか上を向いている。
オレは半ばゲンナリしながら、
「あー、ちょっと待て。たしかポケットに、女の子からもらったクッキーが……」
正確に言うと、『瑠琉南さまっ! あ、あなたのファンですっ! よろしかったら召し上がってくださいっ!』って上級生に渡された手作りクッキーが、
「コレのコトかいな? 何や、えらいカワイイクッキーやな。ほな、いただくで」
いつの間にか制服スカートのポケットから抜き取られ、少女の手の平に収まっていた。しかももう、ピンク色の包み紙まではがしてある。
「あああッ!? テメーいつの間にッ?」
「むしゃむしゃ。……むぐうッ!?」
「ど、どーした!? 喉にでも詰まったか? ソレともまさか、毒が……ッ?」
「う……ウマいで。生き返ったで」
つ……疲れる。でもコレはお約束か?
「——マジで。生き返ったで」
「————!?」
急激に、少女の生気が回復した気がした。
金色の瞳は輝きを増し、髪の毛の黄金比も増えている気がする。そしてなぜだか月型の髪留めまで、もとの三日月型より少し満ちているみたいだ。
「オ、オマエ……、いったい何モンだ?」
「あぁん? ひとの名前を訊くときは、まず自分から名乗るのが礼儀やろ? ガッコーでそー習わんかったか? ドアホ」
——ぶちっ!
ムカついた。コイツ、穴が空いちまったオレのパ●ツ代、弁償させてやる!
「わかった。パン●の穴、いや耳の穴をかっぽじってよーく聞きやがれ。オレの名は——」
「『鋼鉄の瑠琉南』——本名、奈月瑠琉南。(Gカップ……ゆ、許すまじっ!)。いえ、そーゆーことねっ! 『ザ・ムーンテイカー』、あなたがこの二百年前の地球まで来たのはっ!」
「——な!」
声のしたほうを振り向くと——先ほどオレが蹴り飛ばした二羽のウサ耳少女のうち、大きいほう、ハーレなんとかだけが立ち上がっていた。
そして手の平の間に、何か3Dスクリーンのようなものを浮かべて見ている。
「コイツ、オレの蹴りをうけて……」
「『鋼鉄の瑠琉南』さんっ! なかなかいい蹴りだったわっ! あとで三倍返しねっ!」
さすがは悪の敵幹部。しかし大きいほうといっても、その身長も容姿もせいぜい中学生くらい。倒れたままの小さいほうにいたっては小学生くらいだ。
さっきはよく確認できなかったが、コッチのふたりのコスチュームもスゴい。
身長の約半分くらいの、アンテナみたいな長さのウサギ耳は言うに及ばず。
身に付けているのは、白い水着みたいなモフモフ素材の生地と、透明ビニールの組み合わせで、肌の露出大。足には、ご丁寧にも獣っぽい白のブーツ。でもなぜか、手にした白のグローブの指先は露出している。大きいほうは白地に所々黒地が混ざっており、片耳も黒だ。
極めつけに、ピンクのハートのアップリケがお尻のあたりに。
いずれにせよ、ソッチ趣向の方々にたいへん需要が高そうなカッコウだ。まあ、コレも全然オレの趣味じゃーないが。ホントに。あ、でも大きいほうの平らな胸は高ポイントだ。
そしてソイツは、そのカワイらしい赤い瞳をくりくりさせ、ピンクのツインテールをふりふりしながら、びしっと指をさし、
「時空を駆ける大泥棒——『ザ・ムーンテイカー』っ! ここで会ったが二百年目よっ! この月面時空警察『ホワイトラビッツ』のエース——ハーレクイーン三世さまの前に、おとなしくお縄になりなさいっ!」
「…………」
絶句するオレ。何かイロイロ言ったぞ今?
ドロボー? 月面? 二百年?
「フン。あいかわらずオモロイやんけ。えーんか? 見習い下僕のほうはおネンネしとるで?」
ゆっくりと立ち上がるムーン……テイカーつったっけ?
「んもうっ! ダメな娘ねっ! 帰ったらキツーくお仕置きよっ!」
失神したままのはずの小さいほう——水色ポニーテールが、びくんっ! と揺れた気がする。
「でもここまで『ヴァイタル・エナジー』を消耗させたあなたなら、あたしひとりで十分逮捕してみせちゃうんだからっ!」
「……やれるモンなら——やってみーやッ!」
——ドンッ!
地面を蹴り、月光の照らす夜空へと跳び上がるムーンテイカー。
高い! あのエロいコスチュームはパワードスーツみたいなモンなのか?
「! いつの間に回復をっ? くっ! ——《雷電:撃》っ!」
ハーレクイーン(覚えた)の両手の指が素早く動き、いくつかのサインのようなモノを形作ると——ピンク色の稲妻の弾が、数発打ち出される。さっきの雷の正体はコレか?
満月をバックに、くるくると身体を後方二回転&一回ひねり——見事な月面宙返りでソレを避けるムーンテイカー。そして、
「イキナリやけど、トドメやで。お子さまはおネンネの時間や! ——《三日月◯剣》!」
素早く指でサインを形成した左手に——巨大な、五メートルはあろうかという三日月型の光の剣が出現する。
「でかッ!?」
思わず叫ぶオレ。
「『お子さま』ってゆーな——っ! ——《雷電:剣》——最大出力っ!」
なぜかキレ気味に、ピンクの稲妻の長剣を出現させて、地上で迎え撃つお子さまウサギ大。コッチの剣はちょっと短く三、四メートルほど。ダイジョーブか?
——ガカアアアァァッッッ!!!
「うわッ!」
両者が激突した瞬間——あたりは真っ白になり、オレは反射的に目をつむった。