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ザ・ムーンテイカー!  作者: ひろつー。
34/42

  テイク8  満月の涙 (フルムーン・ティアーズ)(1)

「う……ココは?」


 ——ぴよぴよぴよぴよ。

 上空を飛ぶ、小鳥のさえずりで目をさます。

 空の色は、もう夕暮れの前。

「そーか、鉄球型の脱出用ポッドで……」


 オレとリリオは、上半分がぽっかりと空いてお椀のようになった脱出用ポッド上で、抱き合った状態で倒れていた。

 ぷかぷかと、広い池の真ん中で、波に揺られている。

 島も、塔も、その姿は跡形もない。完全に水中ヘ没したようだ。

「おいリリオ、起きやがれ! 助かったぞ! ……リリオ?」

 恒例となったリリオのデカい胸をどけながら、そのグラビア女優を超越したような身体を揺すって目覚めさせようとするが、


 ——起きない。


 その髪の色は、銀色を通り越して、白髪。月の髪留めは、線だけどころか、点のようになってしまっていた。

 激闘のあとが残るその身体は、力なくぐったりとしている。ただそのムーンクロスだけが、自動再生機能がついているのか、ピカピカに戻っていた。


 ——状態は、深刻だ。


 たしか、鉄球に吸い込まれたときには——すでにコイツ、意識がなかったような……?

 まさか、最後に脱出用ポッドのハッチを開けるのに、全てのヴァイタル・エナジーを注ぎ込んじまったんじゃあ……?

「お、おい! まさか、こんなとこでくたばっちまうんじゃーねーよな!? 起き——」


「瑠琉南どの——ッ! ご無事ですか——ッ?」


 振り向くと、手漕ぎボートに乗った如月さんが、徐々にこちらに近づいて来ていた。

 どーやら、島が沈む前に脱出できていたようだ。助かった!

「お——い! 如月さん、早く来てくれ! リリオが——」

 そこまで叫んだとき、予想外の事態が起こった。


 ——すうっ。


 オレたちが乗っている脱出用ポッド。

 ソレが、もう用は済んだとばかりに、消え始めたのだ!

「わわわわわッ!?」


 どぼーんと、池に投げ出される。


 意識のないリリオを必死に抱いて、水面でもがくカナヅチのオレ。

「瑠琉南どの——ッ!」

 ボートから如月さんがダイブして、こちらに猛スピードで泳いでくるのが見える。

 あと十メートル、五メートル、三メートル……。もう、ダメだ————

「如月さん! リリオを——はぷッ!」


 リリオを託すと同時。限界を迎えたオレは、せめてもと大きく息を吸い込んで、水中に沈んでいった。


 いくら如月さんでも、ふたり同時には助けられないだろう。水上でなにやら叫んでいる声がするが、もーよく聞き取れない。


 ——ああ。オレは死ぬのか。


 きらきらと輝く水面が、天国ヘの扉のように感じる。

 次に、とうとう走馬灯まで見えだした。

 ガキのころ、病気で死に別れた——ママ。

 強くてキレイで、優しかった、ママ。


『……瑠琉奈。オレがいなくなっても…………、強く、生きろ……、よ』


 オレはその言葉どおり、これまで強く生きてきた。

 でも。ごめんなさい。

 もうすぐオレも、ママのもとへ————



 ——待てよ。



 オレが死んじまったら、子孫のリリオはどーなる? 

 宇宙を変えたとかいう、そのじーさんのリオンとやらは?

 そして——まだ信じられねえが、将来オレのムコになるとかいう、勇者なヤツは?


 オレは……生きなきゃなんねえ! 

 少なくともダレかと——むむむ結ばれるまではっ!

 でも……どーする? もーすぐ、息も切れちまう。


 そのとき。

 光る水面を割って、こっちへ潜ってくる、見覚えのある小さな影。ソレは——



「(れ………………レイッ!!!)」




「しっかりしやがれ! お、おいレイ! 聞いてんのかッ!」


 陽は傾き、まもなく夕暮れを迎える時間帯。

 池のほとり、草むらの上。

 意識のないままのリリオと、オレを助けたあとに、自分が溺れちまって如月さんに引き上げられたレイが、並んで寝かされていた。


「はあ、はあ。今、ドクターヘリを呼びました。はあ、はあ」

 リリオとの死闘でしばらく気絶していたあとに、リリオとレイ、ふたりの人命救助を行った如月さんは、さすがにグロッキー状態で、地面にしゃがみこんでいる。

 とんでもない迷惑をかけちまった。


「リリオどのの呼吸は安定していますが、レイどのは怪しいです! 瑠琉南どの、急いで心肺蘇生を! 小草がAEDを持ってきますが、その前に! はあ、はあ」

「は、はい!」


 そーだ。おそらくコイツは、オレたちの帰りが遅いので、探しに来てたんだろう。そしてオレを——命をかけてまで、助けてくれた。決して、泳ぎが得意なほうじゃねーのに。

 今度はオレが、コイツを救う番だ!


「レイッ! もどって来いッ! オレに無断で、逝っちまうんじゃーねえッ!」


 オレはぐったりとしたままのレイにまたがり、ガッコーの防災訓練で習ったとおり、胸のまん中、胸骨を連続で強く押す心臓マッサージを行う。一分間に百回以上。すると——

「う…………」

 となりから、小さくリリオのうめく声がした。

「リリオ! よかった、気がついて…………なッ!?」



 リリオの姿が——月の雫のように、ゆっくりと景色に溶け始めていた。



 如月さんも、呆然とソレを見つめている。

 どーゆーコトだ!? まさか初代星伽のように、幽霊ってわけじゃあ?

 ソレとも。まさか。

 その『存在』自体が、消滅しかかって、いる?

 でもオレ自身は、今のとこ無事だ。ピンピンしてる。

 ——と、ゆーコトは。まさか————



「……どーやらレイ坊が、ウチのもうひとりのご先祖——『ルルナのムコ』になるみたいやな」



「——————————————————————————ッッッ!!!」

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