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ザ・ムーンテイカー!  作者: ひろつー。
33/42

  テイク7  千年の星姫(7)

「ヤバイで! とりあえず螺旋階段まで猛ダッシュや!」


 全速力で小部屋から脱出。崩落物をさけながら、洞窟通路を駆けぬける。

 間一髪。ふたり同時に最下層のホールへダイビングして転がったとき、後方の通路は完全に土で埋まってしまった。

「しゃ、シャレになんねえッ! ……ん? この音は?」


 ——ドドドドドドドドドドドドドドドドド!


 双方の螺旋階段上方から、狂ったように濁流が押し寄せてきた。

「み、水うううう!? そーいや、ココは池のド真ん中じゃねーかッ!」

「島ごと沈む設計や! 強行突破しかあらへん! ……うぷうッ!?」


 無理やり螺旋階段を上ろうとし、濁流に押し返されるリリオを抱きとめたオレは、

「リ、リリオ! なんか策はねーのかよ? 《マキナ》は使えねーのか?」

「うう……。今のヴァイタル・エナジー残量じゃ、飛べへんし、水中で息をする《マキナ》も無理や。もともと苦手やし……」

「うわ冷たッ!? もう水が腰のへんまで! おおおオレは泳げねーんだぞ!」


「……実は、ウチもや」


「なにいいいぃぃッ!?」

 ——くり返す。なんて残念なペアなんだ。

「どーすんだ!? このままじゃ、ふたり揃って土左衛門だぞ! ……あ! そーだ、このムーンクロスとやら、宇宙で呼吸ができるんなら、水の中でも……」


「水中は非対応や」


「使えねえッ!?」

 ——なんてポンコツなエロコスチュームなんだ。


「……策は、ないコトもあらへん。試したコトあらへんけど、一発で、相当量のエナジーを回復させるという秘法が——」


「じゃー早くしろ! 冷たッ!?」

 もうオレとリリオのムダにデカい胸たちが、水に浮き始めた。体全体は沈むのに。



「えーんやな? ルルナ。う、ウチもはじめてやから…………堪忍、な」



 白い頬を桜色に染め、両目を潤ませたリリオは——オレの首に両手をまわし、そっと銀色に輝く瞳を閉じ——薄桃色のつややかな唇を近づけてきた。

「————————————————————!!!」


 き、きききキスしちまうのか、オレ!? 

 ——リリオと?


 す、すまん星伽。でもココで死んじまったら、もーオマエには会えねえ。

 あと、レイを調教しなおしにも行けねえ!

 そ、ソレに相手は超絶美少女とはいえ子孫だし、か、家族間のほほえましいスキンシップっつーコトで……、ノーカウント、だよ、な……?


 彼我の距離は、一センチ半。


 リリオの甘く切ない吐息が、オレの鼻腔をくすぐった。


 観念し、両目をつむる。


 そしてついに、オレとリリオは————


 ——ゴンッ。


「いでッ!?」「あいだあッ!?」

 ぷかぷかと水面に浮いていた大鉄球に、頭をぶつけた。

「な、なんや?」


「鉄球!? なんで浮いて……? まさか、中が空洞になってて……、もしかして、脱出用ポッドとかになるんじゃーねーのか!?」


「む? そりゃーありうるで! どれどれ……ビンゴや!」

 鉄球をなで回して調べたリリオが、すぐに断言する。


「強力なロックがかかっとるけど、解錠ならお手のもんや! 残りのエナジーでいけるで! 《絶対ロック解錠ブレイカー》!」


 左手を鉄球にあて、右手でサインコードを高速で切るムーンテイカー。

「は、早くしろ! もう首まで水が! あと、開けたら浸水して沈むとかナシな!」


「そんなオチはないで! 人体透過式ハッチみたいやし! あと、少しや! 開け、やああああああああああああぁぁぁぁぁぁ——————————————ッッッ!!!」


 まるで、残りのヴァイタル・エナジーを全て注ぎ込むかのように、『ザ・ムーンテイカー』は咆哮した。

「う、ごぼッ! ごぼわあああああぁぁぁ————————ッ!?」

 間一髪。口の高さまで水が達した、瞬間。

 オレとリリオの姿は、鉄球の内部へと吸い込まれた。


 ほどなくホールの天上まで水が達したのか、残った空気とともに、螺旋階段のほうへ吸いよせられていく脱出用鉄球ポッド。

 そのまま、ぐるぐると自転しながら、ぐりんぐりんと螺旋の階段を浮力で上っていく。

 オレとリリオは、その内部でもみくちゃになっている。


「う わ ああああああああああああぁぁぁぁぁ————————————ッッッ!!!」


 オレの秘密その十三。ジェットコースターは苦手だ!


 そしてまたしても——か弱い女の子なオレは、気を失った。




「瑠琉南さんたち、遅いなぁ。もうクッキー焼けたのに」


「……おかしいですね、案内役の小草と連絡がつきません。これはもう、きつくお仕置きを……、いえ何でもありませんっ!」

「? でも、どこまで行っちゃったんだろう?」

「発信器、いえ携帯電話の位置情報では……、裏庭の、池のほとりですね」


「瑠琉南さん、池にはまって溺れてたりして」


「えええっ!?」

「ご、ごめん、冗談だよ! でも瑠琉南さん、意外とドジなとこもあるし、何だか心配だから僕が迎えに行ってくるよ」

「わたくしも……」

「いーよ、僕が行ってくるから。十条さんは、クッキーをきれいにお皿に並べて待っててよ」

「……はい、では別のものを案内に付けますので、何かあったらわたくしまで連絡させて下さいね?」

「うん。とても美味しく焼けたから、みんなで食べるのが楽しみだね」

「はいっ」


「まったくもう、瑠琉南さんとリリオさん、いったい何してるんだろう……?」


次回、新章『満月の涙 (フルムーン・ティアーズ)』突入っ!

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