テイク7 千年の星姫(2)
星伽とリリオ。究極の美少女対決——いや。
無二の親友と、子孫の対決。
オレはいったい、どっちを応援したらいーんだ?
これ以上、争わずにすむ方法はねーのか?
「止めんなやルルナ! 行くでッ! ——『湖月』×弐式!」
両手に出現させた黄金色にかがやく大剣から、上下二対の光の斬撃が打ちはなたれる。
確かあれは、湖面に映った月のように虚像の斬撃で、実体は反対側にあるというトリックだ。
でも、ソレがふたつというコトは——
「ひねりましたね。でも——愚かです」
冷静に、そのまま上下ふたつの斬撃を、双方の薙刀で迎えうつ星伽。
そーだろう。結局、それぞれの実体が反対側にあったら——
「もーチョイひねるわ。——『回』!」
不敵に笑うムーンテイカーの声と、剣をにぎったまま動かした指ともに、ぎゅるんッ! と標的の直前で左右に九十度回転する斬撃。
「!」
微妙に表情をこわばらせた星伽は——反応できない!
「星伽ッ!」
思わず叫ぶオレ。そして——
——ぴき——————ん…………っ。
「!?」
そのまま『上下』の光の薙刀で受け止められた斬撃は、塵のように霧散する。
「同じ流派のわたくしを、逆手にとったおつもりでしょうが。実体を反対側ではなく、もともと九十度ずらしていたのでしょう? わたくしも同じ手はかつて、——っ!?」
「おおおりゃあああああぁぁッ!!!」
余裕の表情で解説を始めた星伽の胸めがけ、すでに間合いに踏み込んでいたムーンテイカーの突きが襲いかかる。
危うしオレのヨメ! ——だが、
「見えてますよ?」
ぐりんと、下にあった薙刀の柄を高速回転させ、その突きを《三日月◯剣》ごと弾き飛ばして消滅させる星伽。
「もーいっちょやッ!」
残った左手の《三日月◯剣》で、今度は顔面を突きにかかるリリオ。
「同じです!」
上にある光の薙刀の柄で、迎撃体勢をとる星伽だが——
「——っ!? 曲がっ」
「『回』やあッ!」
三日月型にかがやく剣が、ぐるっと九十度ほど回転し、突きの軌道がわずかに変わる。
黄金のかがやきが、白い光の脇をすり抜ける。
——マズいッ! 星伽が——死んじまうッ!
「星伽ああああああぁぁぁ——————ッ!」
しかし。十条家次期当主である少女は、驚異的反応速度で上体を横へとそらす。
かわした!? のか……?
即座に、白い薙刀の柄でムーンテイカーの伸びた左手を打つ。
「ぐあッ!?」
痛みに顔をしかめるリリオ。その手の《三日月◯剣》も消失。しかし——
「まだ、やああぁ————ッ!!!」
突きの勢いのまま、星伽の顔面めがけ、頭突きを敢行する『ザ・ムーンテイカー』。
意表をついた、原始的攻撃。これは決まった——だが。
信じられないコトが、起きた。
「なッ!? す、透け——ぐはぁッ!」
リリオの頭突きが、星伽を透過した。
間髪いれず、反撃の薙刀の柄ふたつがみぞおちへとめり込み、後方へとよろめくムーンテイカー。
「お返しです——『湖月』」
至近距離ではなたれる白い斬撃。
「リリオッ!」
「く……《究極◯障壁》……ッ」
もうろうとしながらも、すでに防御用の《マキナ》のサインコードを切っていたリリオ。しかしその障壁は未完成のまま、『湖月』の直撃をくらう。
再び壁際まで吹っ飛ばされる、銀髪の少女。
……ん? 銀、髪?
「とどめですよ——《白氷☆河》」
「!?」
背後から聞こえる鈴の音のような声。
使ったのか? 星伽が——《マキナ》を!
これまでは、如月さんのような『天条双月流』の技だと言えたかもしれないが——
氷河のような白い氷の粒が、リリオの——直前までいた場所に、炸裂した。
間一髪。倒れたムーンテイカーを抱いて、ソレをかわしたオレ。
「ルル、ナ……」
「リリオ! オマエ、髪がほとんど銀色になっちまってるじゃねーか! ソレに髪留めも、やせ細った三日月に……」
「どうやら、『ヴァイタル・エナジー』が残り少ないようですね」
「——ッ!」
星伽の指摘。
その言葉と意味を知り、《マキナ》を自在に操る。星伽もやはり、未来から来たのか?
ダレかに教わっただけ、とは考えにくい。……ソレと、
「すまねえ、リリオ。あのクッキーは——オマエの最後の回復アイテムだったんだな。全部、ケルベロスにやっちまったな」
「……ははは。そやな。酷い仕打ちやで……」
オレの腕に抱かれ、力なく笑うムーンテイカー。だが、
「こーなったら……ルルナと『えっちぃコト』して、回復するしかないで」
「…………………………は?」
こここコイツは、この非常時に、なな何をフザけたコトをっ!
「アホか! そんなコトしてる間に攻撃されたら終わりだろ! っつーか、星伽の前でそんなんできるかあッ! そもそも、オマエとはしねえ、ゼッタイにしねえッ!」
激怒するオレ。当然だ! オレはそんなコト人前でするような、ふしだらな女じゃねえ!
●ロ本は隠し持ってるけどな!
「わははははは! なにまっ赤になってんねん! 照れんでもえーで? ウチら、もうお互いの全てを知りつくした仲……」
両手の指を、わきわきとうごめかせるリリオ。その魔手が、オレのムダにデカい胸へと迫る。
あきれ顔で、目をそらしている星伽。
両腕を開き、垂直にリリオを地面へ落とすオレ。
「あいだぁッ!?」
「せ、星伽。オレはそんな浮気、もとい、変態行為はしてねーから、な?」
「あの子——『星影』は、どこへ送ったのですか?」
うわ。見事にスルーされた。ソレはソレでちょっと悲しい……。
「あのわんわん怪獣か? やっぱオマエがご主人さまやったんやな」
こくりとうなずく星伽。
「——うわははははは! 丁重に、知り合いの裏ペットショップへ売り飛ばしてやったで! 高ーく売れそうやな! うわははははははははははのは——————————ッ!」
お尻をさすりながら、高笑いする『ザ・ムーンテイカー』。最悪だ!
「コラァ——ッ!? 挑発するようなコト言ってんじゃーねえええぇ——ッ!」
「——《雷電☆撃》」
ドッガアアァ——ン!
炸裂する、星伽の怒りの電撃。
かろうじてかわす、オレとリリオ。
「ここ、このバカ! 怒らせてどーすんだよ! オマエもう限界だろ? 謝っちまえ! ソレで話し合いで……」
するとリリオは、左手の人差し指をぴんと立て、
「えーかルルナ。『ごめん』ですむならドロボーはいらんで。そんなんでお宝テイクできよるなら、時空トレジャーハンターなんて存在せーへん。この塔が、お宝守護のために建てられたんやったら——少なくとも数百年、ダレも奪えへんかったちゅーコトや」
「う……。まー、そりゃそーだけどよ」
できるなら、オレはオマエらふたりに戦ってほしくねえ。すると、
「ソレにウチには——ゼッタイに、引けへん理由があるんやああああぁぁッ!!! ——《三日月◯剣》!」
再びその両手に出現する、金色にかがやく光の剣。
「おい! ムチャすんな!」
「ダイジョーッブや。ルルナのお姫さまだっこで、ちっと回復したで」
「なに!? そ、ソレは『えっちぃコト』に含まれるのか? 奥が深いな、大人の世界は……」
「だって……。ルルナの胸とウチの胸、くっついとったし♪」
「浅ッ!」
「心配すんなや——これでケリやッ!」
サインコードを切りながら、駆け出すムーンテイカー。
「や、やめ……!」
「いいでしょう。最後の一撃、受けて立ちましょう!」
仁王立ちのままサインコードを形成し、迎えうつ宝玉の最終守護者。
間合いが詰まる。互いの双腕が、円月を描く。
最強の両者、必殺の《マキナ》は——
「——《拾弐◯神月》!!!」
「——《拾弐☆神月》!!!」




