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ザ・ムーンテイカー!  作者: ひろつー。
24/42

  テイク6  宝玉の番犬(1)

「ぐ……」


 再び目を覚ましたオレだが、あたりは真っ暗だった。

「ドコだココは……? まさか、もとの時間へ戻るのに失敗して、変な所に……」

 オレは暗闇の中を、手探りで——


 ——ふに。


「ひゃあっ!?」

 リリオの悲鳴。ココはどうやら、桃源郷だったようだ……って、デカい胸は嫌いだって言ってるだろ!

「起きるなら事前にそー言ってや! ビックリするやないか」

「あ、あーすまん。まさかオマエの胸の間だったとは……、ん!?」


 あたりの様子を確認すると、オレたちが最初に『クロノス・ゲート』に吸い込まれた地点——五匝堂ごそうどう内の、三層目あたりの螺旋スロープ上と同じ風景だった。


「無事帰って来たで。手動操作も必要あらへんで楽々やったわ。『クロノス・ゲート』も、一時的か知らへんけど消失しよったし、ステージクリアやな! ほな、最上階目指して、進むでルルナ!」

 オレの手をとって歩き始めるリリオ。

「……おう!」

 再びオレは、子孫と共に螺旋のスロープを上り始めた。

 リリオは歩きながら、反対の手でサインコードを切る。


「こっからは警戒度マックスや。——《トラップ◯発見器ブレイカー》」


 すると、三日月型に光る小さなビットみたいなモノが眼前に現れ、リリオとオレを中心にひゅんひゅんと旋回を始めた。

「これで、たいがいのトラップの発見と回避がオートでできるで。ヴァイタル・エナジーを消費し続けてまうのが難点やけどな」

 大雑把な性格っぽいのに、ヴァイタル・エナジーの残量にはやたら気を配っている。《マキナ》を行使する者にとっては、文字通り生命線なんだろーな。


 ちなみに、リリオの髪留め型の《マキナイト・コア》——『ザ・ムーン』の形状は、半月。

 残り半分、といったとこか?


「なあ。《おトレジャー探知機ファインダー》とやらのほうは、まだ反応はねーのか?」

「あらへんなぁ。お宝の保管状態によっては、かなり近接せんとアカン場合もありよるけどな」

 空いている右手で、不自然にはねた髪の毛をいじる『ザ・ムーンテイカー』。

「やっぱ最上階か?」

「そーやろなー。ま、あとたった一周……おっと!」


 五層螺旋の塔、ちょーど四層目くらい。ぴこーん! と三日月型ビットが反応して金色に輝くと、眼前のスロープの床も、同様に光る。

「カンタンな、落とし穴トラップやったみたいやな。ひょっとしてまたどっかに跳ばされたかもしれへんけど、キャンセルできたで」

 すたすたと進むリリオに、オレも続く。


「でもココで油断させといて、たいがい最後のお宝の前にはごっついトラップや、ラスボス的なツワモノが待ち構えとるもんや。あーあ、たまにはサンタクロースのおっちゃんみたいなえーひとが、『いー子にしてたリリオちゃんにプレゼントじゃ♪』とか言って、タダでお宝くれへんかなぁ?」


 ——サンタ? ……まさかとは思うが、コイツ……。

「なあリリオ。二百年後の未来に、サンタクロースはいるのか?」


「おるで」


 即答。

 やっぱり、サンタクロースの存在を信じていた……。いや、もしかしたら二百年後には実在するのか? なワケねーか。

「ちっさい頃に、一度だけ枕もとにプレゼントが置いてあった、クリスマスの朝があったんや。黒いウサギのぬいぐるみ。ごっつ嬉しかったなあ。……まー今は、ウチ悪い子になってまったから、もー何も貰えへんけどな」

 そう語るリリオの横顔は、少し、寂しそーだった。


「しかも、半分は商売敵みたいなモンやし」


「商売敵?」

「あ、何でもないで。……んん?」

 ぴこぴこと、点滅を始める三日月型ビット。

「やっぱりな。そこの柱の影——ちょーど最上階あたりに、何かオートで回避できへんトラップがあるで」

「そーか」

「ほな、その前にちょっと一服や。まー飲めや、オゴリやで」


 胸の谷間——《時空倉庫スペースストレージ》から、紙パックのドリンクを二本取り出し、一本をぽいっとこちらへ投げるムーンテイカー。


「オレん家の冷蔵庫にあったバナナ豆乳じゃねーか! って、もーいーけどな」

 ぷすっとストローを紙パックへ刺し、ちゅーちゅーと飲むオレとリリオ。

「なはは。欲しいモンは奪い取るモンやで。待っとるだけじゃダレかに盗られてまうで? ……そう、『アイツ』もや、ルルナ。ちゅーちゅー」

「『アイツ』……? ダレのコトだ? ずずずずー」

「——『犬』や」

「……は?」

 コイツは何を、言ってるんだ?

 リリオは、その端正な顔にいたずらっぽい笑みを浮かべ——


「ルルナの幼なじみにして忠実な下僕——レイ坊のコトや」


「………………………………なッ!?」

 ぶしゅうっ! と紙パックが握りつぶされ、顔面に飛び散るオレのバナナ豆乳。

 コ、コイツは、なな何を、言って……?

「わはははははー! ルルナが挙動不審やでー。お巡りさーん! このひと怪しいですーうげぐげげ!」

 反射的に、背後からリリオの首にスリーパーホールドをキメたオレは、


「逆だろ! オレのヨメ——もとい親友の星伽がレイに取られちまうのは、ぶっちゃけ微妙に気に喰わねえ! で、でも星伽の気持ちのほうが大事だろ! ソレにレイのヤツも、こんな千載一遇のチャンスを逃しちまったら、一生女の子に縁がないに決まってる! だ、だからオレは、アイツの飼い主として……!」


「タップタップ! …………ふう。子孫殺しは重罪やで? まー、自分のデッカイ胸に訊いてみるコトやな」

「フザけんな」

「お? いよいよ最上部のトラップ地点が見えて来たでー。これは…………」

「……何だ、あれは?」


 塔の内部、最上部。

 木製スロープの終着点には、ガッコーの教室くらいの広さを持つ円筒状空間が広がっていた。

 その中央部。ぽつんと置かれた円形の台に鎮座した、高さ一メートルほどの卵形の物体。

 きらきらと、七色の光の粒子が内部からこぼれている。

 トラップに警戒しながら、ゆっくりと近づくリリオとオレ。


「これは——『スーパーセブンルース』、やな」

「……『スーパーセブンルース』?」


「水晶をベースに——アメジスト、カコクセナイト、ゲーサイト、レビドクロサイト、スモーキークォーツ、ルチルの七つの鉱物がひとつに集まった、パワーストーンの裸石や」


「へえ……。キレイだな。まるで、中に宇宙が閉じ込められてるみてーだ」

 こんなオレにも、宝石のようなモノを愛でる気持ちはあるらしい。だって、一応女の子だもんな!

「しっかし、こんなデッカイ『スーパーセブンルース』は、メッチャレアやで。これだけでも、ごっついお宝やな。でも、《おトレジャー探知機ファインダー》が反応せーへんのは何でや? やっぱ、まだなんか障壁が……」

 首を傾げるリリオ。そのくせ毛にも変化はない。

「何だ、コレが、『満月フルムーン・ティアーズ』とやらじゃねーのか? ん……?」

 三メートルほどの距離まで接近したとき。突如宝玉の内部に、ひざを抱えて座る、裸の人影が浮かび上がり——



「——せ……、星伽………………ッ!?」



 思わず駆け寄ろうとするオレ。周囲を飛んでいた《トラップ◯発見器ブレイカー》が、真っ赤に点滅する。

「!? アカンでルルナ、トラップやッ!」


 ——シャリリリリリリリリ————ンッ!


 ときすでに遅し。鈴の鳴るような連続音とともに、床に無数の光の鏡が現れる。

「しま……ッ! うわッ!?」

 ジャンプして避けようとするオレ。だが、ソレよりも強力な引力で、足もとから鏡の中へと引きこまれていく。

「回避できへん! また『クロノス・ゲート』による強制ジャンプや! しゃーない、行くでッ!」

 オレにがっしりとしがみつくリリオ。顔、近い! 胸、当たってる! いやそんなコトより——


「うわあああああああああぁぁぁぁぁ ぁ …………」


 咄嗟に目を閉じたオレは、またしても闇に落ちるように気を失った。

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