テイク5 雪のウサギ(3)
背中に四枚の翼を展開させ、宙に浮いているレッキス。素早くサインコードを切り、その広げた両手の中に、巨大な電子網を構成して——
——がっしり。
「な!? 何するぴょん? エ、エリザヴェータ? ひいいえええぇぇ————っっ!!!」
ばっしんばっしんばっしん……と、その小さな足首を子マンモスのぶっとい鼻につかまれて、雪原へと叩き付けられる哀れな子ウサギ。
あ。ウサ耳がくたっとなってきた。気絶したみたいだ。
「ストップ、エリザヴェータ! 調教終了だ。よくやったな、よしよし」
『再び』エリザヴェータの頭をなでなでするオレ。
そう。オレは雪煙にまぎれて、倒れた子マンモスの頭をすでになでていた。つまり——エリザヴェータはその時点から、オレの下僕。『オレの秘密その五』参照だ。
どんな動物からも好かれるタチだが、まさか三十万年前の絶滅動物を懐柔するコトになるとはなぁ。まあ、レッキスには悪いコトしたが。
……さて。リリオは無事か?
「ふっふっふっ! そろそろ年貢の納めどきのようだねっ? 『ザ・ムーンテイカー』っ!」
「フザけんなや。お子さまウサギに納めるモンは、もち米ひと粒さえもあらへんで!」
「——《雷電:槍》っ!」
「——《究極◯障壁》ッ!」
親マンモスに乗ったハーレクイーンが突き下ろした、稲妻の長槍。ソレを大きな光の繭で受けるムーンテイカー。
——バリバリバリッッ!
受けきった……かに見えたが、ズブズブとその槍の先が、光の繭にくい込んでいく。
ハーレクイーンがエカチェリーナに乗ったまま離れないので、意外とお人よしなリリオは派手に攻撃できず、防戦一方になっているようだ。
しかも上空はブリザードによる暴風で、飛んで逃げるコトも難しいのかも。
「ちッ! オイ、エリザヴェータ! いー考えがある。オマエの鼻で、一気にオレを——」
「はーはっはっはっ! 刺さっちゃうよっ! ……むっ!?」
「喰・ら・い・やがれえぇぇぇ——————————ッッ!」
「甘————いっ! 《雷電:剣》っ!」
——ばっさり。
「ぎゃ————ッ!?」
「このハーレクイーンさまに不意打ちなんてっ、三十万年早……って! しまった————っっ!? しびれさせるだけのつもりが、つ、つい真っぷたつにっ!?」
ウサ耳少女(大)が、とっさに空いていたもう片方の手に出現させた、稲妻の長剣。哀れ、ソレに一刀両断された、オレの身体——
「……あれっ?」
——と、同じくらいの、大きな雪の玉。
「ひっかかったなこのアホウサギ! 改めて喰らいやがれッ! うおりゃあああああぁぁぁぁぁ————————————————————ッッッ!!!」
「ぷぎゃ————んっ!?」
炸裂するオレの超長距離ドロップキック。
そんなコトもあろーかと、エリザヴェータにはその長い鼻で、最初はデカい雪玉をハーレクイーンめがけて投げてもらった。幸いこちらは風上で、狙いはブレず、失速しない。
そして続けてブン投げてもらったオレのドロップキックが、動揺したウサ耳警官(大)に突き刺さったというワケだ。
オレの秘密その十。オレだって意外と頭脳派なんだからなッ! ……ダレだ今まで脳筋だろーつってたヤツは?
イバるほどの頭脳プレイかと言われればソレまでだが、オレの蹴りを喰らったハーレクイーンは、長いウサ耳をなびかせながら、エカチェリーナの上からへろへろと落ちて行く。
——ぼすっ。
雪原にウサギの形でめり込む、白地に黒ブチコスチュームの、ピンクツインテール少女。
「い、痛あああああいっ!? ゆ、許せないわこのエロゴリラっ! このハーレクイーンさまが、たっぷりとお仕置きをしてあげるわっ! 悦びなさいっ!」
「ダレがエロゴリラだ!?」
エカチェリーナの背中に着地したオレは、言われのない中傷に抗議する。
オレは、ちょ、ちょっとエ●本を隠し持ってるくらいの……、健全な普通の女の子だ。ふ、普通の女の子だ!
「お仕置きされるのは、オマエのほうや。——《半月◯刀》」
雪原に立ち上がるハーレクイーンに歩み寄った、『ザ・ムーンテイカー』。その左手には——
ゆうに八メートルを超える、黄金色に輝く半月型の光の刀が握られていた。
『ザ・ムーン』と名付けられた——もとはオレの首にかかっているペンダントと同じ三日月型だった、リリオの髪留め。今の形は、ヴァイタル・エナジーの残量を示しているようで、ちょーど半月。
もしかして、リリオの《オリジナル・マキナ》を行使して現れる剣の形も、残りのヴァイタル・エナジー量に比例してんのか? ソレにしても、デカい。
「ひ、ひえ————んっ!? 《究極:障壁》——最大出力っ!」
「そりゃあああぁぁッ!」
ハーレクイーンの、稲妻で構成された防御壁。ソレごと叩き切るかのような勢いで、半月状の光の刀が振り下ろされる。
——ヴヴヴヴヴンッッ!!!
「や……、やったね止めたよっ! お次はこっちのば——」
ばっしーん! という痛々しい衝撃音と共に、派手にブッ飛ぶピンク毛のウサ耳少女。
「エ、エカチェリーナっ!? な、何を——ぴえっ、ぴえっ!」
巨大な鼻での背後からの一撃に続き、ビビンタ、ビビンタと往復ビンタを喰らう、かわいそうなハーレクイーン。
コイツらのウサギコスチュームも、ムーンクロスと同じく強化スーツなのだろう。生身だったら一撃で大変なコトになるマンモスの攻撃を、涙目で数発は耐え続けた。しかし、だんだん両耳がぐったりとして……、とうとう落ちたようだ。
「ストップだエカチェリーナ! よしよし。……しかし、コイツら相手の調教は、なんか罪悪感あるなぁ」
オレがエカチェリーナの上で、その頭を『再び』なでながらそうつぶやくと、半月の刀を消したリリオが、
「何ゆーとんねん? ウチら最初っから悪やで。ドロぼ……いやトレジャーハンターやしな」
「中途半端に開き直ってんじゃねーよ。っと」
ジャンプして、リリオの側に着地するオレ。




