テイク5 雪のウサギ(2)
「何で……うわッ!?」
ばっしーん! と、親(?)マンモスの毛むくじゃらの鼻が、オレめがけて振り落とされた。何とかジャンプして避けたが……、オレのいた場所は、大きく雪がえぐられている。し、死んじゃうだろ!
「……あちゃー、現れおったで。『お子さまウサちゃんズ☆』」
「『お子さま』ってゆーな——っ! エカチェリーナ、やっておしまいっ!」
パオーンと返事したエカチェリーナ。つーかこの親マンモス、名前カワイイな!
そして今度はリリオめがけて牙を向け突進する。
「そーか。ウチがお子さまたちを跳ばしたときにできた『クロノス・ルート』に沿って、ウチらも同じ三十万年前へ強制跳躍させられたワケやな」
「? どーゆーコトだ? ってリリオ、アブねえッ!」
——ひらり。
華麗に月面宙返りをキメて、エカチェリーナの突進をかわすムーンテイカー。
「つまりやな。まっさらな新雪の上より、ダレかが歩いた跡のほうが通りやすいやろ? ランダムで時間跳躍を行った場合、最も近くて新しい時空間中の道——『クロノス・ルート』に引き寄せられてまう場合が多いんや」
「そーゆーことねっ! おかげでそっちの時代にまた跳躍する手間が省けたわっ! 飛んで火に入る——いや、雪に入る冬の虫ねっ!」
「ゴロ悪ッ! しかも冬は虫おらへんし。あいかわらずセンスあらへんお子さまやな」
オマエは人のコト言えるのか?
「うるちゃいうるちゃいっ! エカチェリーナっ!」
今度は長い鼻での横薙ぎの攻撃。再びジャンプしてかわすムーンテイカーに対し、
「かかったねっ♪ ——《雷電:撃》っ!」
素早くサインコードを切ったハーレクイーンの両手から、数発の稲妻の弾が打ち出される。
「ぬるいで。——《空の◯翼》……がッ!?」
八枚の光の翼を展開し、飛んで稲妻の弾をかわしたムーンテイカー。しかしその直後——横方向から上方へと軌道が変化したマンモスの鼻が、その身体を直撃した。
「リリオッ!?」
「ぐ……うッ!?」
弾き飛ばされた上空で、なんとか姿勢を立て直そうとするが、吹きすさぶブリザードにあおられて、へろへろと遠くに不時着するリリオ。
「ナイスっ、エカチェリーナっ! よしよしっ♪」
マンモスの上にまたがったまま、その背中をなでるハーレクイーン。
「ふっふっふっ! 『動物を傷つけられない』って弱点はそのまんまだねっ? 『ザ・ムーンテイカー』っ!」
「てッ、テメー、汚ねえ……ッ! 動物を盾にしやがって!」
白いのに黒い! さすがは敵の幹部だ。でも、ソレでいーのか月の警察官?
「ふふんっ! バナナをあげたらなついてくれたんだからっ、しょーがないでしょっ? バナナ最高っ♪」
うん。ソレは賛成だ。バナナ最高。食用な。
すると、長いウサ耳をぴこぴこと動かしていたハーレクイーンが、
「『鋼鉄の瑠琉南』さんっ! アナタはあとでたっぷりとカワイがってあげるからっ! それっ、エカチェリーナっ! ムーンテイカーに一気にとどめを刺すよっ!」
「待ちやがれ……ん!?」
——ばしゅうぅぅっ!
本能的に危険を察知したオレが飛び退いたあとに、電気で構成されたかのような光る網が覆い被さった。
続いて子マンモスのほうが、ものすごい勢いで突進して来る。冷静なオレは横に跳んでかわすが——
「うがッ!?」
身軽に方向転換した子マンモスに吹っ飛ばされ、ごろごろと雪の上を転がる。
マジか? イノシシと違って、意外と小回りが効くのか? 子供だから牙が短くて助かったが、それでもムーンクロスなしの生身だったら、かなりの重傷間違いなしだ。
しかしオレは素早く起き上がり、
——ばすばすばすっ!
バック宙二連発で、飛んで来た稲妻の弾をかわす。
「……ぺッ。やるな子象!」
口の中を切ったようで、血を吐き捨てるオレ。あ、子マンモスと子ウサギか。
「これ以上『ザ・ムーンテイカー』に加担すると、あなたはもう民間人扱いじゃなく、共犯者になるぴょんっ! レッキスがお相手するから、おとなしく逮捕されて記憶を消されるっぴょん!」
そんな、子マンモスの背に乗ったウサ耳警察官(小)の脅しに対し、オレは——
「——フザけんな。オマエら調教してやんよ! かかって来い!」
もちろん純教育的な意味な。オレの方針は超スパルタだ。ゆとりゼロ教育。
右拳を前に出し、左拳を引いて、雪上でファイティングポーズをとるオレ。
遠くのほうでは、何とか体勢を持ち直したリリオが、ハーレクイーン&エカチェリーナの攻撃を防いでいるのが見える。
「ちょ、調教っ!? け、けけけ結構ですぴょんっ! エリザヴェータ、攻撃だぴょん!」
子マンモスの名はエリザヴェータ。
パオンと返事したエリザヴェータの長い鼻が、うなりをあげて頭上からオレに襲いかかる。だが、
——がしいいいいぃぃぃっっ!
オレは両手で、その太い鼻を掴んだ。
「なっ!? す、素手だぴょん!?」
子マンモスの上で、驚愕の表情を浮かべるレッキス。
オレの秘密その九。オレは素手で軽くリンゴを握り潰せる。
ダレだ今、ゴリラつったの!? 今までそのセリフを吐いたヤツは、全員もれなく泣かして土下座させてきた。……あ、そーいやハーレクイーンにも言われたなぁ。あとで泣かす。
まあ、今はムーンクロスによって、力が何倍に増幅されてるかは知らねーが。そして、
「うおおりゃあああぁぁッッ!」
女の子としてはちょっぴりたくましすぎる咆哮と共に、子マンモスを背負い投げのようにブン投げるオレ。
「うひゃあああぁぁっ!?」
上に乗っていたレッキスも、一緒になってブッ飛んでいく。そして、針葉樹が埋もれているかのような、小高い雪の丘に派手に激突する。
もうもうと上がる雪煙。
素手でマンモス倒しちまった。マンモスつえーなオレ。
しかし。徐々に視界が晴れると、そこには——
「もう怒ったぴょん……。捕獲して逆調教だぴょんっ! 《雷電:網》——最大出力!」
 




