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ザ・ムーンテイカー!  作者: ひろつー。
18/42

  テイク4  螺旋の塔(1)

「螺旋……階段? いや、スロープ?」


 五層螺旋の塔——『五匝堂ごそうどう』に侵入してすぐ。オレとリリオを待ち受けていたのは、円筒状の壁沿いに上層へと伸びる、木製の螺旋だった。


 ソレは階段と呼ぶには、段差が少ない。小さな段差の連続は、螺旋スロープと言ったほうがふさわしいかもしれない。

 和風建築らしく、外装だけでなく内装も全て木製。スロープ内側も巨大な円筒状の木の壁。檜とかを使っているのだろうか? 相当な年月を経ているコトだけは確かだ。


「隠し部屋や秘密階段みたいなモンは、今んトコなさそーやな」


 壁や床などを物色していたリリオがつぶやく。

 窓もないが、明かりとり用と思われる、外壁のわずかに開いたスリット状の隙間からもれた光で、薄暗いながらもなんとか視界は確保できている。


「じゃー上るか?」

「せやな。そーいや、フランスで『ダ・ヴィンチの秘宝』をテイクしたときのお城——シャンボール城やったか? の階段もこんな螺旋やったなぁ。アッチは吹き抜けやったけど……」


「……オマエ、ソレ世界遺産とかじゃねーのか?」


 ムダ話をしながらスロープを上る、おしゃべりなオレたち。一応、女の子なんで! 

「安心せーや。ウチが侵入したのは、そんなんに認定されるよりずーっと昔やで。そんときは、お城の所有者やった王さま——ルイ十四世にウチがえらく気に入られてもーて、ホンマ大変やったで」

「そんな昔かよ! ……うッ!?」

「ひゃあっ!?」


 ぽにゅんっ、と。

 軽くツッコミを入れたつもりのオレの手刀が、その露出度の高いコスチュームにより大部分がさらされている、リリオのデカい胸にくいこんだ! 


 裏返った声を出して、胸を押さえるリリオ。

 ヤベえ。コイツへのツッコミは、やはり頭にすべきだ。ボディーはヤバいよ、頭、あたま。

「イ、イキナリ何すんねん、この女好き! ちょっとヴァイタル・エナジーが回復したやないか……」

「え? 回復……? も、もしかして今の、『えっちぃコト』に含まれるのか?」


 バナナはオヤツに含まれますか? 


「仕返しや! ホレ」

「ひゃううっ!? や、ヤメろ! 揉むな〜!」


 この『ムーンクロス』とやら。防御力アップとか言ってたわりには、セクハラ攻撃は防げないらしい。さすがエロ衣装。


「そ、ソレでルイ十四世がどーしたって?」

「あー。そんでな、求婚されて、チューされそうになったんや。危うくブルボン朝の王子さまを身ごもってまうトコやったで」

「ソイツは大変だったな……………………ん?」

 今の会話、何だかおかしい。

「なあリリオ。されそうになったのって、キ、キスだけか?」

 するとリリオは、少し不思議そうな顔をして、



「そーやけど? だってチューされたら——子供ができてまうんやろ?」



「…………………………………………」

 ああ。もしかして。

 何でも知ってそーで——実はコイツ何にも知らねーんじゃあ?

 コイツの時代じゃどーだかわからないが、今どき小学生でも持ってる知識が、コイツにはねーのか? どーやらガッコーもちゃんと行ってないみたいだし。


「……なールルナ。ウチがこーゆー話すると、みんな微妙な顔するんやけど……。も、もしかしてウチ、何か間違っとるんか……?」


 心配そうな目でオレを見るわが子孫。お風呂でオレにセクハラを働いたときとは、まるで別人のようだ。

 コイツの頭の中では、子供ができるコトと、えっちぃコトは別モンなんだろう。こ、ココはやはり、先祖として正しい知識を——


「いーや。オマエの言ってるコトは正しいよ。キ、キスすると、赤ちゃんできちまうぞ?」


 オレにはわかる。コイツの話を聞いて、訂正しなかったヤツらの気持ちが。

 今どき——いやほとんどの時代でそーだろう。こんな存在は極めて貴重だ。絶滅危惧種だ。世界文化遺産に登録してもいーぐらいだ。オレには、先人たちの意志を継ぐ義務がある!


「や、やっぱそーやな! じーちゃんがウチにウソつくワケあらへんもんな!」

 じーさんナイス! って、オレからみたら子孫か。

「まー、そーゆーワケだから……、その、キ、キスは、本当に好きなヤツだけに捧げろよ?」

「う、うん…………。その、つもりやで…………」

 真っ赤になってうつむく『ザ・ムーンテイカー』。


 うわ。

 普段はこ憎たらしいが、こんな表情をするわが子孫は正直カワイかった。

 あくまで! 子孫としてだからなっ!



「ルルナは……、チューしたコトあるんか? 口と口で」



 しまった! 切り返された!

「ね、ねねねねねーよッ! も、もちろん女の子どうしでも!」


 オレの秘密その七だ! も、文句あるかっ!?


「なはははは! ルルナはまずソッチのほうが先決やな! 男の子を好きになるってゆー。女の子どうしじゃ普通子供できへんやろ?」

「ウルせえ! 大きなお世話だ! って、オマエは好きなヤツいるのかよ?」

 秘技、切り返しがえし!

「ウチか? うーん……ん? そろそろ一周上ったけど、何か聞こえるで?」


 ごろごろごろごろ……。


「ごまかすんじゃ……あ、ホントだな。ごろごろって……」

「そーいや話は戻るけど、シャンボール城な。地下にもお宝のありかへと続く秘密の螺旋階段があってな、そこで、でっかい鉄球がごろごろーって転がってきたんやで。まったくダ・ヴィンチのおっさんはえげつない仕掛けを——」


 ごろごろごろごろごろごろ————っ!!!



「「どわ————ッッ!? て、鉄球————ッッ!?」



「お、おい! こんな古典的な定番トラップ、《マキナ》で何とかできねーのか!?」

「やっとるで! 《アンテ重力場グラビティカ》! ……効かへん! 逃げるで!」

 鉄球は螺旋スロープいっぱいの大きさで、上方にもすり抜けるほどの隙間なし。慌てて下へと引き返すオレたち。

「どーすんだ!? 追いつかれるぞ!」

「こーなったら力ずくや! ふたりならイケるで! せーのでチョイ上を蹴るで!」

「お、おう!」


「「せ——の! うおりゃあああああぁぁぁぁ————————ッッッ!!!」」

 

 とっても女の子らしくない雄叫びをあげて、振り向きざまに迫り来る大鉄球を、大股を開いて足裏で蹴るオレたち。

 リリオもオレも左足。下に巻き込まれないように、狙いは中心よりやや上——


 ——ドゴンッッ!!!


「と、止まった……。この『ムーンクロス』とやらでパワーアップしてるからか?」

 タダのエロ衣装じゃなくてよかった。

「そーやで♪ しかしウチら、息ぴったりやな! 足の長さもおんなじやし。さすがはウチのご先祖——『ルルナ・ザ・ムーンテイカー』……いや、『ザ・ムーンテイカー二号』」

「ダレが『二号』だ!」

 だが今はツッコんでる余裕はない。大鉄球メチャ重い。だんだん足がプルプルしてきた。


「いつまでこーしてるんだ? ホントに《マキナ》が効かねーのか?」

「《アンテ・マキナ》がかかっとるみたいや。チョイ時間かけたらキャンセルできるんやけど……、ソレまで足がもたへんな。せーのでまた入り口まで走るで!」

「オッケーだ!」

「せーの!」

 再び猛ダッシュする体育会系女子なオレたち。とんだ大玉転がしだ。


 ごろ、ごろ、ごろごろごろ!


 徐々に加速して、背後に迫り来る大鉄球。

「よし、入り口やな……うあ!?」

「しまった! 律儀にもキッチリ扉を閉めちまった!」


 オレの秘密その八。オレは意外と礼儀正しい。ちょ、ちょっとは女の子らしートコロ、あるんだからなっ!


「開けとる余裕はあらへん! 蹴破るで!」

「しょーがねえッ!」


「「どおりゃあああぁぁ————————ッッ!!!」」

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