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ザ・ムーンテイカー!  作者: ひろつー。
14/42

  テイク3  要塞の守護者(2)

「なー小草はん、ココのメイドはんたち、ごっつ美女ぞろいやな?」


 本館内の長い廊下を歩きながら、世間話をおっぱじめるリリオ。

「そんな……。リリオさんと瑠琉南さんほどではありませんよ。……さすがお嬢さまのご友人ですね(ぷくっ)」

 ん? 小草さんが頬をふくらませているのは気のせいか?


「もしかして——毎晩順番にセイカに夜伽しとるんちゃうか? うぷぷぷおぶうッ!?」

「コラ! 下品なコト言ってんじゃねえ!」

 失礼な子孫の頭をシバくオレ。

「うう……。ところで、『夜伽』ってどーゆー意味や? 何するんや?」

「!? し、知らねーよ!」


「あ、あの、わたくしどもは、毎晩順番にお嬢さまに添い寝して差し上げているだけですよ? ……今晩はわたくしの番です、ぽ…………っ(はぁはぁ)」


 ちっちゃな手をわたわたと振ったあと、うつむいて頬を桜色に染める小草さん。

 なんだかコーフンしてるように見えるのは、気のせいだと信じたい。

 って、添い寝してんのかよ!? いーなぁ、星伽と添い寝……っ。


「あ。そーいや小草さん。裏手の池のほうを散策したいんですけど、いーですか?」

「か、かしこまりました、瑠琉南さま!」

 ちっちゃく会釈したあと、顔をエレベーター横の小さな穴へと近づけ、網膜認証のセキュリティロックを解除する小草さん。そして、エレベーターの扉が静かに開く。


 リリオの持っているお宝情報では、この敷地内の具体的な場所までは特定されていない。

 しかし、昨晩上空から事前調査したリリオによると——

「(そーや、その池や。この時代の衛星写真にはなぜか写っとらへん。どーも情報が改ざんされとるみたいやな。……怪しいで!)」

 また、《脳内ディレクト通話テレパス》とかいう《マキナ》で脳内に直接話しかけてくるムーンテイカー。


 エレベーターから降り、本館の裏手へ出て、広すぎる和風庭園を進むオレたちご一行。

 すると、


「ばうわう!」

「!? どっひゃあッ! い、犬ううう〜!」


 他のメイドさんに連れられて邸内を巡回していた番犬に吠えられ、オレの影に隠れるトレジャーハンターの少女。

「こ、こら月影! こちらは大切なお客さま——星伽お嬢さまのご友人です! 大人しくしなさい! (でないとわたくし今晩、お、お仕置きされちゃいますっ!)」

「……ぐるるるる〜!」

 小草さんにたしなめられても、リリオのほうを向いて牙をむき出しにする、デカい秋田犬。

 うん。優秀な子だなぁ。コイツがドロボーだってわかってんだな。


「(ルルナ〜、助けてや〜! ウチ、犬は苦手なんや〜! わんわん怖い〜、がくがくぶるぶる)」

「(ドロボーのクセに犬が怖いのかよッ!?)」


 脳内で、ツッコミを入れざるおえないオレ。

「(ウチの時代のアホな金持ちどもは、たいがいロボット犬を愛用しとるから楽勝なんやけど、ホンマモンはアカンのや〜)」

「(まさかオマエ……小さい頃にお尻を噛まれて、トラウマになってるとかじゃあ……?)」

「(何で知っとんのや!?)」

 ……もーあえてツッコまない。


「しょうがねーなぁ。ホレ、いー子だな、よしよし。コイツはアホだけど、そんなに悪いヤツじゃねーぞ? よーしよしよし」

「……きゅーんきゅーん」

「「月影!?」」


 しゃがんで頭をなでてやると、すぐに月影は大人しくなる……どころか、お腹を見せて寝そべり降参のポーズ。番犬にあるまじき反応に、小草さんともうひとりのメイドさんもびっくり。


 オレの秘密その五。なぜかオレは動物に好かれるタチだ。……もしオレがサルだったら、サル山のボスになってハーレム状態かも。まさにサル状態。なりたくはねーが。


「(さ、さすがやなールルナ! 現存しとる戸籍アーカイヴに、特技『調教』って記録されてるコトだけはあるなぁ! 『幼なじみ』ってゆー犬も飼いならしとるし)」


「(何だその大いに誤解を招きそうなデータは!? ……もしかしてオマエ、犬が怖くてひとりで押し入らずに、オレに協力を求めたのか? ……このヘタレ)」

「(さ、さー何のコトやろなー? ウチは穏便にコトをすましたいだけやで〜♪)」

「そ、それでは気を取り直して、お散歩を続けましょうか?」

 粗相のピンチを回避し、ほっとした様子の小草さん。

「はい、お願いします」




 再び歩き出したオレたちは——十分ほどで、満月のようなまん丸い形をした池のほとりへと到着した。

 大きさは、ガッコーのグラウンドふたつ分くらい。そしてその中央部には、体育館くらいの面積の平らな島が浮かんでいる。


「あッ? こんなところにネッシーの卵が」

「え、えっ? どうかしましたか?」

 さりげなく。近くの監視カメラの死角になる竹林の影へ、小草さんを誘導するムーンテイカー。

 ——どさり。

「(お、おい!)」


「(ダイジョーブや、小草はんには《ナノ睡眠スリープ》の《マキナ》でちょっと眠ってもらっただけや。ウチらもさっそく消えるで——《不可視インヴィジブル障壁スクリーン》!)」


  リリオが素早く両手の指を動かすと、一瞬あたりが光に包まれ——

「あれ? 何にも変わんねえ?」

「ヨソからは見えなくなっとるでー。ウチら同士はおんなじコード内におるから見えとるだけや。声もよっぽど大声やなかったら聞こえへん」

「そーか。よし、行くか!」

「……なールルナ。こっから先は付き合わんでもえーで? ごっつ危険かもしれへんで?」

 珍しく、オレを心配する素振りを見せる子孫。


「今さら何言ってんだ? 『皿食わば毒まで』……あれ? 順番逆か?」

 正直——中身が男子なオレは、こーゆーイベントは大好きだ。ゲームみたいだし。

 ガキの頃は、よくレイや近所の男の子たちと、空き地や河原で宝探しごっこして遊んだなぁ。


「『ドッグ(犬)食わばサルまで』やな?」

「どっちも食うなッ!?」

「……わかったで。じゃーヘマしたらアカンで! ルルナに万が一のコトがあったら、子孫のウチは存在せーへんコトになってまうからな?」

「!? お、おう。まかせとけ」

「……したら変身やな!」


 『ザ・ムーンテイカー』と名乗る少女は——これまでのような複雑な指先の動きだけではなく、体全体を使って、まるで美少女戦隊モノのようなポーズをとった。そして、



「清麗なる月の女神よ——我らにの秘めたる力を——《ザ・ムーンテイカー》! あなたのお宝を、テイクしちゃうぞっ♪」



 リリオがそうつぶやくと、オレが貸していた服が光の粒子のようなものへと分解され——一昨日の登場時に着ていた、ぴっちぴちの黒と透明を組み合わせたキワどいコスチュームへと変わる。

 金色を増して宝石のように輝く髪との対比が……べ、別に見とれてなんかないからな!


「な、何だ『月の女神』って? そんなのいるのか?」

「知らへん。気分やキブン! ちなみにフリも、ホンマは指でサインコード切るだけで十分や。タダのお着替え《マキナ》やからな、なはははは! ……おおぅ!? ルルナも、よー似合っとんなーソレ」

「うわッ!? いつの間にオレも……ッ!」


 気づくとオレも——リリオのと似たような、こっぱずかしーギリギリコスチュームに身を包んでいた。


 水着のような薄手の黒生地と、透明ビニールのような不思議な素材の組み合わせ。そのカットラインがリリオのものと少し異なり、胸の谷間部分の大胆な三日月型ラインが左右逆だったりする。

そして、まるで何も身に付けてないかのようなスースーした着心地。たしかに、動きやすそうではあるが——

「なあ。こ、コレは着ないといけねーのか?」


「モチロンや! ソレは防御力と機動力アップを兼ねた超特製パワードスーツ——『ムーンクロス』やし、ウチらはもうペアやろ? 『ザ・ムーンテイカーズ』結成やな!」


 勝手にドロボーペアを組まされちまった。

「……でも普通、女の子どうしがペアを組むときって、真逆のタイプが組んだりしねーか? 頭脳派と体育会系とか、清純派と肉体派とか……」

 星伽とオレとか、星伽とオレとか……。うッ! ついつい星伽がこのコスチュームを着ている姿を想像しちまった! その意外な破壊力にオレの鼻腔内の血管が……ッ!


「ホラ! ウダウダ言っとらんと、さっさと行くで! ——《エアリアルの◯ウインガ》!」

「わ!? ちょ!? コラ!」


 もじもじしていたオレの腕を掴んだリリオは——池の真ん中の小島へと向かって、猛スピードで飛び上がった。

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