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ザ・ムーンテイカー!  作者: ひろつー。
12/42

  テイク2  お嬢さまの好きなひと(3)

「(ルルナ、ココには金目のモンはなさそーやな)」


 レイの部屋へ上がる階段の途中で、オレにそっと耳打ちするドロボー少女。

「(オマエな……。コイツん家は母子家庭だ。フザけたコトすんなよ?)」

「(……冗談や。ウチは金持ちからしか奪わへんで)」

「(そーしとけ。でないとそのうちホントに捕まるぞ?)」

「(心配すんなや。この間は刑務所にブチ込まれる寸前に脱走したったで)」


「捕まってんじゃねーかッ!?」


「え、えっ!? どうしたの? 瑠琉南さん?」

「何でもねーよ!」

「あ……。ここがレイくんの部屋ですか?」


 何てコトない普通の地味な部屋だが……、勉強机の上には、オレと肩を組んで写っている写真が、三枚飾られている。幼稚園の卒園式、小学校の運動会、中学校の修学旅行……。

 ちなみにオレとレイが、星伽と初めて会ったのは高校に入ってから。それまでは違うガッコーだった。


「…………」

 複雑な表情で、ソレを眺めている星伽。

 やっぱり、星伽は……。

 するとレイが、いつもどーりのオドオドした表情で、


「ね、ねぇ瑠琉南さん。何か今日……怒ってる?」


 は? オレが?

「怒ってねーよ!」

「まーまー。ルルナはお腹が減っとんのや。レイ坊、お茶菓子でも持って来てやってや!」

「あ、そ、そーだね! すぐ持ってくるよ!」




「もしゃもしゃもしゃ。ンマンマ!」


 遠慮なくレイのベッドに座り、テーブルの上に出されたクッキーをがっつくリリオ。

 床の上のクッションに座ったオレは、

「オイ、オマエ食い過ぎだ! オレと星伽の分もとっとけ!」

「半分くらいでえーか? むしゃむしゃ」

「あのなー……」

 あまりの子孫の図々しさに呆れかけたが。


 ……まさかコイツ。これまでずっとそーやって生きてきたんじゃあ?


 あのウサ耳警察官やら何やらに追われて、逃亡生活を続けているとゆーのなら。食べられるときにはしっかり食べ、寝られるときには寝る、そーゆーコトなのか?

 そこまでして。


 何でコイツはドロボー——もといトレジャーハンターなんかを続けているんだ?


 オレが子孫の生き様を真剣に心配していると、オレのとなりに座っている星伽が、

「レイくん、このバタークッキー、とっても美味しいですね! どちらのお店のですか?」

「あー星伽。コレはレイの手作りだ。だろ?」

「う、うん。今朝焼いたんだけど……」

 レイの数少ない特技だ。


「えっ? そ、そうなんですか? 凄いです! 有名なお店で売っているものよりも美味しいですっ!」

「むぐッ!? マジかレイ坊? げほッ! マジでウマいで! 昨日ルルナにもらったヤツの百倍はイケてるで!」

 リリオ、喰い終わってからしゃべれ。

「オマエ、ソレはオレにクッキーくれた先輩に失礼だろ」

「…………」

 なぜか少し黙り込んでいる星伽。

「レイ坊……、もしかして、お料理もできたりするんか?」

「う、うん。レストランに出て来るようなのじゃなくって、家庭料理ぐらいだけど——」


「ウチのムコ、テイクや♪」


 横に座っていたレイの腕を、ぐっと掴んで引き寄せるニコニコ顔のリリオ。胸、当たってんぞ!

「——ふ、ふえぇっ!? リ、リリオさんっ!? 何を……っ?」

「コラァッ!? テメー、何態度を豹変させてやがるんだッ! ソレにソイツはオレの下僕だ! 勝手にテイクアウトすんじゃねえッ!」

「古今東西、お料理上手の男子は、おムコさん候補としてメッチャポイント高いやろ? ……何やルルナ、もしかしてヤキモチやいとんのか? うぷぷぷぷッ!」

「何でオレがやくんだよ? ソイツはありえねえ」


 レイはまだお子さまだし。第一、身体は女でもココロが男のオレが、一応性別は雄のコイツを恋愛対象にするコトなんて——太陽と月がひっくり返ってもありえねーだろ!

 ソレに。ヘタレのコイツは将来結婚相手なんて自力で見つけられねーだろーから、オレがふさわしい相手をみつくろってやんなきゃなぁ。まったく世話の焼けるヤツ——


 ——いや待て。

 も、もし星伽が、ホントにコイツを好きだったのなら——


「リリオさん。レイくんは瑠琉南さんの幼なじみで、弟さん同然ですから……。勝手に持ち帰ってはダメですよ?」

 ちょっと遠回しだが、星伽のほうがヤキモチを……。

「けッ! ジョーダンや。ウチがこんなヘタレ、相手にするワケあらへんやろ?」

「ふえっ? ふえええんっ!」

 ばっ、とレイを突き放し、ふふんッ! と意地悪く鼻を鳴らした自称オレのイトコは、


「そーいや、セイカはお菓子とかお料理とか作れるんか?」


 ぴくり。リリオの質問に、動揺する星伽。

「えっ!? い、いやその、わたくしは……。でも、作ってみたい、です……」

 なぜかオレの顔をチラチラと見る星伽。何だ? 何のサインだ?

「そーやろ? そんで、好きなひとに食べてもらえたら、ごっつサイコーやで?」


「……好きな、ひと……」


 ぼっ、と、色白の顔を真っ赤にする星伽。

 そーか! もしかしてオレに、応援してもらいたいんだな! し、仕方ねえッ!


「オイ、レイ! 星伽に、お菓子作り教えてやれ」


「えっ? 何で……?」

「何でじゃねえッ! これはご主人さまの命令だ! 異論は認めねえ。いーな?」

「べ、別にいーけど……痛い痛いっ! 瑠琉南さん、何でホッペをつねるの?」

「さーなッ! どーしてだろーなッ!」


 ソレは……ぶっちゃけ星伽がオマエに気があるコトが、メッチャ悔しいからだッ!

 あああ、オレの星伽が……。そーか、ソレでちょっとイライラしてたんだな、オレ。

「あ、ありがとうございます、レイくん」


「そーや! 今度はセイカのお家でお菓子作りしよーや! どや?」


「「「!?」」」

 ……そーか、さっきの誘導尋問は、コレが狙いか。この小悪党め。

「星伽、どーだ? オマエの予定は?」

「明日の日曜日なら、空いてます。父さまと母さまは出掛けて不在ですが……、そのほうがくつろげますよね?」

「よっしゃ、決まりやな! グフフフフ……」

「あの……、もちろん瑠琉南さんも、来ていただけますよねっ?」

 まあ、レイとイキナリふたりきりはねーな。協力してやっか。

「ああ、いーぜ」

「もちろんウチも同行させてもらうで! グッフフフフフ!」


 整った顔を歪め、不敵に笑う『ザ・ムーンテイカー』。

 別にフツーに星伽ん家にオレと遊びに行けばいーのに。まわりくどいマネを。

 でも確かに。こーいったちょっとした理由があったほうが、十条家の人々が初対面のコイツに対して警戒心を持ちにくいよな。

 猪突猛進の押し込み強盗タイプかと思ってたが——意外と考えてやがんな。コイツ。


「もぐもぐ。ごっそさん!」

「あ!? テメーいつの間にオレの分まで!?」

「わたくしの分のクッキーも……」

「何ゆーとんねん? 古今東西、世の中先に奪ったモン勝ちやで! グハハハハ……ぐふうッ!?」

 食い意地の張った身内に、制裁のみぞおちパンチ。


 前言撤回。コイツはやっぱ——タダのアホだ。

次回、新章『要塞の守護者』突入だよっ! お宝テイクに、いよいよ要塞へ侵入っ?

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