会社競争の目撃者
はは…。
私は見てしまったのだ、殺しの現場を。
フラフラっと仕事帰り、童心に戻ってちょっくら冒険だなどと抜かしてしまったからだ。
廃マンションに不法侵入、これはこれでダメだがバレなきゃ犯罪じゃないだろう?
元々誰もいやしないんだから。特に問題じゃない。
子供の頃はよくこういった形で肝試しを楽しんだものだ。
廊下をスタスタ歩いて何があるのかを探索、この時は実にいい気分というか。
仕事のイライラが発散されて実に良い!
…あれを見るまでは。だが。
しばらく歩いてたらよう、ひとつだけうっすらと明るい部屋が一つあってよ。
こんな夜中に廃マンションに誰かいるなんて不気味だろ?
恐る恐る覗いてみたわけよ、すると中には大柄の男が一人。
何やら作業してたわけ…もうちょっと、もーうちょっとって。
様子を見ようとしたもんで、うっかり足元のバケツを蹴っちまってさ。
咄嗟に男は振り返ってきおって、さすがにこの時は焦ったわ。
「うわっ!?」
うっかり声を漏らしてしまって、もう隠し通せないから逃げようとしたその時。
右腕が強く引っ張られたんだ。
「何をしている」
「い、いえこれはその…」
言い訳すら思いつかなかった、それはそうとまだその男が何をしていたのかは知らない。
「見たな…?」
「な、なにを…です」
男は強く掴んでいた右腕を離し、部屋へと戻った。
恐る恐る付いて行くと作業台の上には人の頭があってさ。
「こっ…これは…」
「これは頭だよ、さっきまでうるさかった人の頭」
男はそれをボールでも扱うかのように手でそれを遊んでいた。
「私はね、殺し屋だよ。」
「ってことは…」
「見たからには、死んでもらう。」
予想した通り…来るんじゃなかったと後悔したよ。
しかし予想の斜め上の方向に行ったんだ。
「でも殺す気はない」
この時、少しホッと胸をなで下ろした。
「だがただで生きるなんぞ許すわけがない。そこでおまえさんに試練を与える。」
「そ、それは…」
「ある人物の殺害を企ててもらいたい。」
人殺しをしろというのか!!内心そう思った、しかしそうでもしなければ自分の命がない。
それはわかっていた、しかし殺しなんてできるわけ…。
「出来ない、とでも思ってるんだろうが…さもなくばお前を殺すだけだ。」
やはり突いてくる所は予想通り…従うしかあるまい。
「だ、誰を殺せば…」
「それはこのファイルの中にすべて収まっている、家に帰って確認するがいい。」
書類の収まったバインダーを渡され、無くさないように鞄にしまうことにした。
「これをこなせば…助かるのか??」
「あぁ、もちろん。約束は必ず…」
これはもう不幸中の幸いってやつだ。全くもって脅かしやがる。
ターゲットはなんとうちの会社のライバル社の社長…噂だがヤクザの組み丸ごとを牛耳ってるってもっぱらの噂だ…関わらないほうが身の為なんだが、関わらなきゃ命がない。
とりあえず出勤だ。
「おはようございまっす、先輩」
「や、やぁおはよう。」
「先輩、顔色悪いっすよ?大丈夫っすか?」
悪いもなにもこちとら人を殺さにゃならんのだ!!
しかし敵が無関係の人じゃなくて良かったってのもある。なにせ相手はライバル社の社長。
うまくいけばこっちの景気がよくなる。会社貢献プラス命を守る。
一石二鳥じゃないか、こなせばそれなりの報酬も出るって話だ。
だがやはり事は重大、なにせ人一人を殺すんだからな。
「そういえば先輩、最近社長見ませんね」
「あぁ、休暇だと聞いているが。どうしたものかね」
まずは殺すための計画を練らなければならない…簡単なことじゃない、失敗すれば死ぬんだからな。
あれこれ考え退社の時間、手っ取り早く考えた方法…。
それは事故に見せかけた殺しだ。
それなら容疑がかけられることもない、もっとも簡単な方法!!
そうと決まれば早速行動、まずは場所。
事故と見せるのに打って付けの場所、それは駅だ。
酔っ払いからの転落死、一番いい手ではないだろうか。
問題はどうやって落とすか、まず社長の帰宅状況を把握せなければならん。
一日休暇を取って社長のスケジュールを張り込み調査した。
午後10時40分の電車に乗って帰宅、この時人はガラガラ。絶好の時間帯だ。
早速実行。調査通りの時間帯にしかも定位置に居る。いける、いけるぞこれ。
「だぁーうるせーっちゅうに!こちとら会社の運営で忙しんだうらぁ!!」
どうやら誰かと通話中のようだ、もうすぐ通過列車が来る、このタイミングで落とす。
「あぁあの○○社の社長さん、最近みねぇなぁ。怖気づいてやめたか??」
うちの社長の話をしてやがる…。
「あぁ例の件な、見事成功したみたいだぜ。おかげでこっちの景気良好だぜぇ」
きた……今だ!!
「おろっ」
男は線路めがけて落下、通過途中で列車に引かれた。
やったんだ俺は。すぐにその場から自然を装い逃げたさ。
見事クリア!!ハラハラしたが、無事に終わったんだ…さっそくファイルに添付されていた電話番号に公衆電話からかける。
しかしこの番号はうちの会社の…どうなってるんだこれは。
この方がバレないからか?
「もしもし」
「「やつはどうなった」」
「へへ、やったよ、やったぜ」
「「…報酬はこの間の場所に置いておく、このことは他言無用で。」」
そして通話が切れる、なんとか乗り切ったようだ。
早く報酬をとり…。
「すいません、少しいいですか」
声のした方へ振り返る、目を疑った。そこには警察が二人もいたんだ。
「な、なんでしょうか」
「先ほどそちらで転落事故がありまして、いや、転落殺人、とでも言うんでしょうか…署まで同行願います。」
ここまで来て犯行がバレるだと!?耳を疑ったぜ。
「そ、そんな!私はなにも!!」
「話は署で聞きますよ」
「「昨夜10時35分頃、○○市内○○○駅で人身事故を装った殺人事件が起きました」」
「「被害者は大企業××社の社長○×氏です、容疑者は××社のライバル社に当たる○○社の社員です。容疑を認めております。」」
「「事情聴取を進めると殺害現場が他にもあると断定、調べを進めると殺されたのは○○社社長ということが判明しております、容疑者はこのことについては容疑を否認。しかし現場に指紋とうが残されていたことから容疑が確定しつつあります。」」
「あぁ、あぁ。うまくやりすごしたよ。…容疑はすべてあいつに追わせている。一人殺しているから否認は難しいだろう。…証拠?それについては問題ありません、ファイルについては燃やして処分させました。電話番号もあれはあなたの会社の番号、聞かれたとこで仕事についてとおっしゃれば良いのです。我々副社長という身が汚せる立場じゃないからな。次期社長もあなたで決まってるし、××社も次期社長はワタシに決まりつつある。うまく事が運びましたね。では。」