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人生ゲーム  作者: NAOX
9/15

想いよ、~大雅~

「CLOSED」

と書いてあるのにも関わらず、俺は中へと入る。

「いらっしゃい」

マスターが笑顔で迎えてくれる。

俺は少しだけ笑顔を見せて、バーに座る。


「たいちゃん。今日は何飲む?」

聞かれた俺はまるで漫画にでも描いたような台詞、「いつもの」と返す。

「珍しいね。二人がそろってるなんて。俺も久々に見たよ。」

二人?俺と・・・


誰?


まさかっ

後ろを振り向くと、そこには樹が窓を向いて座っていた。

思わず声が出て、

「樹」

マスターが「CLOSED」と、した意味が分かった気がした。こいつは有名人だ。それくらいしないと。

樹はこっちを向いて、じっと俺の目を見つめていた。

覚えてくれていないのか・・・

そりゃそうだよな。


こんな疲れた目をしているのがいけないんだ。

フリーターでいてはいけないんだ。


俺は諦めて、樹に背を向け、座った。



「大雅・・・?」

名前を呼ばれた俺はもちろん振り返る。

マスターは俺たちに気を使い、奥へと入って行った。

ラジオでも付けたのか、静かなバーに外国語らしき声がやけに響く。


俺はやっと口を開けて呟いた。

「覚えてた・・・んだ」

「当たり前だろ。俺の親友じゃん」

一緒に話してても俺と彼の間に壁がある気がした。

住む世界が違うような気がした。

だから俺は彼の隣、または前に座ろうとは思わなかった。

また彼に背を向けて、

「どう?・・・有名人として、生きてる今の人生。」

「ああ。最高だよ。俺はすっげー満足してる。でも今の俺、人気だからこうして二人きりで会えるのはこれで最初で最後かもしれない。」

と言って彼は笑うけど、俺にはあの時のように笑う事ができなかった。

「そういえば、お前、今なんの仕事してんの?」

それは聞かないでもらいたかった・・・

「言いたくないな・・・」

「なんだよ。プライバシーもたいがいにしろよ。フリーターにでもなったわけじゃないんだろ?」

笑いながら言う彼に俺は腹を立てた。

おいおい。

言葉には気を付けろ。

「そうだよ」

「え?」

聞き返すなよ。

「うそだろ。冗談もほどほどに・・・」

「うそじゃねぇよ」


フリーターで悪かったな。


なんだか崩れ落ちる音がした。気のせいなのだろうか。


また静かな店にラジオが響く。



ああ、あの瞬間に戻れたなら・・・















「大雅っ。亜李空が引っ越すかもしれない。」

携帯電話と携帯電話で通じながら話したあの時は今思えば宝のような日々だった。

「え?」

「来月だって。」

もうちょっとで高校だと言うのに、同じ高校に行けると言うのに、急に引っ越すなんて言われたって・・・

結局俺は亜李空に何もできなかった。よく考えれば「ありがとう」って言葉すら言われた事もない気がした。

どうせ俺と離れても何も感じないんだろう。

俺があの時告白するとも知らずに、彼女の日々は続いて行ったのだろう―



「引っ越すんだって?」

また携帯電話で通じながら話した。亜李空は電話の向こうでも笑っているような感じだった。だからか、普通に向き合って話しているようなそんな感じだった。

「うん・・・結構ショック。一緒に行きたかったよね、高校。」

「そうだな。・・・今度会えないかな」

「私はいつでもいいよ。」

会話は終了したが、週末に二人きりで会う事にした。



中学一年から三年まで、梨音と同じクラスになる事はなかった。

俺としてはなんとなく、ほっとしたのだが、梨音の事が好きなやつがいる、などど言う話を聞くと、やはり少しだけやきもちを焼いたのを覚えている。理由は良く分からないが、あいつは彼氏を作ろうとしなかった。全ての「告白」に断り、なんだか誰かを待っているような目で「ごめんね」と。



週末、樹の試合がある事をすっかり忘れていた。

引退試合・・・最後だと言うのに俺は予定を入れてしまった。しかし、あの気持ちを伝えないと俺は試合に行く事はできなかったであろう。

待ち合わせ場所に着けば、すでに亜李空がいた。携帯をいじり、ひたすら何かをうっていた。

俺の携帯にメールが届き、「今どこ?」と。もちろん亜李空から。


「ごめん、遅れた。」

自分で呼びだしておいて、待たせるなんて俺はやっぱ最悪な男だな。

でもこの想いを伝えなきゃ、亜李空を行かせる事はできなかった。


「ううん。大丈夫。久しぶりだね。・・・で、どうしたの?」

「・・・俺さ、色々考えたんだ。お前に何してやっただろうか、とかお前を満足させてあげられただろうかとか。でさ、思ったんだよ。俺やっぱお前が好き。何もしてあげられてない。だから、これからはもっと亜李空を幸せにさせてあげようって。」

言えた。これでいいんだ。亜李空は俺の目から目をそらそうとしなかった。

「変わんない。」

「え」

「大雅のその不器用さ。変わんないね。ホントに」

笑いながら言う亜李空に俺の体は勝手に動き、本当に気付いたら、抱きしめていた。

「ありがとう」

そう言って、亜李空は泣き始めた。


好きと言う感情。

愛と言う感情は、俺をまたいじめ、最後にはまた同じような結果が残される。


苦しめられる、俺の短いようで長い人生はまだ終わる事がないようだ・・・


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