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人生ゲーム  作者: NAOX
7/15

恩人~樹~

俺の恩人はあいつ。


いつも一緒にいた大雅でもなければ、あの時焼きもちをやいた梨音でもない。


亜李空である。

今の俺があるのはあいつのお陰。


だけど、最近は充実した人生を過ごせない。

ドラマの撮影は上手くいかぬ時があり、台本の一文を一瞬にして忘れてしまう。

昨日なんか、「ずっと愛してたよ。お前の事。だから、一生隣にいてくれ。」って言うセリフを、噛んで、「じゅっと愛してたよ。」なんて言ってしまい、NG~と言われ、笑われた。雑誌の撮影だって、「あ、まばたき、ちょっとの間しないでもらえる?」って言われたにも関わらず、何回もしてしまい、目をはっきりと開けた写真は数枚だった。「調子悪いねー。風邪?休んでもいいんだぞー。無理するなー」と監督に言われ、「はい・・・すいません。」とその会話が続く。


土日は、申し訳なかったが、休みをとった。

その代わり、来週は休みなしでお願いします。と言って、ちゃんとやる気がある事をアピールした。


今の俺は人気すぎて、街もろくに歩けやしない。だから、マネージャーの車に乗って移動するしかなかった。家に入るのも一苦労だ。マスクか何か、帽子か何かをかぶらなければ、一瞬にしてバレる。かぶっても時々、「あっ!あれ、輝樹じゃない?」などど言う会話が耳に入る。

家に入り、安心する。

ベッドにドサっと倒れ、そのまま天井を見つめた。













「あんたっ、ちょっと・・・何やってんの?」

自殺しようとした時の自分が時々蘇る。

学校の屋上から飛び降りようとした、あの瞬間。

亜李空が俺を止めに来た。

「離れなっ。そこから。危ないよ。・・・死のうなんて思ってる?」

「うん。思ってるよ。俺なんてこの世界にいらない人間なんだから。」

「誰がそんな事思ってるって言ったの」

「自分だよ」

「・・・バカじゃないの。今死んだら何失うか分かってる?」

「分かってる。」

「じゃあなんで・・・私、癒されてるよ。樹に。話してて楽しいもん。だから、これからも面白い話、聞きたかった。けど、もう終わりなんだね。」

亜李空の目からは涙がこぼれ落ちた。

地面に大きな水たまりができるような、大量の涙。

自分が情けなくなった。

手すりを注意してまたぎ、

「ごめん。」

と亜李空に謝った。そして、礼も言わずに俺はその場を去った。


あれがなければ、俺は死んでいた。

今はもう天国じゃなくて、地獄にいたはずだ。

もう遅いのは分かってる。けど、ありがとう。





卒業式が近づいてきて、一組の誰かがスピーチをやるという事が耳に入った。

大雅かと思ったけど、言って、違ったらなんか悪いと思い、何も言わなかった。


それは卒業式で分かった。

俺の話をしてくれた。

俺と糸でつながっていられると言ってくれた。

終いには、俺の詩だって読んでくれた。

そんな彼をもっと好きになった。



中学はバラバラだった。

けれど、お互い、会える時に会い、学校の話などで盛り上がった。

「また告られちゃったよ」

なんてそんな話をして過ごした。



大雅はかっこいいヤツだった。

俺が芸能界にいる方がおかしいくらいに。

今は何をしているのであろうか。

俺よりももっとかっこいい職業を見つけ、充実した日々を過ごしているはずだ。


「フリーターとかダサいし」なんて話していたのを忘れていないといい。

その前に俺をまだ覚えてくれているといい。







「樹、起きなさい。小出さん来てるわよ。」

あ、マネージャーをまた待たせてしまった。

「ごめん。今支度する。」

マスクと帽子をかぶり、外に出る。



あの時、このような都会の苦い味を味わわなくてよかった。

まずい空気を吸う事もなくてよかった。




ああ、今日も撮影だ。


気合入れていくぞ。



「いいねぇ。いいよー」

って言葉を俺は待ち続ける。


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