踏み出したあの一歩~梨音~
悩み事って一生続くんだな、と最近思い始めた。
幼かった頃は大人になれば全てが消えるようになくなるのかと思っていたがそれはどうやら違ったようだ。
どっちかと言ったら、私は成功した人なのかもしれない。
二十四歳で研修医。
今はちゃんとした医者。
満足している、今を、この人生を。
「担当の瑠璃垣です。一緒に戦いましょう。」
病室に入り、初対面の人に私はいつも声をかけていた。
それももちろん、自分の担当の患者だけ。
他の患者さんには、「こんにちは、体調どうですか?」と尋ねるくらいで、あとは任せた。
「怪我人、一人。足に重傷。受け入れますか。」
看護婦が言っているのに気づき、
「ベッドが一つ空いてるので、受け入れてください。私がやります。」
「はいっ。東区総合病院、受け入れ可能です。」
それから、彼女は「約5分後」、とボードにメモった。
手術中と言うライトを消し、オペ室を出た。
「ありがとうございます。瑠璃垣先生」
手術は成功した。
今のところ、失敗した事がない私にその言葉は当たり前のように感じてしまった。
椅子に深く腰を掛け、机にひじを付けて、少しの間リラックスした。
「はぁ・・・」
「スピーチ、すっごい良かったよ!」
大雅と樹は話していたのに、それにかまわず、大雅に言った。
「ありがとう。」
あの時の「ありがとう」は特別だった。
手術を成功した時の「ありがとう」ではなく、彼の愛情がこもっていたように感じられた。
「片付けの時がチャンスだよ。」
亜李空は私にそう言った。
何かと思えば、ふと頭に告白と言う字が浮かび上がった。
担任が片付けは一組がやるなんてそんな事言い出したため、私たちがやるハメになってしまった。
椅子を閉まったり、マイクを気を付けて持ったりなど、最初はめんどくさかったが、どんどんやって行くうちに、「ああ、これで皆といられるのが最後になるかもしれないなぁ」と思った。
だから私はこの後、皆で公園にでも行こう、と誘った。
三人くらい行かない、と言った人がいたっけな。
で、一人は行きたくない、と言った人がいた。
そう。
大雅。
樹と遊ぶと決めたらしく、断られた。
「ごめん、俺行きたくない。中学でまた会おう。」
そう言った後に彼は私に笑顔を見せた。
「好き。」
「えっ」
今私何言っちゃったんだろう・・・きっとあの時の私はそう思ったに違いない。
「幼稚園の頃から、あなたが・・・大雅が・・・好きでした。」
彼の顔は赤くもならなければ、私の前から立ち去ることもなかった。
「ありがとう。でもさ、俺たちは一生恋人じゃなくて、友達って言う糸でつながってよう。中学でまた会おう。」
さっきもそれ言ったじゃん・・・
私は、
「そっか。・・・ごめんね、急に」と言って、こっちから去った。
気付けば私は泣いていた。
心の中で自分に、「また会えるじゃない」と言い聞かせていたのに、自分のその優しさが痛かった。
恋って、愛って痛い。
陰で泣いていると、私を探していた亜李空に気付かれ、彼女は両手を広げた。
そして、彼女の胸の中に飛び込んだ。
彼女から聞こえたハートビートは泣いていた。彼女は私の気持ちを分かっていた。
「また出会いはきっとあるはずだから。前を向いて。躓いたら、手を貸すからさ。差し伸べるから。」
泣きやんだ私に亜李空はそう言った。
もう・・・また涙が止まらないじゃない・・・
でも桜は・・・
咲いていた。
満開に―