いつまでそうやって~亜李空~
気付いたら、隣にあなたがいた。
気付いたら、支えがあった。
希望をくれたのはあなた、ただ一人。
人生ゲームには番が回ってくる。
もしかすると、プレイヤーの神様が私達に、順番に試練を与えたのかもしれない。
偶然って、本当に愛してる人となるのかと思っていた幼稚園の私にさよならを告げ、新しい小学生生活を六年間、一日も休まずに学校へ行った。
私がいない間に何かが変わってしまいそうで怖かった。
とにかく全てにビビっていた私は、ある日、窓の外を見ながら何かを考えているような樹を見つけた。私は人の感情を想うのが好きで、樹の心の中がなんとなく見えた。
あの時体育をしていたのは一組。
つまり、梨音と大雅のクラスであった。
なるほど。
今でも当時の樹の心の中を思い出す事ができる。
真っ暗で何も見えなくなっている、樹の心が。
だから私は彼に話しかけた。
「口が軽い」なんてそんな変な噂が流れていたのは知っていた。
でもなぜ私が人にあの人は、どうだ、こうだ、なんて言わなきゃいけないんだ。
秘密は秘密でしょ?
私はちゃんと口を閉じます。
まあ、そんな事言ったら私の心も真っ暗で何も見えなかったのかもしれない。
最近は、親友の私なんかよりも大雅といる時間の方が長い梨音に、ちょっとイライラしていた。
もちろん、大雅にも。
樹の話を聞くと、つまり、私と同じ気持ちだったに違いない。
「だから俺、死にたいって思っちゃう」
聞きなれたフレーズ。
そう言えば、『切れぬ虹』に出てくる主人公の親友もそんな事言ってたな。
彼と本に出てくる『彼』は共通点があった。
だから私は思わず、
「『切れぬ虹』・・・」
と呟いた。
それもホントに小さな声で。
でも彼はそれがはっきり聞こえたみたいだった。
そして、
「知ってるの?」
「うん。」
あれ?
「樹も知ってるの?」
「俺、ベストセラーって聞いたから、買ったんだよね。もう読むの3回目。」
「そうなんだ。」
「大雅に勧めたら、あいつも読み始めたんだ。」
へぇ・・・
彼の話し方にはなんとも言えない特徴があった。
聞いていて全く飽きないと言う、すばらしい話し方。
過去の事を話している時だって、私まで彼と一緒にタイムスリップしているみたいだった。
彼は人を一緒に連れて行く様なそんな話し方をする人だった。
家に帰れば、可愛い幼稚園生の妹がいた。
彼女の笑顔を見ていると、過去にあった事がどうでもいいように感じてしまう。
「ねえ、七海。」
「なあに?」
「・・・お友達いっぱい作れた?」
「うんっ!楽しいよ!」
ああ、なんて美しい笑顔なんだ。
「今日ね、」
樹の事を話そうとした。
でも人の心の問題は他人に話すもんじゃない、と祖母に言われたのを思い出して、
「ううん。何でもない。お姉ちゃん、塾行ってくるね。」
「今日塾なの?」
「・・・うん。」
七海、ごめん。
うそついてごめんね。
でも、今何かを感じたから。
行かせてくれますか?