第二十一話 ルイナは十五歳。ミカゲは百十五歳
「お前、最近、感じやすいんじゃねえ?」
気にしていることを指摘されて、ルイナは押し黙った。
「馬鹿。なに泣きそうな顔してんだよ」
「……呆れてる?」
「呆れてねー。むしろ歓迎してる」
「ほんと?」
「ああ。やるか?」
「うん……」
力弥がベッドサイドに手を伸ばしていた。
「ねえ、力弥」
「なんだよ?」
「その変なの、どうしても着けなきゃ駄目?」
「スキン? やるなら着けるだろ、普通」
「そうなの?」
「そうなのって……。そういや、魔界にコンドームとかある?」
「ないよ」
「悪魔は避妊しねーの?」
「ヒニン?」
「妊娠しないようにしないわけ?」
「しないよ」
「ふうん、ま、そりゃそうかって気もするけど、魔界って人口増加が問題になったりしねーのかな?」
「さあ、よくわからない。まだ若いから」
「…なんかお前、時々、変なこと言うよな」
「それより、しようよ」
「わかってるけど、スキン、さっきので最後だったんだよ。確か、別のがあったはずだけど……」
「このまましたら、駄目なの?」
「オレよりルイナがやばいだろ。人間の子ども、孕んだらどうすんの?」
「あたし、まだ繁殖できないよ。若いから」
「え?」
「あと百年以上先だよ、受胎を認められるかどうかの審判受けるの。ミカゲだってまだ認められてないんだから」
「……お前、何歳なの?」
「十五歳」
「ミカゲは?」
「百十五歳」
「百十五?」
「ちょうど百歳違いなの。ぴったりだよ。凄いでしょ」
「……凄い。あいつ、あんな姿で百歳超えたばあさんだったのか。いや基本が男性体って言ってたから、じいさんか…。妖怪だな」
「妖怪じゃなくて、悪魔。寿命が人間より長いんだから、じいさんじゃないよ。ミカゲだって若いんだから」
「あいつが若者ならお前は赤ん坊じゃねーのか?」
「むー……」
「じゃ、ロリコンになった気分で挑むか」
「なにがロリコンよ。力弥より経験値は上なんだからね」
「淫魔のエロ経験が高校生より低かったら、ヤバくねー?」
「……力弥の馬鹿」
「あ、あった。コンドーム。よし、ルイナ、やろーぜ」
「だから、なんでその変なの、着けるのよ」
「馬鹿なことを有り難がるような、くだらねー男になりたくねーんだよ」
「はあ?」
「中出し出来るから、好きになったとか、オレは嫌なんだよ」
「はあ?」
「うるせーな。やんのか、止めんのか、どっちなんだ?」
「……する」
ルイナは力弥の言葉の意味が、少しも理解できなかった。ただ早く抱いて欲しくて、腕を首に巻き付けた。
力弥が覆い被さってくる。初めて抱かれたときは物足りなかったその身体の重さが、いまは切なく思う。
髪を撫でられて、目を閉じた。
「やべー……」
「?」
「なんか、すげー怖くなってきた……」
「…力弥……?」
「……オレは、お前を忘れない……。もし記憶を消されて忘れてたら、オレを殴って怒れよ。絶対、思い出すから」
「力弥……」
「約束しろ。魔界に戻っても、またここに来るって」
「……約束、する…」
力弥が記憶を失っても、自分がここにくればいい? 考えたこともなかった。 そんなことが、許されるんだろうか。
耳元にかすめる力弥の吐息に、胸が締め付けられそうになった。
そういえば、力弥はキスをしない。キスが嫌いなんだろうか。
ルイナはキスをしたかった。だけど、言い出せなかった。拒絶されたら、落ち込みそうな気がしたからだ。
施される愛撫の中で、ルイナは力弥の存在の大きさが怖かった。
きっと、力弥との約束は守れないんだろうな、と思った。そう思うと、泣き出してしまいそうだった。
ここまでお読みいただいて、ありがとうございました。
ルイナ視点はこの話で区切りになります。
二十二話から、力弥視点です。




