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リーングラードの学び舎より  作者: いえこけい
第二章
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強くて悪巧みスタート

 自分がメルサラに再会した次の日、教師陣との対面はあっさり始まりました。

 教師一同、全員の心中を代弁してみましょう。


「なんでこの人、ここにいるんだろう?」


 まさにこの一言に尽きるでしょう。

 朝の職員会議で学園長に改めて紹介された当の本人は眠たいのか、ものすごく不機嫌に眉を歪めて、意味なく虚空を睨みつけてます。


「メルサラ警備隊長はこの度の義務教育推進計画における、想定される障害に対して抑止力となるべく国王自らの強い希望によって、リーングラード学園の警備を任される運びとなりました」


 警備を任された人間が以前、学園を襲ったというのだから胸中は不安で一杯です。


「以前、来訪された時は教師陣の突発的対応を試すためのものだと聞かされております。防衛意識の高さにメルサラ警備隊長も感心を示していました。この評価は陛下にも届きますので皆さん、よく頑張りましたね」


 言い訳も甚だしいです。

 学園長も苦しい言い訳だと思っているようで苦笑いですが、まぁ、世の中、建前も必要ですものね。


 建前なく実際の罪を問うならば、悪くて内乱罪。良くて公務妨害罪。傷害、無断戦略級術式使用罪(わりと自分も破りまくってます)。

 【タクティクス・ブロンド】であることも差っ引いて計算すると……、鉱山送りですかね?


 メルサラは性格に難があるし、法務院直下に属していない面もあって、こういった場面になると非常に弱い立場にあります。もちろん、自分も同じなのですが、自分は一応、王派に属しているので最悪、バカ王を脅して強権発動も可能です。


 とはいえ、強権発動はなるべく避けたい事態でもあります。

 バカ王……というよりもベルベールさんが持つ切り札を何枚か使わせるハメになりますし、迷惑はかけられない。


 しかし、こうしてバカ王がメルサラをかばった理由は……、なんでしょうね?

 メルサラをこの位置に置くためにまず強権発動は必須でしょうし、切り札を使ってまでメルサラをここに置く理由……、思いつきませんね。


 それこそ、嫌がらせの類だと思った方が楽チンです。


 もしかして、置かざるをえなかった、となればまた違うのでしょうが。

 うん、読めませんね。素直に二ヶ月後のベルベールさんの手紙を待ちましょう。

 ベルベールさんなら、もっと早く手紙を送ってくれるかもしれませんし。


「ではメルサラ警備隊長、簡単な挨拶で構いませんので一言お願いしますね」

「あー、めんどくせぇなぁ」


 やる気のないメルサラはコキコキ、首を鳴らして腕を振り回しています。

 だるいんでしょうが、自分たちも貴方を受け入れるのは面倒なので我慢してくれませんか?


「とりあえず、アレだ。ヨシュアン!」

「なんですか」

「この学園回りの魔獣の情報とか出せ。根こそぎぶっ殺してやんよ」

「却下です」


 これに教師陣が驚き顔でした。

 メルサラに至っては眉根を歪めて、正気でも疑うような顔でした。


「正気かヨシュアン? 面倒くせぇ上にヤりたくもねぇがよ、王命だし仕事っつってんだ。わざわざ魔獣狩りしてやってやるっつーんだよ。オレもお前もテメェらの弟子もまとめてハッピーになれる方法だろーが」

「残念ですが、それだと学園全体はハッピーにならないんですよ」


 魔獣は人類の敵。

 その認識は間違っていません。


 居るより居ないほうがいい。繁殖する黒いヤツと同じレベルで。


「うるせー! オレがヤるっつってんだよ! ヤらせろ!」

「言葉に気を付けましょう。生徒たちが真似したらメルサラのせいですよ」

「あ? テメェ、あんま調子こいてると殺すぞ?」


 メルサラの闘争心により集まってきた赤の源素が部屋の温度をあげてくれます。

 イヤだなぁ。最近、暑くなってきたのにこれ以上、暑くされても。


 一触即発の空気、触れれば冗談抜きに爆発する。

 アレフレットなんか青ざめて、女性陣も身を引き始める。


 ここで勇者ヘグマントが自分とメルサラを諌めようと、自分たちの間に割って出てくる。


「まぁまぁ、ヨシュアン先生。ここはメルサラ警備隊長に任せてしまったほうが良いのではないか? 考えてみればこの地にも少ないとはいえ魔獣がいる。警備に回っている冒険者が定期的に魔獣狩りに出かけているが、週に一度、あれば良いほうだ。我々も協力できれば生徒たちにも類が及ばなくて済むが教師の業務が忙しすぎて手が回らんのが実情ではないか」

「違いますよ。別に魔獣退治に反対なわけではないのですよ。ただ、ソレをするのはメルサラであってはいけないんです」

「文句があんのなら拳で語れや!」


 ヘグマントを抜けて、下方から這うように接近しはじめたメルサラ。

 術式も何もつけていない、源素だけより集めた拳がアッパーで迫ってきます。


 しかし、ヘグマントが自分とメルサラの間に立っていたおかげで、自分はメルサラの攻撃予測を簡単に行えました。

 ヘグマントを抜けてきて、攻撃を行う予測は4パターン。

 上下左右。これだけなら、あとはメルサラの癖と照らし合わせて簡単に受け止められます。


 自分は片足をちょんと前に出して、メルサラが繰り出した拳側の肩を止めてやりました。

 それだけで拳はもう、届いてこない。


「文句ではなく計画です。メルサラも協力してもらいます」

「計画ぅ? またロクでもねぇことかよ」


 肩を足で押してやるとメルサラは自分から後ろに飛んでいきました。

 そのまま華麗に着地すると、あっさり攻撃態勢を止めて、また学園長の隣に帰っていきました。

 あいかわらず熱しやすく冷めやすい鉄みたいな女です。


 学園長も教師たちも、何のことなのか眼で問いかけてきてます。


「言ってみろ。テメェのせせこましいクソったれた計画とやらをよぉ」

「ヨシュアン先生。メルサラ警備隊長はまだ、この学園の問題についてよく知らないのですから、ちゃんと説明をしなければ無用な諍いの原因になります。また、何か思いついたというのなら、協力できる者もいるでしょう。何か考えがあるのでしょう?」


 学園長にも諭されました。


 さて、ここで全部を話してしまっていいものか。

 少しだけ考え、結局、全員の協力……、どころか学園人員全てに関わることなので先に話すべきだと結論を出しました。

 ただし、完全に説明はしません。


 今回の計画、貴族院のスパイにとって非常に罠を張りやりやすいものでもあるからです。

 計画前に罠を仕込まれると困る仕様です。


「全容はまだ話せません。ですが、各人にやってもらいたいことはあります」

「全部を話せないくせに協力しろだなんて、ずいぶん上からの物言いだな」


 と、アレフレット先生による明確な指摘がなされました。

 意味がないのが救いです。


「まぁ、いいじゃないかアレフレット先生。何やら面白そうだ」


 ヘグマントは前向きでいいですね。


「では、ヘグマント先生のお言葉に甘えて」

「僕の意見は無視か!」

「まずヘグマント先生は各生徒の力量を詳しく測ってもらいたいのです。個人力量がどの魔獣相当なのか、わかりやすく。それと今週の体育は学習要綱を前倒しにしてチームプレイを教えこんでください徹底的に」

「聞けよ! 人の話! やるだなんて言ってないぞ」

「うるせー! 青瓢箪! 炭にすんぞコラ!」


 メルサラがキレました。

 アレフレットはもう、可哀想になるくらいビビってます。

 そりゃ、あのメルサラが相手ですからね。アレフレットくらいだと手も足もでませんし。


 アレフレットに限らず、誰だって爆弾に矛先向けられたらビビリますがね。


「メルサラはリーングラードの魔獣分布を正確に調べてください。警備班の何人か連れていっても構いません。適度に間引きできるなら、お願いしますね。で、リィティカ先生はメルサラについていってください」

「はへぇ……? あのぉ、私ぃ、戦うのはちょっとぉ……」

「そのためのメルサラです。メルサラはリィティカ先生を全力で守ってください。傷一つでもつけてみろ。殺すからな」


 満天の星空よりも美しいリィティカ先生に毛筋ほどの傷でもつけてみろ。

 殺すだけで済むと思うなよ。


「カカッ! そいつも面白そうだぜ……、おいおい、こんなところで戦略級の術陣編むなよ。こっちは王命で施設の破壊を禁止されてんだぜ? オレが関わる全部がオレのせいになるんだっつーの。罰金取られたらどーすんだよ」


 それは初耳ですね。

 おそらくベルベールさんがつけた罰則という名の首輪でしょう。

 しかし、やっぱりメルサラと思えないくらいの素直さですね。この罰則を守りきればメルサラにもメリットがあるのかもしれない。


「リィティカ先生は植生分布を明確に調べてもらえますと助かります。アレフレット先生は魔獣と植生分布を元にリーングラード周辺の地図を作ってください」

「は、はぁ? いずれ採取の授業もありますしぃ、それは大丈夫ですぅ」

「地図ぅ? この僕に一体、何の片棒を担がせるつもりだ」


 正反対の反応、ありがとうございます。

 もちろん、感謝はリィティカ先生のみに贈られます。


「ピットラット先生はマントや旅装、火打石や術式ランプ……は、無理ですね。ともかく野営を想定した簡易キットを組み合わせを……、出来うるかぎり用意していただけると助かります」

「承りましょう」

「シャルティア先生は……」

「あぁ、言わなくてもいい。大体、察しはついた。一両日中に調べて適正金額を提出してやろう。あとは、設置場所をどうする?」

「食堂か、節制の協力の張り紙があった掲示板あたりのどちらかが無難ですかね?」

「ふぅん。悪くない。言ったとおりだったが、さすがにこう大規模に考えてくるとは思わなかったぞ。あいかわらずお前は奇っ怪なヤツだよ」


 奇っ怪とはなんですか。


「シャルティア先生はヨシュアン先生のやりたいことがわかるのかね?」

「まぁな。学園長の許可は必要だが、失敗してもこれらの準備自体、他にも流用できるようにできている。無駄に織りこんでるな」


 無駄は余計です。


「なるほど。ではヨシュアン先生の提案を元にそれぞれの資料を提出してもらいましょう。期限は来週です。来週の参礼日の次の日、週始めにこれらを実行に移す算段を致しましょう。さて、そろそろ授業の時間が始まります。皆、各々の仕事を全うすべく善処を。あとヨシュアン先生。私には口頭でもよろしいので、今回の計画の概要をお聞きしましょうか」


 まぁ、学園長には隠し事するわけにもいきません。


 鐘の音と共に、バラバラに散っていく教師陣とメルサラ。

 そして、残された自分と学園長。


 三つの案件を一気に解決するための方法。

 その最初の一歩はなし崩しに始まったのでした。


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