責任感を収める場所がない
プルミエールは何を信じなかったのか。
いえ、信じられなかったのか。
信じる態度や信じさせる言葉をレギィは見せもせず語りもしなかった。
なぜならプルミエールはメイドであって生徒ではありません。
世話をするのではなく、させなくてはなりませんでした。
「教育方針の差を考えさせられますね」
そう考えると自発行動を取らねばならない分、生徒たちよりも制限がある自由だったと言えます。
生徒とメイド、どちらが良いかなんて比べるものではありませんが。
矢継ぎ早に繰り出される爪の動きはただ振り回しているだけでしたが、一撃一撃が非常に重く、まともに受けてられません。
忙しなく立ち位置を替え、回避に専念していても少しずつ、ワイシャツが刻まれていきます。
いずれ手痛い一撃をもらってしまいそうですね。
なら、こちらも戦術構成を変えましょう。
「リューム・プリム」
この後のことを考えると身体を傷つけるわけにもいきません。
理性があれば避けるだろうリューム・プリムにぶつかり、宙に浮くプルミエール。
力が大幅に上がったとはいえ重さまで変わりません。
女性一人分浮かせるくらい造作もありません。
「リム・クルミクリ」
白の源素で構成された術式に導かれて、白い玉が浮かびます。
着地したプルミエールに白い玉が当たった瞬間、染み渡るように消えてなくなりました。
セロ君用に書かれていた術式ですが、効果のほどはどれくらいでしょうか?
何せ初めて使う術式です。
ですが下級ですので失敗はありえませんし、効果もよくわかっています。
疑問に思わず、すぐに自分へと飛びかかろうとしたプルミエールはストン、と転んでしまいました。
立ち上がろうとしてもうまく自分を支えきれないどこから、身体を動かそうとするたびにどこかしらが滑ってジタバタとしていました。
「人が物を持つときに持ちやすい物と持ちにくい物があります。同じ重さでもザラザラしているものとツルツルと滑るもの、どちらが持ちやすいかと問われたらザラザラしたものです。なぜ物体の形状で持ちやすさが変わるか。摩擦という力が働くからです」
何かの物体が接触しながら動こうとしたとき、接触している部分は動こうとする力を妨げる力を生みます。
この妨げる力が摩擦です。
人間関係の食い違いなんかも摩擦と言いますが、それは耳が痛いので横に置いておきましょう。
「知っていますか? 摩擦がなければ人は殴ることも蹴ることも、歩くことすらままならなくなります」
偶然、草や枝にうまいこと引っかかるのかどうかは分かりませんが、地味にゆっくり等速で左へ右へしてますね。
とりあえず物理結界で閉じ込めておきましょう。
ちゃんと内側に作用するようにアレンジしておきました。
様々な無力化がある中でこれを選んだ理由は、力が作用しづらいからでしょうか?
プルミエールが自分に攻撃しようとするとき、腕力、肉体耐久度、速さ、質量などがかけ合わさって威力になります。
そうして何度も攻撃すればするほど耐久度は下がっていきます。
皮膚が破れ、骨が砕かれ、物体として硬さを失います。
簡単に言うと【狂化】によって、いずれプルミエールは己の膂力で自身の肉体を破壊してしまいます。
これだと自分が回避に専念していても無傷とは言い難い結果です。
最悪、そこらの木にぶつかって自滅して終わり……、なんてことにもなりかねません。
「【狂化】は自殺行為ができても自殺はできません。自殺する理性がないんです」
立ち上がることすらできないプルミエールは己の手足だけを無意味に草のカーペットに叩きつけるだけです。
宙に浮かすという術式もありますが、こちらの方が源素のコスト面で良かったので選びました。
しかし、見ているとだんだんとプルミエールの衣服が脱げていっているのですが、これは一体……、あぁ!
「摩擦がないから衣服が脱げている!?」
あらわになる赤みを帯びた肌。
まだまだ発達に余裕がありそうな肩から始まり、セミの脱皮のように背を空気に晒し、スカートなんかも既に脱げて……、ですが顔が正気を失っているので全然、色香がありません。
そういう原生生物みたいな感じです。
基本、衣類って摩擦のおかげで成り立っていますからね。
いえ、生物の身体もある意味そうですが、下級術式に摩擦ゼロの空間なんてそこまでの性能はありません。戦術規模でそうした範囲を作れても個人レベルでしょう。
いえ、まぁ、事情が事情なので仕方ないですね、えぇ。
「と、ともあれ【狂化】による強化は戦術的価値はほとんどありません。と言っても聞いてはいないでしょうが」
なんとなく授業っぽくしてみました。
返ってくる言葉はもはや擬音も難しい呻き声でしたが、納得していると判断しましょう。
【狂える赤鉄】のようなイカレた物量なら脅威ですが単騎で、しかも自分より強い相手には悪手中の悪手です。
ましてや自分のように手数を揃えている相手に使うのは論外です。
零点しかあげられません。
最初こそ予測してなかったのですこし慌てましたが、こんなもんでしょう。
「これで時間稼ぎはできました。後は……」
ジタバタとしているプルミエールは滑稽でしたが、考える時間は必要です。
何せここからが問題です。
リィティカ先生が戻るまでに可能な限りプルミエールを傷つけない。
これは達成できました。
しかし、そのあとリィティカ先生が行う施術が問題です。
注射器を使うとは思いますが、何かを飲ませるにしても暴れるプルミエールを押さえつけなければならないのです。
内源素をハッキングする――これは魔薬の効果と特効薬の効果、両方の邪魔をする可能性があります。
無難に拘束する――しかし、簡単な拘束術式では【狂化】は縛れません。レギィと合成術式を使って干渉してしまえば、あぁ、そういえばレギィに干渉してもらうという手もありますね。
肉体の支配権の干渉。
やって出来なくないでしょうが内源素への影響まではわかりません。
できれば物理的な手段で動きを止めておきたいところです。
色々ある術式、覚えている術式の数は膨大です。
あの黒色ゴキブリを死なすためだけになんでも覚えましたからね。
……あれ? 今、ものすごく大事なことを見落としているような気がします。
とりあえず【獣の鎧】を解除して、現状維持に努めました。
空もすっかり日が落ちて暗くなり、やがて人の気配とうっすらと術式の光が見えてきたことで自分も次の戦術の準備をします。
「ヨシュアン。どうなって――どうなったらあんな有様になるのですか?」
軽銀板に載せたリィティカ先生と一緒に降りてきたレギィはプルミエールを見るなり、ものすごく冷たい眼でこう言いました。
「何か問題でも?」
「問題しかありません! どうしてプルミエールが服を着ていないのですっ!」
これは第三者が見たらどう思うのでしょうか?
なんかヤバい表情をした全裸の少女がジタバタしているのを黙って見ている男という、風聞の悪い光景なのでは?
「事は一刻を争います。メルサラだって昔、上半身裸のままで襲ってきたことがありますよ?」
「それは言い訳しているつもりですか!」
戦闘時にエロいことを考えている暇があったら、一人でも多く殺すことを考えるべきなんですがわかってくれません。
「どちらにしても、育っているとはいえ子供の裸なんて見てもなんにも思いませんよ」
「そういう問題でもありませんっ!」
怒っているレギィを片手で押さえつつ、何も言わないリィティカ先生の方も伺ってみました。
リィティカ先生も怒ってないといいのですが、どうやらそれどころではなさそうな空気でした。
リィティカ先生の顔が非常にこわばっていたのはアレですね。
軽銀板に乗るなんて奇っ怪な体験をしたからでしょうか?
そういうのとはまた違うような気がします。
「どうして数多ある術式の中から、よりにもよってコレを……、しかも何故か私の術式よりも出力が高いように見えます」
『眼』を開き、術陣から術式を眺めとったレギィの答えは正解でした。
「理解の差ですね。メルサラが大雑把な火力しか使えないのは火に対する理解が破壊力に特化しているためです。ほぼ真理に近い理解力があるのにも関わらず……、いえ、この話は後にしましょう」
危うく教師としての癖が顔を覗いてきました。
こんな時に教えたがってどうするつもりですか自分。
「そんなことを聞きたいわけではありません!」
怒られても困ります。
「確かに術式の選択を誤ったのは申し訳ないですが、今はプルミエールの生命が先決でしょうに」
「……あとでじっくりお話を聞かせてもらいますからね」
レギィも優先するべき問題があると理解してくれました。
これは後でお説教なのですが、まずは問題を解決してからです。
もちろん解決は早ければ早いほど良い。
少なくとも薬が脳をズタズタにして、取り返しのつかない事態になるまでは病気の感染源と同じようなものです。
「さっそく始めましょう。長く潜伏すればするほど性質が悪い。それも病気以上に。話は聞いていると思いますが……リィティカ先生?」
リィティカ先生が普段、見せない厳しくも怒りにこらえているような顔をしていました。
その表情はよく知っています。
身内を殺された人が同じような境遇の人を見て義憤に燃えている……、決して許せないからする顔です。
すぐに険しくも真面目な眼差しに変わると愛用の革鞄を開きました。
「……なんでもぉありません」
「投薬の方式を聞いても?」
「この薬を使いますぅ」
鞄から出てきたラベルの貼られた小瓶。
察するにアレがリィティカ先生の師シューリンが作っていた特効薬なのでしょう。
「ヨシュアン先生にもぉお話したと思いますがぁ、特効薬は未完成ですぅ。私の持っているこの薬もシューリン師が連れて行かれてからぁなんの手も加えてませぇん」
臨床実験すらしていない試薬をぶっつけ本番で臨むとか……、医学会が聞いたら耳を真っ赤にして怒鳴り散らす所業でしょう。
「なんの臨床データもありませぇん。もしかしたらぁ……」
死ぬかもしれない。いえ、死ぬ可能性のほうが高い。
「どちらにしても放置したら死ぬんです。それだと誰もが困ります。困ったことに」
リィティカ先生は小瓶を眺め、少しだけ不安そうな顔をしていましたが目を瞑り、悔しい顔と共に目を開きました。
「……わかりましたぁ」
言えない葛藤もあったのだと思います。
体調を崩したセロ君のことで涙したリィティカ先生はここでもまた同じことをしなければならないのですから。
あの時との違いは今の方が逼迫していて、背に腹を変えられない部分もあります。
「何かあった時は自分の責任にしてもらっても構いません」
このセリフにレギィがムッとした顔をしました。
逆にリィティカ先生はゆっくり首を振りました。
「ヨシュアン先生の責任にするつもりはぁありませぇん。薬道に居る身とはいえぇ、作った薬に責任をもてない人になりたくないのでぇ」
なんて崇高な女神なんですか、リィティカ先生は。
もう殺してきた貴族全員に聞かせてやりたいですね、涙して崇めやがれ。
さて、注射器での投薬なのですが一番、難しい問題です。
飲ませる方も難しいのですが注射器の場合、皮膚から直接、刺さねばなりません。
ですが【狂化】した筋肉によって針が刺さらない可能性もあります。
【獣の鎧】を使えば自分でも注射器くらい、皮膚で止める自信があります。
「わかりました。術式を解除した後、自分が捕まえますのでリィティカ先生は合図したらお願いします」
「はいぃ」
「では、いきます」
摩擦軽減の術式を切った瞬間、プルミエールが地面を掴み、四足の獣のような姿勢を取っています。
すでに自分も【獣の鎧】を纏わい、プルミエールを押さえこむ準備は終わっています。
【赤の獣の鎧】ではなく【黄の獣の鎧】です。
その姿は全身を覆う赤と違い、黄はむしろもっとスマートな体型でしょう。
可能な限り肉体のパフォーマンスを落とさず、肉体制御を中心に置いた【黄の獣の鎧】はまるでヴェーア種の中でも獣に近い種族のような形状をしています。
一番、見た目のいい【獣の鎧】です。
若干、力は落ちますが非常に小回りが聞いて動きやすいのが特徴です。
力に対して技。
これで行きましょう。
「―――!」
存分に力を込めたプルミエールが自分めがけて飛び出してきました。
ですが突然、上半身からのけぞるようにひっくり返り、滑って自分の足元までやってきました……、えぇ?
すぐ横を見るとレギィが『本当はこういう使い方をするのです』という眼で見ていました。
すみませんね、デリカシーがなくて。
とりあえず滑ってやってきたプルミエールをつま先で俯せにさせ、背に乗るように押さえこみました。
そして術式を手首に融合させると、蜂の針に似た杭が現れます。
杭をプルミエールの肩の根元に突き刺し、地面と縫い合わせます。
絶叫をあげながら身体をビクビクと跳ねさせるプルミエール。
無理矢理、神経に電流を流し一時的に身体の機能を麻痺させる術式です。
生身なら痛みで失神するどころか、流し続けている間は何度も痛みで気を取り戻すので生き地獄な術式です。
神経が焼き切れている可能性もありますが、内源素を無意味に乱すよりマシでしょう。
何より痛み以外、肉体的なダメージが少ないのが救いですね。
何せ元が拷問用の術式ですから抗術式力が高くとも余裕で貫けます。
「リィティカ先生!」
経緯はともかく無力化に成功しました。
すぐさま飛び出し、注射器を腕に突き刺しました。
プルミエールはまだ意識があっても身体が動かないせいか必死に何かを叫んでいます。
腕に吸われるように刺さる注射針。
リィティカ先生は押し子をゆっくりと動かしていきます。
全てが注入されてもまだ暴れる意志を見せているプルミエール。
浮かぶ言葉は失敗。
いえ、まだ全身に薬が行き渡っていないのでしょう。
「リィティカ先生、離れてください」
「は、はいぃ」
急いでリィティカ先生がプルミエールから離れます。
「……失敗、したのですか?」
「わかりません。特効薬であり注射器を使うところから考えると即効薬でしょうが……」
「ヨシュアン先生の推測どおりの効果ですけどぉ……」
リィティカ先生にも自信がありません。
やがてプルミエールは苦悶の声をあげ、動かない身体をピクピクさせていき――その動きが止まりました。
誰もが別の意味で冷や汗が出たことでしょう。
自分も咄嗟にプルミエールをひっくり返して、心音を確認します。
弱々しく脈打つ心臓の音。
それは今から死ぬものなのか、それとも九死に一生を得たからなのか。
判断はつきません。
ですが表面上、【狂化】の特徴は消えてなくなっています。
「とりあえず医務室に連れて行きましょう。レギィ、軽銀板を4枚連ねに。担架代わりにします」
プルミエールを抱き上げ、軽銀板に載せます。
力一つ入っていない身体はゴムのようにグニャグニャとしていて持ちにくいですね。その上から衣服を布団のようにかぶせてあげたのにレギィは冷たい眼のままでした。
さすがに女性に女性を担がせるわけにはいかないじゃないですか。
そして一番、重要なテスト用紙の入った樽。
これも軽銀板に乗せてしまいましょう。
こうした積載できる術式具は便利ですね。
一つ、作ってみたいところですが今は考えないでおきましょう。
「成功したと見て良いんでしょうか?」
「少なくともぉ中和に成功はしたと思いますぅ。ですがこのあとぉ、副作用や後遺症がどんな形で出るのかまではぁ……」
試薬の何が一番恐ろしいかって副作用がわからないことですよ。
こればかりはデータがない以上、魔薬の影響なのかどうかの判断もつきません。
どちらにしても魔薬と特効薬が身体の中でどう作用するか、これから見定めなければなりません。
ともあれ、これで全てが終わったとは言えません。
むしろここからが本番なのです。
軽銀板で医務室まで直行し、女医さん(36)にプルミエールを任せました。
当然、起きて暴れることがないようにベッドごと革のベルトで固定しておきました。
かなり衰弱しているのでここから持ち直せるかどうかは本人の生命力次第です。
ここまでは良しとしましょう。
しかし、事が事である以上、自分とレギィは学園長に報告に行かねばなりません。
リィティカ先生はプルミエールについていたいと言ったので残していきましたが、正直、報告するのも億劫です。
主にレギィの責任関係が頭の痛い部分でして。
「ということが事件の顛末です」
相変わらず時間が止まっているのではないかと錯覚するくらい、いつもどおりな学園長室です。
そんな中で疲れた身体をソファに預けて、頭に手を添えていました。
レギィも申し訳ないと言った風にすこし頭を下げていて、反省しているようでした。
「まだプルミエールの意識が戻っていないので誰が彼女を唆したのかまではわかっていません。おそらく学園関係者の誰かだとは思います」
学園長は自分の感想も含めて相槌を打つくらいでした。
喋れる部分は全て喋ったと思います。
後は学園長が大まかな方針を聞くくらいです。
「早計ですね」
「おっしゃるとおりですクレオ学園長。申し訳ありません」
「いいえ、そのことではありませんよ」
術式ランプの光を眩しそうに見たあと、学園長はいつもの微笑みを浮かべていました。
「何にせよ、まずは当事者の話を聞いてからですね。事件のことはそれから改めて責任の所在も含め話していきましょう。それよりも重要なことがまだ残っているのではありませんか? ヨシュアン先生。そしてレギンヒルト試練官」
いや、これ以上、大事なことがどこにあるんですか。
放っておいたらレギィが責任を取るとか無意味に言い出しますよ。
「【試練】が終わったのですから採点しないといけませんね。幸いヨシュアン先生が頑張っていただいたおかげで解答用紙は無事です。明日、生徒たちに返すための採点ができて良かったと胸を撫で下ろしましょう」
……マジですか?
もう色々あって帰りたいんですが、そうもいきませんよね、そうですよね。
明日は通常授業ですし、さしあたって明日、授業する2クラス分だけ採点しておけばなんとかなりますが採点を残したまま帰って、こっちの問題に取り掛かるのも面倒です。
つまり、気分的にも仕事的にも今日中に全て採点しなきゃいけないってことですか。
「レギンヒルト試練官もですよ。今回の事件に触れずとも書ける報告書があります。経験上、片付けられるのなら今日中に終わらせておくと色々と些細な気づきを忘れずに済みますよ。癖をつけておかないと私のようなお婆ちゃんになってから困ることになります」
「しかし!」
「繊細な事件だからこそ、貴女は少し頭を冷やしたほうがよろしいのではありませんか? 従者を想う気持ちは理解できますが、その気持ちだけで行動してしまえば貴女の領民たちや貴女自身はどうするのです。女性が幸いを求められない国は滅ぶものです。まずは貴女も含めて全てを幸せにすることを覚えなさい」
「……考えます」
「ヨシュアン先生も筋ばかりを気にしすぎですね。信念があるのは結構ですが柔軟な対応を忘れてはいませんか? 特にヨシュアン先生の相手は柔らかい頭の子供たちなのですから子供たちの気持ちを理解する努力をしないといけません。仕事や私生活、両方ともです。特にヨシュアン先生はよく参礼日に子供たちの世話をしているようではありませんか。なおさらでしょう」
事件の話をしていたら何故か自分の生き方を指摘されました。
あれ? どういうことでしょうか?
「苦しい時は雨が降るものです。もっとも最近は快晴ばかりですがね。各々、考えることもあるのでしょうが時には気を楽にしてから事に当たってみてみなさい。差し当たって二人とも、お仕事ですね。これは老婆心と受け取ってくださいな」
学園長の老婆心は仕事を勧めるのですか。
勤勉すぎて泣けてきそうです。
「急がず、慌てず、時を待つ。茶葉はそうして出来上がるのです」
気づけばテーブルに出されていた紅茶は冷めていました。
いえ、最初から冷めていたのでしょうか?
そんなことにも気づきませんでした。
確かに色々と余裕がなかったのかもしれません。
「そして出されたお茶はまずは味わい、それから時間をかけて楽しむのです」
冷えた紅茶はこの暑さだと心地良いのですが、言われた言葉は居心地が悪くて仕方ありません。
なんでしょうね、この見透かされた感は。
レギィも同じ気持ちなのか微妙な表情でした。
結局、学園長の言いたいことが何一つ、明確に掴めないまま自分はレギィを送ってから職員室で残業をしました。
シャルティア先生が残っていたので採点しながら事件のアレコレを話していましたが、終始、眉根がよっていたように見えます。
「お前たち2人はお似合いだな。ダメなところも含めてな」
歪んだ唇で皮肉を放つシャルティア先生の言葉に、何故か反論できませんでした。
懸案事項を抱えたままの仕事は心が重いですね、まったく。
2013/08/04 23:45
前半の戦闘シーンを大幅に変更しました。




