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リーングラードの学び舎より  作者: いえこけい
第三章
162/374

憂いては頑張る少年ハート

 学び舎から【貴賓館】までは少し歩かねばなりません。

 直線距離は大したことなくても、一度、【宿泊施設】を経由しなければなりません。


 この直線距離は林があり、通れなくもありませんが、リィティカ先生を連れて歩くような道でないことは確かです。


 なのでレギィを送った道順を再び辿る必要があります。


 リィティカ先生と一緒に『七不思議花畑』を横断していく様はまるでデートのようでした。むしろデートでしょう? 時間は短いですけどデートに違いありません。


 でもその理屈だとレギィともデートしたことになりますが、全力で目を瞑りました。


 とにかく、何か会話、気の利いたウィットに富んだ面白げなトークをしましょう。


「しかし、これもまた不思議ですね」

「何がですかぁ?」

「いいえ、出かけに生徒会の依頼書をシェスタさんから受け取っていたでしょう? アレのサインの時なんですけど……」


 出てきた会話が仕事の内容だということに軽く絶望したくなります。

 他にも話題があったにもかかわらず、こんな話をしたのは理由があります。というか、そっちの理由が頭にこびりついてしまったため、語らずに居られませんでした。


「クリスティーナ君、マッフル君、リリーナ君の三名が受けた依頼。あの三人なら間違いなく討伐を受けるんですよ。少なくともこれまではそうでした。しかし、今回受けた依頼は採取。塗料の元になる花です」

「花ぁ、ですかぁ? たしか北側に少し行った小さな池の近くにぃ、たくさん生えていましたねぇ」


 大人しすぎる依頼。

 てっきりクリスティーナ君かマッフル君あたりが試練前だと言って討伐を受けたいだのなんだの言うと思っていました。

 文句の一つは想定の範囲でした。


「試練前ということや【貴賓館】の建材がぁ足りないからぁ、討伐は守衛さんたちがするってぇ話じゃなかったんですかぁ?」

「そのことでの文句がこなかったどころか話題にも上がらなかったことが、少し気になりまして。それにメンバーについても思うところがあります」


 リリーナ君がいるのは森の中で採取するためでしょう。

 ただクリスティーナ君とマッフル君、この二人を組ませると失敗確率があがることは生徒たちもよく知っているはずです。


 メンバーを組むのならエリエス君とリリーナ君をセットにして、クリスティーナ君かマッフル君はどちらか一人を選ぶべきでしょう。


 一方、エリエス君とセロ君は何も受けていません。


「生徒たちもぉ、今ぁ、怪我をしたら危ないってぇわかっていたんじゃないですかぁ?」

「そうだといいんですが」


 セロ君はまだ体調を崩した直後なので受けないというのはわかります。

 エリエス君はその付き添いみたいな形でしょう。


 北の花畑、ですか。

 動向が気になるので、後で聞くなり様子を見るなりしましょうか。


「そういえばぁシャルティア先生がぁ、あんなこと言ってましたけどぉ、実はぁわたしはぁメルサラさんとはぁよくおしゃべりするんですよぅ?」


 あんな事というのは【タクティクス・ブロンド】に対する一般人の感性、というヤツですか。


「メルサラさぁん、かわいいですよねぇ」

「え? すみませんよく聞こえませんでした」

「かわいい人ですよねぇ」


 ありえんです。


 今年度入って一番、不思議な言葉を聞きました。

 まったくもって欠片も理解できません。

 アレのどこに愛らしさがあると? 人を蒸発させることに喜びを感じる危険生物メルサラに危機感を抱ける人が全部でしょうに。


「だってぇ、この前のキャラバンでぇ、こっそり編みぐるみを買おうとしてたんですよぅ」

「……その後、リィティカ先生が見ていることに気づいて罵詈雑言を吐きながら編みぐるみを叩きつけて帰っていったんですね」

「ヨシュアン先生ぇ、メルサラさんのことぉよくわかってますねぇ」


 知りたくて知ったわけじゃありませんよ。


「メルサラの住処は王都ですからね。自分も王都の隅っこに生息しているとはいえ、街中でバッタリがないわけでもないので」


 ファンシーショップ前での遭遇がほとんどです。

 それ以外だと倒れた人が山になった酒場の前です。


 メルサラの行動原理は単純でわかりやすいですからね。


「他にもぉ、生徒を見かけて声をかけたそうにしてたりぃ」

「引きこもりの話下手か何かですか、アイツは。普段の豪快さは一体、どこに消えたんですか」

「たしかにメルサラさんってぇ、見た感じ怖いですけどぉ、普通の人なんだなぁってぇ」


 女神リィティカにとってはメルサラすら人の子扱いでした。

 さすが巨視から世界を見守る女神は格が違いましたね。自分なら一生涯かけてもその境地にたどり着けそうにありません。


「それからぁ、よく喋るようになったんですよぅ。乱暴な雰囲気ですけどぉ、いい人でしたぁ」

「まぁ、人を選ぶ性格なのは確かでしょうね。【吸素原理】も個人差がありますし」


 特に個人差があるのは子供と大人の差です。

 子供の時は【吸素原理】がうまく働いていないのか、それとも扱う源素の量が少ないのか比較的、影響を受けづらいと言います。

 【吸素原理】が仮説な理由や根拠が多いのはこの辺も理由の一つですね。


 この場合、メルサラが周囲にバラまく赤の源素をリィティカ先生はまったく受け付けないから接することができるというわけです。


 逆にシャルティア先生やアレフレットはメルサラとレギィ、二人の周辺源素を敏感に感じ取ってしまうからこそ、接触できないわけです。


 ある程度、抗術式力があれば影響を受けないのは言うまでもないでしょう。


 他愛もないおしゃべりをしながら、心地良い夕暮れを踏みしめているとカンッ、カンッと木の棒を叩きつける音がしてきました。

 

 何事かと耳を澄ませてみるとある一定間隔ごとに打ちすえられるものだとわかります。

 よく知った音です。


「リィティカ先生、ちょっと」


 リィティカ先生に断りを入れて、音のする方へと足を向けました。

 森というにはあまりにまばらすぎる植生は、動き回るに十分ですね。


「どうかしたんですかぁ?」

「さっきの音、聞こえましたよね」

「えぇ、カン、カンってぇ」

「あれ、木剣同士を叩きつける音です」


 練習用の木剣を打ち合う音によく似ています。

 

「放課後のこの時間、学び舎と【宿泊施設】をつなぐ途中で木剣の音となれば、想像は容易いと思いませんか?」


 やがてすぐに動き回る二つの影が見えてきます。

 影たちから見えないようにリィティカ先生と一緒に、藪に隠れて様子を見てみます。幸せです。


「やぁ!」


 気合の入った小柄な影。

 手に持つ木剣を果敢にも、頭一つ分以上ある背丈の青年に振りかぶりました。


「甘いぞ! 軽すぎる! もっと踏み込んでこい!」


 しかし、青年によってあっけなく木剣で弾かれるとすぐにたたらを踏んで後退してしまいました。

 その隙を逃さず、すぐさま青年は木剣の握りで少年の額を小突きました。


 衝撃で仰向けに倒れる少年。


「ティッド! そんなことでどうする!」

「ごめん、フリド君……」


 打ち合っていた影はフリド君とティッド君だったようです。


「喧嘩ぁ、ですかぁ?」

「いいえ、どうやら特訓のようですね」


 実際、喧嘩だったのならフリド君はあぁも手加減しないでしょう。

 体勢を崩しているのに、わざと木剣で打ち据えなかったのがいい証拠です。


 まぁ、出が早く牽制的な意味合いが強く、威力もない柄頭突きをしたのですから手加減以外の何者でもありませんね。


「ヘグマント先生もいないのにぃ、いいんですかぁ?」


 さて、考えどころです。


 勤勉だと褒めるべきなのか、それとも監督者もいないのに訓練していることを叱るべきか。

 与えるべきか奪うべきか。


「アレくらいなら友達同士の訓練で済む話でしょうが、この時期に怪我されるのも困りものですね」


 熱意が余っているのでしょうか?

 ティッド君の顔はとても真剣で、根の詰まったような気力が見えます。

 しかし、がむしゃらすぎて危なかしいですね。


 対するフリド君も真剣ですが、余裕が見て取れます。


 なんとかしようと足掻くティッド君と違って、フリド君はどっしり構えています。

 格下が相手という感じもあります。体力的なもの、というよりも精神的な余裕です。


 おそらくティッド君ほど追い詰められていない、からでしょうか?


「止めに行きましょう。あのままだとティッド君が怪我をします」

「はいぃ」


 再び打ち合いを始めた二人は、藪から現れた自分たちを見て固まりました。

 うん、なんで藪からという顔ですね、アレは。


「先生方ッ!」


 一瞬にしてカカトを合わせる機敏さはもう治せないでしょうね。

 何がって脳筋病です。軍部に蔓延しています。精神感染という奇妙な感染経路をお持ちです。


「ヨシュアン先生に……、リィティカ先生?」


 肩で息をしているティッド君。

 整い終わるまで、こっちから話を進めましょうか。


「偶然、そこを通りかかっただけです。木剣の音がするのでね。で、見たらわかりますが理由がどうなのかを聞きたいですね。フリド君」

「……はッ!」


 返答よりフリド君の態度は遅々としていました。

 なんというか言うに言えないことを抱えている、という感じです。

 ときどきティッド君を見ているところから、理由はティッド君のほうにありそうですね。


「とりあえずぅ、ティッドくん。額がちょっと擦れて赤くなってますよぅ。手当しますぅ」

「……はい」


 渋々と言った感じのティッド君は少し珍しいですね。

 リィティカ先生がカバンの中から小瓶を取り出しました。

 たぶん内出血に効く何かでしょうね。

 匂いから馬の油に薬効のある数種類の薬草を漬けこんだ薬油のようです。


 布切れに染み込ませると患部に貼り、包帯で固定しました。


「寝る前に外してくださいねぇ」

「ありがとうございます」


 手当している間にティッド君も息が整ってきたようです。


 さて、こっちも詰めていきましょう。


「で、喋ってくれますか?」

「……申し訳ありませんッ! 男同士の約束をそう簡単に違えるぅ!?」


 言い切る前にアイアンクローしてあげました。


「言ってくれますね?」

「はッ! 申し訳ありませんすみません!?」


 アイアンクローを解除してあげると、フリド君は申し訳なさそうにティッド君を見ていました。


「実は……」

「ティッド君に頼まれて訓練していた、違いますか?」

「……え? ど、どうしてそのことを!」


 嘘のつけない子ですね。


 まさか当てられると思っていなかったフリド君とティッド君は、同じ顔で驚いていました。

 その顔が見たかったのは内緒です。


「少し意地悪が過ぎましたね。大体、見て予想は立てていました。聞く必要は答え合わせ以外ありません。ちゃんと言いましたよ、『見たらわかりますが』と。ですが、何故、そうしたかわかりますか?」


 二人が顔を見合わせて、次にじっと自分を見ました。

 わからないってことですか、そうですか。


「二人共、推論でも良いので答えましょう。先生がいるからといって必ずしもすぐに答えを得られるとは限りませんよ」

「あ……、はい! 先生方の監督もなく勝手に訓練したことでしょうか!」


 論点をかすってもいません。


「零点。ハズレです」

「か、勝手に木剣をもちだしたことからですか……? ば、罰を与えるために……」


 ティッド君も少し怯えながら答えました。

 うん、君は意外と墓穴を掘りますね。


「ということはその木剣、学園のものですね? 勝手に持ち出したわけですかそうですか。それも先生の許可もなく」


 ようやく持ち出し禁止だったことに気づいたティッド君が青ざめました。

 フリド君も悟ったのか、あたふたしています。


 とりあえず二人の頭にゲンコツを落としておきましょう。

 もちろん、ティッド君は緩めにしてあります。


「自主訓練は良いことです。勝手に用具を持ち出したことについては今回限り不問にしておいてあげましょう」


 ゲンコツしておいて不問も何もあったもんじゃないでしょうが、そこはけじめです。


「監督不在も、もう少し人数がいれば良かったのでしょう。もう一人くらい誰かを誘えば不慮の事故にも対応できます」


 何故、答えを知りながら聞くような真似をしたのか。

 一つはティッド君の体力が戻るまでの時間稼ぎです。


「君たちにもう一度、今やっていることを問い正すためです。君たちの訓練は本当によろしいことなのか、間違いはないのか、さっき言ったばかりですが二人きりで訓練するより第三者がいれば外側からの意見も言えるでしょうし見稽古にもなります。これはあくまで一例。何かの目的を持って手段を行使するとき、冷静になって周囲を見ることを促すためです」


 ざらりと二人の顔を見回し、内容が理解できているかを確かめます。

 若干、フリド君が理解できない顔をしましたが、すぐに傾聴の姿勢を取ります。

 ちゃんと聞こえているのでしょうか、心配ですね。


「先生の監督がない分、気をつけるべきことが多いということを頭にちゃんと入れておきなさい」

「そうですよぅ、見れば二人共ぉ薬箱も持ってきてぇないじゃないですかぁ」


 リィティカ先生の言う通りですね、えぇ。

 自主練するのに十分な用意が出来てません。

 真っ先に思いついたのはそこでした。


 ですが、これらはあくまで掴みです。

 ここからティッド君から話を聞くための。


「さて、ティッド君。訓練自体、悪くはないのですが君のやり方は少し無茶というか、気が先に立っているように見えました。何か理由があるのですか?」


 ティッド君はおずおずとしながら、喋っていいものかどうか迷っているようでした。

 それでも意を決したのか、ティッド君はちゃんと前を向いてこう言いました。


「先生、ボクはどうしてセロちゃんがあんな、突然、走っていったのかわかりません」


 参礼日にセロ君がティッド君から逃げた時の話ですね。

 年相応にティッド君に触るのを恥ずかしがって、その気持ちが理解できなかったために怖がったセロ君が起こしたことです。


「でも、わからないのに、わからないけど、たぶんボクが悪いんだと思います」


 それは、ちょっと答えに困りますね。

 正直、誰が悪いという話ではない上に実はまだ解決していません。


 セロ君が復調したので一回、悩みがリセットされただけです。

 そして、今はティッド君に謝ったことでセロ君も解決したと思い込んでいます。


 しかし、この問題の根幹はセロ君が男の子に対して、性差を自覚していない事が問題です。

 自覚していないのに、頭のもう一方では恥ずかしいと理解している。


 この差が心のバランスを崩したのです。

 今まで頑張って気を張り詰めてきた負担がこのバランスに巻きこまれて体調を崩したのです。


 復調し、心のバランスを気にしなくなったため、根幹の問題は置き去りになりました。


 再び起きうる可能性を秘めたままだったのです。


 リィティカ先生に目線を合わせると、小さく頷きました。

 たぶん、リィティカ先生も終わったと思っていないのでしょう。


 そして、これらは全部、セロ君の中で起きたことです。

 当然、予測できる立場に居た自分、同じ女性のリィティカ先生なら容易に想像できる部分でもあります。


 しかし、ティッド君は?

 ティッド君からすれば、セロ君の心はよくわからないままです。

 解決したのか、そもそも何が悪かったのかも理解できません。


 そういえばあの奇妙な料理人たちといざこざを起こした時、ティッド君もいましたね。

 あの時は確か、リィティカクラスのマウリィ君がいたはずです。

 あの子は女の子してますからね。女の子の視点からセロ君のことを聞いていたのでしょうか?


「きっとボクが頼りなかったから、だと思うんです」


 理不尽なまま罪悪感に駆られ、不条理なまま謝られ、不合理なまま答えも得られず、不道理のまま何もできずにいました。


 ティッド君はさぞ無力を覚えたでしょうね。

 本当は助けたい、悩みに力を貸してあげたい、でも、自分のせいかもしれない。

 そのくせセロ君には謝られ、もう問題が終わってしまったような置いてけぼりな気持ちのまま今に至るのです。


 何もできなかったのは無力で、倒れた時もセロ君の見舞いにもこれなかった。

 きっと今のティッド君が倒れた時のセロ君に会っても何もできないから。


 そう考えれば、どうするかをティッド君は考えます。

 無力が理由なら、力がないせいで好きな人の力になれないなら。


 大好きなセロ君に頼られるくらい、強くなりたいと考えるでしょう。


 男の子は単純ですよ。

 ないなら身につければいいと単純に考えます。

 好きな子のためならと頑張れます。

 それが正しいと信じます。


 自分にも身に覚えがあります。

 痛いほどに理解できます。


「そうですか。セロ君のために」


 目線を合わせるために腰をかがめます。


「ち、ちがうんです、そういうのじゃなくって、ただ……」


 ごにょごにょと言い訳っぽいことを言い始める始末です。

 指と指をこすり合わせて、必死で言い訳を考えていますね。なんだ、この生き物、かわいいです。でも男の子です。


「強くなれたらって……」

「セロ君のために強くなれたら、ですね」

「ち、ちがうんです!」


 もう涙目でした。


「そうだったのかティッド!」


 フリド君が驚きの声をあげました。

 知らなかったのか、というか気づかなかったのか。


「ちが――フリド君!」

「……いや、俺にはその気持ち、よくわかる! 愛する女性に剣を捧げるのは騎士の誉れだろ! わかるぞティッド!」

「そんなんじゃないから!?」

「はいはい、フリド君は黙っておきましょうか。ティッド君も落ち着くように」


 本当に泣いてしまいそうなので、ここらで助け舟を出すことにしました。

 自分が原因で混乱したのに落ち着けと言われて素直に従ういい子ですね。面白い。


 リィティカ先生もホクホクした顔をしてます。

 でも自分の目線に気づいて、ハッと正気に戻りましたね。


「どんな理由でも向上心は結構なことです。ですが……」


 さて、どう言うべきでしょうか?


「ティッドくん? 先生はぁ、そういう気持ち大好――大事だと思いますぅ」


 迷っているとリィティカ先生がティッド君の肩にゆっくりと触れました。

 ただ、さっき少し変なことを言おうとしませんでしたか?

 大好きと言おうとしたように聞こえましたが。


 言うなら是非に自分へお願いします。愛に飢えてます。


「ティッドくんがぁ頑張るのはぁ、きっと今も明日も大事なことにつながっていくと思うんですよぅ。でもぉ、セロちゃんにもぉ頑張らなきゃいけないことやぁ時間が欲しいと思うことがあるんですよぅ」

「リィティカ先生……? でも」

「ティッドくんがぁ一人で頑張らなきゃいけない、悩まなきゃいけないってぇことはないんですよぅ。それにぃ、ティッドくんはセロちゃんにちゃんと言ってないことがあるんじゃないかなぁ?」


 リィティカ先生の言うことはとても当たり前の事です。

 少しのすれ違いを正すだけの言葉です。


「ちゃぁんとセロちゃんに『安心してほしい』ってぇ、『一人で悩まないで』という気持ちを伝えないとぉ、一人で頑張ってもぉセロちゃんには伝わりませんよぅ?」


 でも、リィティカ先生の柔らかな声色で諭すようなことを言われると、どうしてか納得しなきゃいけない気分になりますね。


「変な言葉でもぉしどろもどろでもぉいいからぁ、まず向き合わないとぉ」


 強くなる。

 弱いより、できることが多いから強くなる。

 守ることができるから強くなる。

 それはとても魅力的な言葉で、事実です。同時に強さ程度ではどうにもならない事実もあります。


 自分がそうだったように、ですが、ティッド君は違います。

 まだ何も始まっていないのです。

 だから、白紙の内に言うべきことがあり、知ってほしいことがあります。

 その片面をリィティカ先生が言ってくれましたけどね。


 ティッド君はリィティカ先生に諭されて、肩の力が抜けています。

 自分はこっそり、心の中でため息をつきました。


 とりあえずこれで目標達成ですね。

 これら全てのやり取りは、ティッド君から気負いを削ぐことにありました。


 さっきまで力が入りすぎていたんですよね。

 そうしなきゃいけない、こうしなきゃいけない。そんな気持ちで自分を追い詰めていました。


 別にそうして強くなれるのなら、そうすべきでしょう。

 時間も、素質や才能も限られています。早く強くなれるなら我が身を賭してでもすべきです。その理由があるのなら自分のように。

 

 でも、そうして無理に強くなっても問題は解決しません。

 今回の問題は強さではどうにもならないお話だからです。


「で、フリド君はティッド君の熱意を聞いて、手助けしようとした」

「はッ! その通りです!」

「ならあまり言うことはありませんね。もう少し周囲に気を配ることを忘れないように。この言葉、忘れたら後悔しますよ?」

「た、魂に刻みますっ!」

「そして、ティッド君はもう少しセロ君を信じなさい。あの子もあの子で頑張っているのです。君とは違う理由でしょうが、一緒に強くなっても悪いことではありませんよ」

「……はい」


 男の子の心からすれば女の子に努力なんて見せたくないでしょうけどね。

 無理されるより百倍、マシです。


「では先生たちはもう行きますが、くれぐれも無茶をしないように。どうしても無茶をしたいのなら地獄の特訓コースを用意してあげますから」

「ヨシュアン先生ぃ……」


 リィティカ先生がしょうがないなぁという顔をされてしまいました。


「本当ですか! ヨシュアン先生!」


 フリド君、嬉しそうですね。

 ティッド君もちょっとやる気みたいな顔しないでください、冗談ですよ?


「少なくとも今は試練の調整中です。特訓はしませんが、それぞれの教科を担当している教師が考えてくれています。また君たちだけに教えておきますが【模擬試練】も考えています。身体を休めて十全な力を出せるようにすることも実力だということも言っておきますからね」


 こう締めて、後はティッド君とフリド君を帰り始めました。

 釘も刺しましたし、もう特訓するような状態ではなくなったせいですね。


 木剣を返しにいくので学園方面に歩いていきました。


「どうでしたぁ?」

「十分、伝わったと思いますよ。リィティカ先生のお気持ちは。あとはティッド君が勇気を出すだけです」

「そうですねぇ、でもぉ、ちょっと心配ですぅ」


 その後ろ姿をリィティカ先生は眉を八の字にして眺めていました。

 結局、セロ君の内心がちゃんと安定するまで解決しないんですよね。


 今は自分を父親みたいに思っていることでバランスを取っているようですが。

 一体、どうしたものかと悩みます。


 いつまでも自分に依存していても問題はなくなりません。


 【貴賓館】への訪問がこの悩みを解決する糸口になれば。

 頼りにするのはリィティカ先生を始めとする教師女性陣、そしてレギィです。


 となると、これからの話がその最初になるわけですね。

 少し気合を入れ直して、林を抜けたらもう【貴賓館】は目の前でした。


 なんだかんだで結局、林を抜けてしまいましたね。


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