オタクに優しいギャルと薬物疑惑
高校の空き教室。
出入り口を、男子生徒達が塞いでいる。
里中蛍は椅子に座らされていて、近くには同じクラスのヤンチャな男子生徒達のリーダー格の鋤屋と、喧嘩の強い内藤がいて、彼を睨みつけていた。つまりは軟禁状態で威圧されているのだ。近くには園上、桐島という名の女子生徒がいて、彼女達は彼を詰問していた。しかも、それは彼にとって言いがかりにも等しい内容だった。
「――だから、知らないって。僕は茨木さんに薬なんて盛ってない!」
彼がそう訴えると桐島が言う。
「でも、いぶき自身が言っているのよ? あなたに薬を盛られたって」
茨木いぶき。
里中の隣の席の女子生徒…… 所謂ギャルである。園上と桐島は、彼女の友人でとても仲が良い。二人は彼女を心配して、彼を呼び出し、こうして詰問しているのだった。どうやら男子生徒達は用心棒を頼まれたらしい。もっとも、里中は背も低めで運動も苦手で大人しい性格をしている陰キャだから、それは明らかに過剰に警戒し過ぎていたのだが。
「どう考えてもおかしいだろう? どうしてお前みたいのが、茨木さんとヤれるんだよ」
薬を使っている事を断固として認めようとしない里中の態度を見かねたのか、鋤屋が女子生徒達の詰問に加わった。
「そんなの僕だって知らないよ」と、それに里中は返す。つまり、彼と茨木はエッチをしているのである。そして、茨木は彼が薬を使ったと主張しているらしいのだった。それが彼には信じられないようなのだが。
「茨木さんは、僕に文句を言っていたの?」
「そんな感じではなかったけど……」と、それには園上が返す。
「あいつは“里中はあたしをできるだけ楽しませようとしているのだと思う”なんて言っていたわね。それで、自信がないから薬を使ったのじゃないか?って」
茨木いぶきと里中は何度かエッチをしているらしい。“オタクに優しいギャル”など都市伝説である。少なくとも、彼女は「オタクはタイプじゃない」と普段から言っているのだ。彼女の行動が信じられない園上と桐島は、里中に盛られた薬の所為で、彼女がおかしくなってしまっていると考えていたのだった。
「僕は薬なんて使っていないよ」と、それを聞いて里中は返す。
「そもそも、薬をどう使ったら彼女とそういう事ができるんだよ?」
「どうって……」と、それに鋤屋。
「だから、薬を飲ませて、変な気分にさせて」
里中は反論する。
「それ、二人きりじゃないと意味ないじゃんか」
“そう言われれば”、と鋤屋達は顔を見合わせる。例えば学校で茨木に薬を飲ませたとしたら、きっと彼女は里中以外の男子生徒を選ぶだろう。つまり少なくとも、彼と彼女は二人きりになる状況下になった事になる。薬の力に頼らないで。
「どうやって、そーいう関係になったのよ? あんたら」
と桐島が尋ねる。すると、里中は仕方がないといった様子で説明を始めた……
茨木が隣の席になった時、里中は少々嫌な気分になったらしい。明らかにキャラの相性が悪い。きっと彼女は自分を馬鹿にするに違いないと思ったのだ。ところが、彼女はそんな彼の様子を敏感に感じ取ったのか、
「そんな怯えた仔犬みたいな顔をしないでよ。取って食ったりはしないから」
と、気さくに話しかけて来たらしい。心中を悟られたと思った彼は少々の恥ずかしさと罪悪感を同時に覚えた。それで、彼女から「勉強を教えてよ」と頼まれた時、罪滅ぼしのつもりで必死に教えたのだった。彼女はどうやら授業についていけていなかったらしい。
思ったよりも随分と優しかった彼女に好印象を抱いた彼は、彼女の為に懸命に勉強をし始めた。もちろん、彼女に勉強を教えてあげたかったからだ。実は元は彼の成績はそんなに良くなかったのだが、そのお陰で成績は上がっていった。そして、ある日、それが彼女に知られてしまったのだった。彼女は妙に嬉しそうで、「あたしの為に、そこまでしてくれたなんて悪いから、お礼にデートしてあげる」と、彼を誘って来た。そして、そのデートで、彼と彼女は最後までいってしまったらしいのだった。
「なるほどね」と、その説明を聞き終えて園上は言う。「だから、その時に薬を使ったんだろう?」と鋤屋は凄んだ。拳を固めている。「してないって」と里中は返した。その頑な態度が気に食わなかったのか、鋤屋は彼を殴ろうとした。「お前、そんな便利な薬を独り占めするな!」と言いながら。どうも趣旨が変わっている感じである。
「いや、待ちなさい」と、そんな鋤屋を園上は止めた。
「多分、里中君は薬は使ってないわね」
拳を振り上げた姿勢で鋤屋は固まる。
「なんで、そう言えるんだよ?」
「思い出したのよ。あいつが、私に語っているの時、妙に嬉しそうだったのを。それに、あいつは軽いけど、流石にただのお礼程度でエッチをさせるほどじゃない」
「それがどうしたんだよ?」
「分からない? 女の子はね。好きな男の子とのエッチはとっても気持ち良いものなのよ。だから、薬を使っていなくても、想像以上に良かったのじゃない?」
「ちょっと待て」と、それを聞いて内藤が口を挟んだ。
「それなら、本人が分かるものなんじゃないのか?」
「そこよ」と、それに園上。
「あいつ、多分、自覚がないのよ。里中君を好きな事を。普段から、“オタクはタイプじゃない”って言っているから、まさか自分がとでも思っているのじゃない?」
それを聞き終えると、桐島が疑問を口にした。
「その通りなら、何の問題もないけど、でも、どうやってそれを証明するのよ?」
ところが、彼女がそう言い終えたタイミングだった。いきなり空き教室のドアがガラッと勢い良く開いたのだ。そして、
「ちょっと! あんたら、何、里中をいじめているのよ!」
そんな声が。そこには茨木いぶきの姿があった。どうやら里中がいじめられていると思って乗り込んで来たらしい。彼女は座らされている彼の傍に駆け寄ると、護るように立ちはだかった。そして、その表情は真剣そのものだった。
「……証明できたみたいね」と、それを見て園上が言う。一同はちょっと呆れた表情を浮かべ、里中だけは顔を赤くしていた。




