第一章 第一節 捜索
九女島空港に降り立ったのは、日が傾ききる直前だった。
滑走路の向こうに広がる海は、昼の色を失い始め、鈍い鉛色に沈みかけている。
ターミナルを出た瞬間、青木悟は島特有の湿った空気を肺いっぱいに吸い込んだ。
その時だった。
空港の外れ、バス停のあたりに人だかりができている。
ざわついた声が、風に混じって耳に届く。
「どうしたんですか?」
青木が近くにいた年配の男性に声をかけると、男は顔をこわばらせたまま答えた。
「神社を見に行くって出てったまま、帰ってこねえんだ」
例の神社。
白骨死体が見つかった、あの場所だ。
行方不明になったのは、島の住人の一人。
事件後、落ち着かない空気が島全体を包んでいた矢先の出来事だった。
「警察は?」
「まだだ。島の人間で探すって話になってる」
青木は一瞬、迷った。
だが頭のどこかで、これは単なる偶然ではないと感じていた。
――事件がらみかもしれない。
取材者としての直感が、背中を押した。
「捜索、参加させてもらえませんか」
そうして編成された捜索隊は、五人だった。
池田修二。五十六歳。消防士。
落ち着いた口調と、場数を踏んだ雰囲気がある。
久慈武史。四十三歳。飲食店経営。
体格がよく、短気そうな目をしている。
吉田義行。三十二歳。ホテル従業員。
今回、行方不明になった男性の兄だった。
表情は硬く、落ち着きがない。
物部貞彦。二十七歳。建設業。
無口で、必要最低限の返事しかしない。
そして、青木悟。三十歳。新聞記者。
池田のワンボックスカーに乗り込み、神社の近くまで向かう。
道を進むにつれ、辺りは急速に暗さを増していった。
神社の境内に着いた時には、もう日没を過ぎていた。
懐中電灯の光が、社殿の柱や地面を切り取る。
あたりを一通り見て回ったが、行方不明者の姿はない。
「裏だな」
池田の一言で、全員が頷いた。
社の裏手には、森が広がっている。
昼でも薄暗い場所だ。
今はもう、光の届く範囲しか見えない。
二次災害を避けるため、十メートル間隔で横一列に並ぶ。
歩調を揃え、列を崩さず進む。
懐中電灯の光が、地面の落ち葉や木の根を照らす。
誰かが、名前を呼び続けている。
「――おーい!」
「聞こえたら返事してくれ!」
声は森に吸い込まれ、返ってこない。
歩き始めて、十分ほど経った頃だった。
中央を歩いていた池田が、急に足を止めた。
「……何だ、あれ?」
数メートル先。
懐中電灯の光の中に、しゃがみ込む“何か”が見えた。
人影。
それも、一人ではない。
誰かが、何かに群がっているように見える。
「見つかったのか?」
久慈が一歩踏み出しかけた、その瞬間。
池田の声が、ひっくり返った。
「違う! 人じゃない!?」
次の瞬間、
短い悲鳴が、闇を裂いた。
「ぐあっ!」
全員が一斉に走り出す。
落ち葉を踏み散らし、距離を詰める。
懐中電灯の光が、重なった。
そこにあったのは、
倒れ伏した人間の身体だった。
「……死んでる……」
誰かが、かすれた声で呟いた。
森の中に、重たい沈黙が落ちる。
遠くで、何かが羽ばたいたような音がした気がしたが、
その場では、誰もそれを口にしなかった。




