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第九章 第二節 託された思い

「美月ちゃん、殺虫剤貸して」

「はい」

矢野は、レジ袋から二本の殺虫剤を取り出し、楽山に渡した。

「美月ちゃんは下がってて」

「……はい」

楽山は、殺虫剤を構えたまま、じりじりと寄生蜂に近づく。

寄生蜂は楽山に気づくと、一気に距離を詰めて襲いかかってきた。

楽山は即座に噴霧する。

白い霧を浴びた寄生蜂は、

「キィィィィ――!」

甲高い、鳴き声のような音を発し、苦しみ始めた。

寄生蜂はそれ以上近づかず、警戒して距離を取る。

楽山が一歩進むと、その分、寄生蜂は一歩下がる。

拮抗。

――その時だった。

背後に、気配。

「……後ろか!」

振り返った瞬間、もう一匹の寄生蜂が、すぐそこまで迫っていた。

「挟まれた!」

楽山は両腕を広げ、二方向に殺虫剤を向けて牽制する。

「楽山さん!」

「大丈夫だ!」

だが、次の瞬間。

周囲の暗がりから、

次々と影が現れる。

「……まさか……」

「さっきの鳴き声が、仲間を呼んだか!?」

四方八方から、寄生蜂。

楽山は完全に包囲された。

矢野も殺虫剤を取り出し、援護しようとした。

だが――

一匹が、矢野に飛びかかる。

「きゃあ!」

四肢を押さえつけられ、服が引き裂かれる。

「美月ちゃん!」

楽山は助けに行こうとするが、八匹の寄生蜂に囲まれ、身動きが取れない。

一歩でも踏み出せば、全方向から一斉に襲われる。

「くっ……!」

「楽山さん……無理しないで……」

矢野の声は震えていた。

「……私は、もう無理です……」

「馬鹿なこと言うな!必ず助ける!」

「楽山さんは……自衛官ですよね……」

矢野は、必死に言葉を絞り出す。

「……私個人じゃなく……国民を……皆を、守ってください……」

「……でも……!」

「今度は……楽山さんに……託されたんです……!」

「皆が……命がけで……紡いできた情報を……無駄に……しないで……!」

楽山は、歯を食いしばる。

その瞬間――

矢野の身体に、産卵管が突き刺さった。

「……うっ……!」

麻痺毒が回り、言葉にならない声が漏れる。

「美月ちゃん!!」

産卵を終えた寄生蜂は、矢野を引きずりながら、暗闇の中へ消えていった。

「美月ちゃーん!!」

楽山は、動けなかった。

拳を握りしめる。

「……そうだ……俺には……皆を守る義務がある……!」

「ここで死ぬわけには……いかない!」

楽山は周囲を警戒し、動き出しそうな寄生蜂に殺虫剤を向けて牽制し続けた。

だが、それ以上、できることはなかった。

――二十分以上が経過した頃。

雲が切れ、太陽が姿を現す。

日光が差し込んだ瞬間、寄生蜂たちは、慌てたように飛び去った。

「……助かった……」

楽山は、そう呟くと、すぐに背後の建物へ引き返す。

階段を駆け上がり、最上階へ。

スマートフォンを取り出し、

寄生蜂が飛び去っていく方向を撮影する。

「……これで……おおよその生息地が分かる……」

撮影を終えた楽山は、急いで警察署へ向かった。

警察にデータを渡し、続けて自分の部隊の宿泊地へ。

自衛隊にもデータを共有する。

警察と自衛隊で協議の結果、翌日、作戦会議が開かれることになった。


翌日 九女島警察署・会議室


集まったのは、自衛官十五名、警察官十五名。

総勢三十名。

楽山が前に立ち、説明を始める。

「……以上が、事件の経緯です」

「この情報は――」

楽山は、一人ひとりの名前を口にする。


青木さん。

加藤教授。

佐川巡査長。

動物生態研究所。

科学捜査研究所。

館野さん。

名倉さん。

服部さん。

真鍋さん。

そして――矢野さん。


「これらの人々が、命がけで紡いできたものです」


「この情報を基に、この害虫を駆除すること。それが、市民を守る警察の皆さんと我々自衛官の使命だと考えます」

一人の自衛官が言う。

「楽山3尉」

「作戦があるんだろう。説明してくれ」

「はい」

ホワイトボードに、九女島の地図を貼る。

「昨日、私は八匹の寄生蜂と対峙しました。雨が止み、日光が出始めると全て、飛び去りました」

「巣に戻ると判断し、高所から撮影しました」

地図に丸を描く。

「降下地点は分散していましたが最終的に、この神社裏の森一帯の一キロ平方メートルに集中しています」

「昼間でも日光が当たらず、活動しやすいのでしょう」

「そこで――」

楽山は説明を続ける。


・生息地と思われる場所を中心に1.2キロ平方メートルを柵で封鎖

・その内側に長さ1キロメートルのハッカ油とミントを施したネットを設置

・ネットを渦巻き状に包囲を縮小

・最終的に殺虫剤で殲滅

・警察は市街の警戒


「ただし、知能があるため、追い詰められれば強行突破の可能性があります」


「その場合――」

「火炎放射器を、殺虫剤噴霧仕様に改造し」

「少数精鋭の殲滅部隊を投入します」

沈黙。


やがて、一人が口を開く。


「作戦は理解した。理に適っている」

「準備には五日から一週間はかかる」

「……一日、二日で何とかなりませんか!?」

楽山は、必死だった。

「助けられる人が……いるかもしれないんです!」

「無理だ」

階級章を付けた男が、静かに言う。

「焦って失敗すれば」

「犠牲者の思いを踏みにじる」

「確実に成功させることが」

「彼らに応える唯一の道だ」

楽山は、深く頭を下げた。

「……その通りです」

「井上2佐」

「よし!作戦指揮は、楽山三尉が取れ」

「いえ、指揮は、井上二佐にお願いします」

「なぜだ」

「この作戦で最も危険なのは、ネットの端を持って、内側に進む者です」

「言い出しっぺとして、その役目を、自分が引き受けたい」

沈黙の後――

「……分かった」

「だが、死ぬなよ」

「ありがとうございます!」

楽山は、敬礼した。

「火炎放射器の改造についてはセキサクに打診、出来ないようなら出来るメーカーを探すように。各駐屯地の補給科に木酢液スプレーを調達させ九女島の送るように手配、ネットについても制作出来るところを探すように。警察の方々は柵の外で、何かあった時に市民の安全を最優先に動いて頂きたい」

「分かりました」

「以上、無いか質問は?」

「無ければ各自取り掛かってくれ!」

皆敬礼する

作戦は、静かに動き始めた。

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