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第八章 第二節 敵討ち

「ぐわっ!」

真鍋は、寄生蜂の鈎爪で身体の前面を一気に引き裂かれた。

床に叩きつけられ、身動きが取れなくなる。

次の瞬間、寄生蜂の顎が、頭部を挟み込んだ。

鈍い音と共に、真鍋の頭が砕かれる。

噛み砕かれ、引きずられ、そのまま、食われた。

コンビニの中に残された四人は、一斉に悲鳴を上げた。

寄生蜂は、中にまだ人がいることに気づき、自動ドアから入ってくる。

「裏口とかは!?」

瀬尾が叫ぶ。

「無いです!」

近藤が即答する。

星野が、トイレに隠れようと走り出した。

だが、トイレはレジから対角線上、店内で最も遠い位置にある。

数歩、走ったところで――

喉が裂かれた。

星野は声も出せず、その場に崩れ落ちる。

「……くそっ!」

瀬尾は、必死に考える。

「ハッカ油とかは!?」

「無いです!」

近藤が叫ぶ。

「……でも、タバコなら……!」

瀬尾の目が光る。

「よし!それだ!俺がライター取ってくる!タバコ用意してくれ!」

「分かりました!」

近藤は、レジの後ろに置かれた煙草を数箱掴み、必死に箱を開け始める。

瀬尾は棚からライターを取り、近藤に渡した。

近藤は、ライターを点ける。

だが、煙草に火がつかない。

「な、なんで……!」

「何やってるんだ!?」

瀬尾が怒鳴る。

近藤は、煙草を吸ったことがなかった。

火のつけ方が、分からない。

煙草は吸いながらじゃないと上手く火がつかない事を知らなかった。

その隙を突いて、瀬尾は走った。

出口へ。

自動ドアの前に立つ。

センサーが反応し、ドアが開き始める。

だが――

出口まで走るのに、二、三秒。

自動ドアが人一人が通れる幅まで開くのに、一秒、二秒。

その“わずかな時間”が、致命的だった。

瀬尾は、ドアが十分に開く前に捕まった。

引き裂かれ、床へ引き戻される。

同時に、煙草に火をつけることに必死になっていた近藤も、正面から寄生蜂に襲われた。

悲鳴を上げる間もなく、喉を断ち切られ、倒れる。

店内は、一瞬で静まり返った。

生きているのは、矢野だけ。

矢野は、商品棚の陰に身を潜めていた。

呼吸を殺し、寄生蜂の位置を確認する。

棚の向こう側で、寄生蜂が、首を細かく動かしている。

匂いを嗅いでいる。

矢野は、棚を利用し、寄生蜂と対角線上に、ゆっくりと移動する。

その時、一つの商品が目に入った。

「……これだ」

矢野は、二本を掴み取る。

そして――

飛び出した。

寄生蜂が、反射的に襲いかかろうとした、その瞬間。

矢野は、両手のスプレーを同時に噴射した。

殺虫スプレーだ。

白い霧が、寄生蜂の顔面を覆う。

「……大きくても、昆虫……!」

矢野は、歯を食いしばりながら叫ぶ。

「昆虫が嫌うものを嫌うなら……」

「昆虫を殺せるものなら……殺せるはず!」

噴射を止めない。

一本。

二本。

空になるまで、浴びせ続ける。

寄生蜂は、床に倒れ、激しく痙攣した。

脚が跳ね、翅が震え、やがて――動かなくなった。

完全に、静止した。

死んでいる。

矢野は、その場にへたり込んだ。

腰が抜け、立ち上がれない。

震える声で、呟く。

「……加藤教授……一先ず……敵討ちは……果たしました……」

床には、人間の血と、巨大な昆虫の死骸が、並んで転がっていた。

だが、矢野は知っている。

これは、終わりではない。

ただの――

始まりだということを。

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