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第八章 第一節 教え子

ハァ、ハァ、と荒い息を吐きながら、真鍋は走っていた。

やがて速度が落ち、歩きに変わる。

「……運動不足の四十代には、これはキツいな……」

周囲を警戒するが、寄生蜂の姿はない。

少し安心した真鍋は、前方に見えたコンビニの灯りに向かった。

「喉も乾いたし……コーヒーでも飲むか」

なんとか辿り着き、店内に入る。

棚から缶コーヒーを一本取り、レジへ向かう。

そこで、真鍋は気づいた。

財布がない。

慌てて逃げてきた時に、持ってくるのを忘れていた。

一瞬、立ち尽くす。

その時、二十代半ばくらいの綺麗な女性がレジに近づき、小銭を置いた。

「良かったら、使ってください」

「あ……すみません。ありがとうございます」

頭を下げた瞬間、真鍋の脳裏に、自分がさっき口にした言葉がよみがえった。

――俺たちでこの話を広めよう。

――逃げたい奴は逃げればいい。

――戦いたい奴は戦えばいい。

真鍋は顔を上げた。

「お礼と言っては何ですが……」

「今、この島で起きている大変な事件を教えますよ」

「どんな事件ですか?」

「店員さんも、一緒に聞いてください」

「あ、それと……そこの人も」

声をかけられたのは、商品を手に取っていた買い物客だった。

怪訝そうな表情をしながら、近づいてくる。

店員も何事かと思い、

「裏にもう一人いるんで、呼んできますね」

そう言ってバックヤードへ行き、ほどなくもう一人の店員も出てきた。

真鍋はビニール袋からノートPCを取り出し、神社の白骨死体発見から始まる一連の出来事を、

すべて読み上げた。

最後まで聞かせた後、真鍋は言った。

「……信じられない話だと思います。でも、俺は寄生蜂を見たし、襲われました」

「一緒にいた三人は殺されました。最後に情報を付け加えた服部って学生も……」

「目の前で殺されたんです」

店員二人と買い物客の一人は、明らかに懐疑的だった。

だが、先ほど小銭を出した女性だけは、涙を流していた。

「……私は、信じます……」

真鍋は驚いて聞き返す。

「……信じてくれますか?」

「ええ。この話に出てきた……加藤教授」

「私、その教え子なんです」

彼女は、静かに続けた。

「大学は卒業しましたけど、アルバイトしながら教授のお手伝いをしていました」

「教授が学生とこの島に来る時も誘われたんです。でも都合が合わなくて……」

一瞬、言葉を詰まらせる。

「それで、教授がこの島で亡くなったと聞いて警察に行ったんですけど、何も教えてもらえなくて……」

「何があったのか知りたくて、この島に来ました」

真鍋は深く頭を下げた。

「……そうでしたか。お悔やみ申し上げます」

顔を上げ、強く言う。

「教授の敵を討ちましょう!そのために、この情報を広めて、このPCを警察に届けなきゃいけないんです!」

女性は真鍋を見つめ、

「……あなた、よく生きて逃げられましたね」

真鍋は木酢液のスプレーを見せた。

「これのおかげだよ」

ふと思い出したように言う。

「あ、そうだ。この情報も付け加えなきゃ」

真鍋は照れたように頭を掻き、女性を見る。

「……俺、パソコン苦手でさ」

「矢野です」

「矢野美月です」

「真鍋です」

「矢野さん、入力お願いしてもいいですか?」

「はい、いいですよ」

真鍋は口頭で説明する。

「寄生蜂は昆虫だから、昆虫が苦手なものは通じる」

「実際に効いたのは、煙草の煙、木酢液、ハッカ油、ミント」

「それを追記して、最後に“真鍋”って入れてください」

「分かりました」

矢野が入力を終える。

真鍋は言った。

「何かあった時のために、自己紹介しておきましょう」

「私はさっき名乗ったけど真鍋。この先で園芸店をやってます」

「矢野美月です」

「昆虫学者を目指していて、加藤教授のお手伝いをしていました」

「近藤涼介です。コンビニ店員です」

「星野陸、同じく店員です」

「瀬尾渉です。東京で会社員をしています」

真鍋は全員を見回す。

「皆で、この情報を広めてください」

「俺はこのPCを持って、警察に行きます」

すると矢野が言った。

「待ってください」

「このPC、USBメモリー付いてますよね」

「……ああ」

「私に預けてください。教授の敵を討ちたいんです」

「情報は二つに分けた方が、広まりやすいと思います」

真鍋は頷いた。

「確かに」

「じゃあ、コピー頼めるかな?そういうの、ほんと苦手で……」

矢野はPCを操作し、データをコピーしてUSBメモリーを預かった。

「じゃあ、俺は警察に行く!」

そう言って真鍋が自動ドアに近づく。

ドアが、静かに開いた。

――その瞬間。

雨の向こうから、影が跳んだ。

寄生蜂が現れ、真鍋に襲いかかった。

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