買い物に行ったら龍刹がいた話
入学したエシュト学園で同じクラスになった炎上君は、とんでもないイケメンで有名だ。
顔よし頭よし運動神経だってよし。多分一年生の女子は、どんなに低く見積もっても誰もが一回は気になる人くらいにはなったはず。
当然そんな人に彼女がいないわけがなく。彼には愛する愛する恋人がいるということはすぐにわかった。
そして彼女・氷河さんもとんでもなく美少女で。無口で物静かな子。上級生にはちょっと嫌な目で見られることもあるようだけど、正直あの子には敵わないと、一年生では誰もが思っているだろう。
まぁどうしてこんな話をわたしがしているのか。
夏休みまっただ中な本日。たまたま買い物に出たら、そのカップル(学園内では龍刹とCP名がついている)が街を歩いているのを発見したからである。
黒いパーカー付きのタンクトップにジーンズを履いた炎上君。同じくパーカー付きの、白のタンクトップで二の腕あたりからアームウォーマーをつけて、ミニスカートを履いている氷河さん。
あれ間違いなくお揃いな感じでは?? 仲良しかよ。
なんてちょっと顔がにやけそうになるのを堪えながら、行く道が同じらしいので後をつけてしまう感じだけれどさりげなく後ろを歩く。
炎上君の服の裾を掴んで後ろをちょこちょこと歩く氷河さんはとてもかわいい。見ていてとても癒し。でも手は繋がないのかしら炎上君。
もどかしいような、でもかわいらしいようなそんな後ろ姿を見つつ大通りに出て歩いて行くと。
突然、氷河さんが顔を横に向けた。
おっとバレたか?? と思ったけれどどうやら違うようで。
彼女は、わたしたちが歩く歩道の反対側を見つめていた。
なんだろうとつられて見た先には、最近できたらしいカフェ。持ち帰りもできるしテラスでおしゃれにお茶もできて、しかもビーストとの交流支援を行ってるって有名なところだ。
気になってるのかな、なんてまた前に目を戻す。
その考えは当たりらしく、段々と目の前の女の子の歩幅はゆったりとしていった。
おっと炎上君そのままだと氷河さんが裾を離してしまうぞ。
そんな矢先に、思った通り、カフェに気を取られた氷河さんは炎上君の裾から手を離してしまい、立ち止まった。
瞬間。
「刹那」
炎上君が、名前を呼ぶ。
え、君今前向いてるのにどうやって気づいたん。後ろに目でもあるんですか。
名前を呼ばれた氷河さんは瞬時に反応して、炎上君を追いかけ、服の裾を掴んだ。
歩みを止めない炎上君。けれどまた、氷河さんはカフェに目を向け、歩みが遅くなる。
言っちゃいなよ氷河さん、あのカフェ行きたいって。
そう思ってはみるも、氷河さんはカフェをじっと見るだけ。
行きたいわけではないんだろうか。しかしどんどん歩みは遅くなり、
また、手を離してしまった。
「おい」
再び手を離した氷河さんに、炎上君が振り返る。
そうしてカフェの方を見ている氷河さんを捉えて、彼女に歩み寄った。会話を聞きたいのでさりげなくスマホが鳴ったフリをして、ちょっとわき道に逸れて携帯をいじる。
「どうした」
「あれー」
「ん?」
なんだその優しい聞き方。イケメンかよ。
ちらりと様子をうかがうと、彼女の視線に合わせるように炎上君はしゃがんでいる。
お兄ちゃんかよ。
「どれ」
「カップかわいい…」
「カップ?」
あー、オープン記念でビーストを模したかわいいカップになってるんだっけ。サイトを開いて見てみると、猫や犬、クマなど、たくさんの種類のカップがある。なるほど、それを見てたのか氷河さん。
「ねことくまかわいいの…ほしー…」
「……」
言われた炎上君は、立ち上がる。お、行くのかイケメン。
彼はキョロキョロと周りを見て、何かを確認していた。車通りかな?
「あっちで渡るぞ」
そしてここから少し歩いた先を指さした。そこには、
横断歩道。
もうお父さんじゃね炎上君。
見た目不良っぽいくせしてすげぇ律儀。ギャップ萌えはんぱねぇな。
ここでわたしも同じ経路で行ってしまうと絶対に不審がられそうなので、二人が歩き出したのを見計らって、わたしはそのまま車道を突っ切った。よい子はまねしないでね。
そうして渡り切ってわき道でまたスマホをいじること数分。
彼らがやってきてから、電話してるフリをして「うんじゃあちょっとカフェで時間潰してるー」なんて嘘をつきつつ彼らを追って店に入る。
少し列ができたレジに並んだ瞬間に、わたしも後ろに並んだ。なんでわざわざここまでしてるかだって? 会話聞きたいんだもの。
「先にメニューをお選びになってお待ちくださーい」
「どうも」
律儀にお礼を言って、炎上君はメニュー表を受け取る。わたしも受け取って、メニューを見るフリをして前の二人に意識を向けた。わたしはキャラメルマキアートでいい。決まっている。
目の前のカップルは、相も変わらず氷河さんが炎上君の裾を持って、手を繋がず並んでいる。手は繋がないタイプなのか。
そして炎上君は「ほら」、と彼女に見えるようにメニューを見せた。イケメンだな。
そこからは特に会話もなく並ぶことしばらく。
炎上君たちが注文する番になり、レジ前に立った。
メニュー表を返しながら、
「コーヒーとココアのトールで」
なんて言う。
そうして財布を取り出す。わぉイッケメーンと思うけれどちょっと待ってね。
氷河さん「これ飲みたい」っていつ言った???
わたしずっと意識向けてたけどじっとメニュー見てただけだよ??
決まったかとかこれがいいとか何もなく炎上君頼んじゃったよ?? 夫婦でもできねぇよそんな芸当。
「現在期間限定でこちらのカップにできますが、彼女さんのをこちらのカップにしますか?」
「両方お願いします」
しかも両方可愛いカップにするんかい。
炎上君それ持つの?? お姉さんも「えっ」て顔してるぞ。
その間にもビーストを指定していく炎上君。そのままお金を払って、商品待ちの棚の方に移動して行った。
流れるように可愛いもの指定していったぞあのイケメン。
驚いた顔のままとりあえず注文を、と前に向き直ると、同じく驚いた顔をした店員さんと目が合う。二人して曖昧な笑みを浮かべて、ひとまずキャラメルマキアートを頼んどいた。
◆
さて、と。
トールサイズのマキアートを受け取って、ちょこちょこ飲みながら店内を見回し龍刹を探す。
が、見当たらない。
じゃあ外か、と一歩踏み出すと。
いたーーーー。
くまさんのカップで飲んでる炎上君いらっしゃったーーー。
その傍らにはねこさんカップで飲んでる氷河さん。こっちはかわいいただかわいい。
彼らはガードレールに凭れるようにして飲み物を飲んでいる。
この一文だけ見ると美男美女が優雅にデートを楽しんでいるように聞こえるが、
炎上君の手にはくまさんがいらっしゃる。
ふっつーに飲んでるけど恥ずかしくないの炎上君。たぶんこれ女の子ターゲットだからがっつりハートとか入ってるけど。道行く人もちらちら見てるぞ。イケメンだーと目を向けてその手元見てびっくりしてるぞ。
けれど本人はまったく気にしていないのか恋人さんを見つつ(恐らく)コーヒーを飲んでいる。
肝座ってんな。
ひとまず会話が聞こえそうなテラス席に座って、飲み物に口を付けつつまたスマホをいじった。
「うまいか」
「ん」
「よかったな」
「ん」
横目で見てみると、こくこくうなずく氷河さんを見て炎上君が微笑んでいる。イケメンスマイルいただきました。ありがとうございます。
炎上君は飲み終わったのか、お持ち帰り用の袋にくまさんカップを入れる。あ、捨てないんだ。持って帰るのね。氷河さん欲しいって言ってたのを叶えてあげるのね。最高かよ。あんな彼氏持ちてぇ。
「……」
「…」
元々物静かな二人はプライベートでもそうなのか、あまり会話らしい会話がない。炎上君はスマホをいじりだし、氷河さんは飲み物を飲んでいる。
すると彼女のねこさんカップの残りが半分弱というところで、突然氷河さんは何かを追うように顔を動かした。
じっと追っては戻し、また発見したのか、追うのを繰り返す。
なんだろうと思って視線を追ってみると、
彼女の視線の先には、カップル繋ぎをした男女の手。
最初は確信がなかったけれど、顔を動かすタイミングで視線の先にいるのはいつも手を繋いだ男女だった。
っあーほらやっぱり手繋ぎたいんじゃん氷河さんーーー。
炎上君学園以外でくらい手繋ごうよーー。
テーブルを叩きたくなるのはなんとか耐え、代わりに貧乏揺すりをする。
そうして何度も追い、戻しを繰り返していると、ズゴゴ、とねこさんカップが中身終了を告げた。
「ほら」
「…」
それを炎上君が回収し、袋に入れる。そしてまた、歩き出した。
炎上君気づいてあげて、氷河さん手繋ぎたがってるよ。
念を送ってみるけれど気づくはずもなく。もどかしいままキャラメルマキアートを吸い込む。
と。
「りゅー」
「ん?」
いつも通り服の裾を掴んだ彼女は、くいっと引っ張った。それに気づいた炎上君は振り向き、視線を合わせるようにしゃがむ。
「どうした」
「あれやりたい…」
「あれ?」
おずおずと、氷河さんは指をさす。
その先には手を繋いだ男女。
しかしこれだとわかりづらい。
炎上君も首を傾げてしまった。
「どれだ」
「あのね、あの…」
氷河さんはほんの少しだけ頬を染めて、一生懸命言おうとしている。
がんばれ氷河さんっ。
「あの、っ…」
「ん?」
しゃがんだ膝に肘をつき、炎上君は優しく聞く。あーーもどかしいのにイケメンだなちくしょう。
氷河さんはキョロキョロと、たぶんまた手を繋いでいる男女を捜しているんだろう、辺りを見回す。
そして近くを通りかかったターゲットを見つけ。
「あの、手…」
「手?」
「あれ、やりたい…」
炎上君の腕の裾を持って、顔を紅くして小さく呟く。くそかわいいなおい。
手と言われて、今度こそ捉えられたらしい炎上君は「あぁ」と納得の声を上げた。
そうして立ち上がり。
「ほら」
手を、差し出す。
っひゅうさっすが!
差し出された氷河さんは、どこか嬉しそうに、自分の手を重ねた。緩く、そのまま握ると。
なんと炎上君、自然に指を絡めたじゃあありませんか。
やっべ自分じゃないのにすげぇ打ち抜かれた感やばい。氷河さんもまさかそこまでしてくれると思わなかったのかわたわたしてるぞ。
なんだあのイケメン。さっきからイケメンしか言ってないけど許してイケメンなんだもん。そして氷河さんめちゃくちゃかわいいなおい。普段あんまり表情変わんないけどだからこそああやって照れるとかわいさ倍増。
さてもっとこのかわいさに浸りたいけれど、まずは歩き出してしまった彼らの後を追おうかと、立ち上がる。
カップを捨て、本当はここからは行き先が変わるけれど好奇心の方が勝ってしまい。再び彼らの少し後ろについたところで。
「!」
ふっと、紅い目と視線が合った。
炎上君はこちらを振り向き、その目に警戒を含ませている。その冷たさに、思わず立ち止まってしまった。
おっとこれは──?
もしやと思い至ったところで、彼はわたしがクラスメイトだとわかったのか、少し驚いた顔をした。
ただそれは一瞬で。思案した表情を見せたあと。
そのまま、再び前を向いて歩いて行った。
どうやら見逃してくれたようだ。
立ち止まっていたわたしは。
「……これ最初から気づかれてたやつ……?」
クラスメイトであったことに心底感謝して、本来行くべき道に戻って行った。
これを機に、わたしは龍刹がさらにかわいいということと、尾行は相手を選ばなければならないということを学びました。
『買い物に行ったら龍刹がいた話 2』/笑守人学園一年二組 女子生徒A
リアクリ、あんまりおてては繋がないカップルです。理由はリアスがいざというときすぐに行動できるようにするため。でもすごい安全なところとか、外でもお願いするとちゃんと手繋いでくれます。




