第8章:教授の「悪魔の」アドバイス
翌朝、午前8時30分。研究室にはまだ私(姫宮鏡子)しかいない。
昨日までの数日間で蓄積された「エラーログ(失敗)」が、私の完璧だったはずの睡眠をわずかに侵食し、予定(午前6時00分)よりも3分早く覚醒(起動)させてしまった。
ディスプレイには、『Project: L.O.V.E.』のファイルが開かれている。
[実験1:FAILURE(看破)]
[実験2:CATASTROPHIC FAILURE(完敗)]
[実験3:TOTAL FAILURE(完全敗北)]
赤文字で埋め尽くされた画面を、私は「無」の表情で見つめていた。
(内面の混乱): (…なぜだ。なぜ、私の「論理」は、ことごとく彼(非論理)に通用しない) (プランA(接触)は、看破された) (プランB(吊り橋)は、無効化された) (プランC(自己開示)は、「既知」として処理された) (一方で、汚染者(咲希)の「非論理(バグの塊=弁当)」は、受諾された) (…分からない。論理が、非論理に敗北し続けている。私のシステム(思考)では、次の「論理的な一手(プランD)」が、構築できない…!)
(外面の無表情): 私は、フリーズした思考をリセットするため、規則的に、10秒に一度、キーボードの「Shift」キーを(無意味に)押下していた。 カチ…(10秒)…カチ…(10秒)…カチ…。
「やあ姫宮くん、熱心だね。だが、少し煮詰まっている顔だ」
(五感:匂い) その声と同時に、あの「不快(刺激的)」なコーヒーの焙煎香が、私のパーソナルスペース(嗅覚)に侵入した。 田沼教授だ。
(外面の無表情): 私は「Shift」キーから指を離し、ゆっくりと彼を見る。 「教授。ご苦労様です」 「(内面の混乱):(…まただ。なぜこの人は、私のアウトプット(成果)ではなく、私の『顔』を評価する? 非論理的だ)」
教授は、湯気の立つマグカップを片手に、私の隣に(許可なく)立ち、私のディスプレイ(エラーログ)を(許可なく)覗き込んだ。 教授は、面白そうに目を細めている。
教授:「フム。『Project: L.O.V.E.』か。壮大なテーマだねえ」 「!」
(内面の混乱):(…見られた!? 私の「実験」が、教授(第三者)に!? なぜパスワード(論理防御)を…いや、違う。私は今、自分でファイルを開いていた…! 致命的なエラー(油断)だ!)
教授:「(私の動揺を面白がるように)まあ、落ち着きたまえ。君が旧書庫のエレベーターを『人為的』に止めたり、夏目くんを『偶然』につけ回したりしているのは、研究室では公然の秘密だよ」 「…(フリーズ)…」
(内面の混乱):(…公然? 秘密? エンターテイメント? 私の完璧な「実験」は、全て…『お見通し』だった…?)
(外面の無表情): 私の体温が、急速に低下していく(エラー)。 指先(末端)が、再び冷え始めた。
(内面の混乱):(…完敗だ。私の「論理」は、陽太(非論理)だけでなく、教授(上位論理)にも、全て看破されていた…!)
私の「フリーズ(敗北)」を見て、教授は(悪魔のように)笑った。 教授:「姫宮くん。君の『実験』がうまくいかない理由は、単純だよ」 「(ハッと顔を上げる)…! 何でしょうか」
(外面の無表情): 私は、教授の「最適解」を待つ。 私のシステム(思考)は、今、外部からの「論理」を、渇望していた。
教授:「君のアプローチは、どうも刺激が『弱すぎる』。そして、『予測可能』すぎるんだ」
(内面の混乱):(…! 確かに。プランA(接触)もB(吊り橋)もC(自己開示)も、彼(陽太)の『予測(直感)』の範囲内だった…!)
教授は、私の耳元に(非論理的な近さだ)顔を寄せた。 コーヒーの匂い(刺激臭)が、強くなる。
教授:「認知科学の観点から言えば、人間の『感情(のような非論理的なモノ)』…特に、夏目くんのような『直感』タイプを揺さぶるには、理性が『ノイズ』として処理できないような、予測不能で、原始的な強い刺激が必要だ」 「原始的な…強い刺激…?」 教授:「そう。例えば、君が今やろうとしている言葉(言語情報)や状況(環境設定)なんてのは、いくらでも論理的に解釈(処理)できてしまう。彼(陽太)なら尚更だ。そうじゃない、もっと『直接的』なインプットさ」
教授は、そこで意地の悪い笑みを浮かべた。 彼の「論理」が、私の「思考」に、致命的な「バグ(アドバイス)」を仕掛けてくる。
教授:「……『触れる』とかね」
(五感:聴覚) 「ふれる」 その単語が、私の鼓膜を叩いた瞬間。
(内面の混乱):(…アラート! アラート! 危険信号を検知! 以前、陽太が接近した際に発生した、あの『熱』と『匂い(データ)』! あの『心拍数の異常』! あれを、意図的に!?)
教授は、私の「内面の混乱」に気づきながら、意図的に(悪魔のように)続けた。
教授:「皮膚感覚(五感:肌触り)を通じた情報は、脳の扁桃体に直接作用する。言語より、よほど『強い』。夏目くん(非論理)の『直感』を、バイパス(迂回)できる唯一の手段かもしれないよ?」 教授:「ま、基礎理論だがね。頑張りたまえ、姫宮くん」
教授は、コーヒーの匂い(ノイズ)を残して、自室へと消えていった。
(外面の無表情): 私は、自席で、動かない。 …1分。 …3分。 …5分。
(内面の混乱): (…『触れる』) (…『原始的な、強い刺激』) (…『扁桃体に直接作用』) (…『論理をバイパス』)
(内面の混乱):(…危険だ。あの「バグ(心拍異常)」を、制御できるのか? 私が、再びフリーズする(エラーを吐く)リスクは?) (…いや。待て。思考が違う) (以前のバグは、彼(非論理)からの『予期せぬ』接近だったから発生した) (だが、今回は『私』が、『計画』し、『意図的』に実行する『実験』だ) (私(実験者)が、彼に、一方的に「刺激」を与える) (よって、私がエラーを吐く(バグる)可能性は、論理的に、0%だ)
(内面:結論) (…教授(上位論理)のアドバイスは、正しい) (プランA, B, C(論理)が看破された今、残された最適解は、これしかない) (私の「論理」が通用しないことに焦り、最強の実験(プランD)を試みる)
(外面の無表情): 私の、冷え切っていた指先(末端)が、ゆっくりと動き出す。 カタ、カタ、カタ…。 私は『Project: L.O.V.E.』ファイルに、最後の「論理」を、打ち込んだ。
実験4:物理的接触(=原始的刺激)による扁桃体(感情)ハッキング
(…第八章・了)
(あー、だりぃ…) 俺、夏目陽太は、昨夜(プランC)の「姫宮鏡子フリーズ(絶望)事件」を思い出し、 (あの人、今日、ちゃんと起動してんのかな…) と、欠伸を噛み殺しながら研究室に向かっていた。 レポートのせいで、ここんとこ睡眠時間がズレまくってる。
ガララ、と。 前方で教授室(ラスボス部屋)のドアが開き、張本人…田沼教授が出てきた。
「おお、夏目くん、早いね」 「教授こそ。あー、ちょっとレポートがヤバくて…」 俺が(ウソの)理由を言うと、教授は、全部お見通しだ、という「悪魔」みたいな顔で、ニヤリと笑った。
教授:「レポート? フム。君はそれより、姫宮くん(マシナリー)の『壮大な実験』のサンプルになってあげてるんだろう?」
(うわ、やっぱり気づいてやがる、このジジイ!) 俺の「直感」は、この教授(悪魔)が、姫宮さん(マシナリー)の「空回り」を、俺以上に「楽しんで(観測して)る」ことを、正確に検知していた。
「…さあ、何のことだか」 俺がとぼけてスルーしてやると、教授は「はは」と肩をすくめた。 教授:「面白そうだねえ、彼女。今朝も早くから、一人で『煮詰まっている』だろうからね。さ、入ろうか」
(「面白そうだねえ」じゃねえよ! あんたが煽てるから、あの人が「プランC(自己開示)」みたいな、ベタ(教科書通り)な『実験』してくんだろうが!)
俺は、この「悪魔(共犯者?)」と一緒に、研究室のドアを開けた。
(…うわ、マジでフリーズ(煮詰まって)してる)
案の定、姫宮鏡子が、自席(無菌室)で、ディスプレイを睨みつけたまま、完璧に「停止」していた。 カチ…(10秒)…カチ…(10秒)… (あ、生きてた。Shiftキーを、10秒間隔で押下ことで、かろうじて「生命維持」してる)
(…ん?) (…あ、ヤバい) 俺と教授が二人で同時に入室したのに、 彼女の視線は、教授しか「認識」していない。 俺が、真横を通り過ぎようとしてるのに、 全く、気づいてない!
(おいおいおい、マジかよ…) 俺は、あえて気配を完璧に「ゼロ」にして、音を立てずに、自分の「汚染区域」へと、そっと着席した。
(…姫宮さんよぉ…) (…あんた、俺を「攻略」するって息巻いてる割に、俺が目の前にいても「認識」すらできねえのかよ) (…昨日の『プランC(自己開示)』失敗ごときで、そこまで「視野狭窄」するか? 普通) (…実験の失敗ごときで生活リズムがズレるほど落ち込むぐらいなんだから、集中力が足りないんじゃないの? あんたの『完璧な論理』は…)
俺は、この「不器用すぎる機械」と、「悪魔(教授)」が、今からどんな「ズレた論議」を始めるのか、気配を消して「盗み聞き」を開始した。
教授:「やあ姫宮くん、熱心だね。だが、少し煮詰まっている顔だ」 鏡子:「教授。ご苦労様です」 (うん、やっぱり俺の存在、認識してねえな)
教授が、彼女のPC(本体)を覗き込む。 教授:「フム。『Project: L.O.V.E.』か。壮大なテーマだねえ」 鏡子:「!」
(…うわ、マジでその名前! だせえ!てか、教授(悪魔)! バレてるじゃねえか!) 姫宮さん(マシナリー)が、完璧な「無表情」のまま、完璧に「フリーズ(熱暴走)」しているのが、背中越しでも分かる。
(…さあ、来たぞ。悪魔(教授)のアドバイスタイムだ)
教授:「姫宮くん。君の『実験』がうまくいかない理由は、単純だよ」 鏡子:「(食い気味に)! 何でしょうか」 (…うわ、食いついた。今の「!」、完全に『期待』ってたぞ、あの人)
教授:「君のアプローチは、どうも刺激が『弱すぎる』。そして、『予測可能』すぎるんだ」 (…うんうん、その通り! 俺、全部「予測」できてたもん)
教授が、姫宮さん(マシナリー)に、顔を寄せる。 (お、来たぞ。『悪魔の囁き(アドバイス)』だ) 教授:「…『予測不能』で、『原始的』な強い刺激…」 教授:「…『直接的』なインプットさ」 教授:「……『触れる』とかね」
(……………) (……………) (……………は?)
俺は、自分の「汚染区域」で、息が止まるのを感じた。
(…『ふ、ふ、ふ、ふれる』!?) (…いやいやいやいや! 教授(悪魔)! ストップ! ストップ!) (…何てことをアドバイスしてんだ、あのジジイ!) (…あの『機械』が! 俺に! 『物理的接触』!?)
(…ダメだ! それだけは! 絶対に! 面白すぎるだろ!)
俺は、姫宮さん(マシナリー)が、その「悪魔のアドバイス」を、どう「処理」するか、固唾を飲んで見守った。 彼女は、数分間、完璧に「フリーズ(思考停止)」していた。 そして、
カタ、カタ、カタ…。 彼女の指が、動き出す。
(…うわ、真に受けたインストールした) (…完璧な「無表情」で、あの「非論理的なアドバイス」を、完璧な「論理」として、今、システム(プランD)に組み込んでやがる…!)
俺は、自分のデスク(汚染区域)に突っ伏し、 (…ヤバい。ヤバい。次の「プランD(物理接触)」、) (…面白すぎて、俺、耐えられる(笑わないでいられる)自信が、) (…全く、ねえ…!) と、これからの「非論理」な「実験」を想像して、一人こっそりと、肩を震わせた。




