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そのアタック、ロジック違反です! ~完璧主義の「恋」は、非効率に攻略されたい~  作者: トムさん


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4/12

第4章:実験2:吊り橋効果(そして空振り)



翌日の午前10時。研究室には私一人。

サーバーの静かな駆動音だけが響いている。

陽太(Subject: Chaos)は、この時間(午前)は講義タスクが入っているため、不在だ。

完璧な思考環境。

私は、昨日の『実験1:失敗(FAILURE)』のログデータを、ディスプレイ上で冷徹に分析していた。


(内面:分析) [実験1:失敗要因の分析]


アプローチ(物理的接触)が「単純シンプル」すぎた。


ターゲット(陽太)の「直感(非論理)」が、私の「計画(論理)」を上回った。


彼が私の行動(減速)を「データ」として取得し、「看破」した。


(内面の混乱):(…あの非論理カオスの塊が、ロジックの0.1秒の減速を検知した? 信じがたい。彼のセンサー(五感)は、私の予測シミュレーションを遥かに超えるノイズ(直感)に満ちている)


だが、落ち込む(エラーを吐く)必要はない。 完璧主義者(私)にとって、失敗エラーは、次への「最適解ロジック」を導き出すための貴重な「データ」に過ぎない。


(内面:結論) (…結論。弱い刺激ロジックは、彼に「看破」される) (ならば、彼自身の『直感(非論理)』では制御できない、より「強力」な生理的反応バグを、強制的に引き起こせばいい)


私は『Project: L.O.V.E.』ファイルに、次の実験計画を打ち込む。


実験2:吊り橋効果(シャクター・シンガー理論)の検証


理論ロジック: 不安、恐怖、興奮といった強い「生理的喚起」が発生した際、ヒトはその原因を「周囲の状況(環境)」に帰属させる。


計画プラン: ターゲット(陽太)と共に「強度の不安(吊り橋)」を共有する閉鎖空間に身を置く。そして、そこで発生した「生理的興奮ドキドキ」を、ターゲットが「私(姫宮鏡子)への好意」と誤認エラーするよう誘導する。


実行環境: 大学の「旧・書庫棟」の、老朽化したエレベーター。


実行手段: 私(鏡子)による、人為的な「緊急停止ボタン」の押下。


(外面の無表情):私は、この完璧な計画ロジックを前に、小さく頷く。 「単純接触効果」のような生易しいものではない。「吊り橋効果」は、彼の「脳」そのものに直接バグ(誤認)を仕掛ける、高度な心理的ハッキングだ。 彼がいくら「直感」に優れていようと、脳の「生理的興奮」そのものを止めることはできない。


実験ハッキングの準備は、整った。




午後4時。

旧書庫棟は、新棟とは比較にならないほど空気が冷たく、重い。

ほこりと、カビ臭い紙の匂い(五感:匂い)が鼻腔センサーを刺激する。

天井の蛍光灯は数本が切れており、チカチカと不規則な点滅ノイズを繰り返し、長い廊下は薄暗い。

人の気配はゼロ。完璧な実験環境だ。


「…で、なんで俺まで…」 私の隣で、陽太が心底面倒くさそうに呟く。 彼を研究室からここまで誘導エスコートする口実ロジックは単純だ。


「教授の指示タスクだ。『夏目くんのレポートに必要な資料ロジックが、旧書庫にしかない。姫宮くん(論理)と一緒に、二人で(非論理)探してこい』と」 「うわ、あのジジイ、人使い荒すぎ…。姫宮さん一人で行ってくれればよかったのに」 「(外面の無表情)…二人で、と指示されている」 陽太は大きなため息付き、あきらめたように言う「…はいはい。分かりましたよー」


目の前には、目的の「実験室エレベーター」が、重い金属の扉を閉ざして待っている。 私が「開」ボタンを押すと、「ゴゴゴ…」という地響きのような動作音(五感:音)と共に、扉がゆっくりと開いた。


内部は、大人が三人入れば一杯になるほど狭い。壁は傷だらけのステンレス。古い機械油の匂い(五感:匂い)が、空気に染みついている。照明は暗いオレンジ色の裸電球が一つだけだ。


「うわ、せまっ。てか、くさっ」 陽太が非論理的な文句を言いながら、奥の壁に寄りかかる。 私が入り、目的階(5階)のボタンを押す。


ガコン、という重い音と共に扉が閉まる。 世界から、私と「サンプル(陽太)」の二人だけが切り離された。


ゴォー…ゴォー… エレベーターが、不気味な(計画通りの)駆動音を立てて上昇していく。


(内面:分析) (…ターゲット(陽太)の様子をスキャン。壁に寄りかかり、スマホ(ノイズ源)をいじっている。私への注意リソースはゼロ。完璧なタイミング(シチュエーション)だ)


3階から4階へ。 4階の表示ランプが点灯し、消える。 …今だ。


(外面の無表情):私は、操作パネルに寄りかかり、バランスを崩した「フリ(演技)」をする。 そして、私の指が「偶然(という名の論理)」、あの赤い「非常停止」ボタンを、深く、強く、押し込んだ。


ガッッッッッッッッッッッッ!!!!


(五感:音・振動) 鼓膜センサーを突き破るような金属音と、内臓システムを揺さぶる強烈な「振動ショック」。 ゴ、ゴ、ゴ…と上昇していた駆動音が、完全に「沈黙」する。


(五感:視覚) 次の瞬間。 ブツン、と。 唯一の照明(オレンジ電球)が消え、世界が「完全な暗闇」に包まれた。


(内面:確認) (…よし! 計画ロジック通り、タスク(吊り橋)発生! 暗闇、閉鎖空間、強烈な振動(恐怖)! これだ! この生理的興奮アラートを、彼は今、私の隣で感じている!)


数秒の沈黙。 暗闇ノイズの中で、私(論理)は、彼(非論理)の「バグ(誤認)」を待つ。 彼の「直感」など、この「恐怖ロジック」の前では無力なはずだ。


(外面の無表情):私は、動かない。 彼がパニック(興奮)を起こし、私に「大丈夫か!?」と声をかけ、その興奮を「恋」と誤認する、その瞬間を待つ。


…だが。 暗闇の中で、陽太は、静かだった。 パニック(エラー)の兆候が、ない。


カチ、と。 小さな音がして、陽太のスマホのライト(五感:視覚)が点灯した。 白い光が、狭い空間をぼんやりと照らし出す。


彼は、そのライトで「私の顔(表情)」ではなく、私が押した「操作パネル」を冷静に照らした。 そして、あの赤い「非常停止」ボタンを、じーっと見つめ…。


「……あ、」


ため息(非論理)を一つ吐いて、彼は、私の「ロジック」を、再び粉砕する言葉を口にした。


「これ、姫宮さんが押したでしょ?」


(内面の混乱): (…………!?) (…………ERROR) (…ナゼ? マタ? ドウシテ? 看破サレタ? この完璧ナ状況下デ? ナゼ!?)


(外面の無表情):私は、石像マシナリーのように動けない。 暗闇(非常灯も点かないポンコツだ)の中、スマホのライトに照らされた私の顔は、完璧な「無」だった。


「…何を、言っている。これは、事故だ」 「いや。だって、今『ガコン』ってなる直前、姫宮さんの指が非常ボタンにあったもん」


(内面の混乱):(…ウソだ! 彼の視覚センサーは、あの「暗闇ノイズ」と「振動ショック」の瞬間に、私の指先(0.5秒)の動きを、正確に捉えていた…? 私の『演技ロジック』を、全て!? あり得ない! バグだ! 彼(非論理)の存在そのものが、私のシステム(論理)に対する致命的なバグだ!)


陽太は、スマホのライトを私に向けたまま(眩しい。非論理的だ)、面倒くさそうに頭を掻いた。 「あーあ。これ、マジで止まると復旧めんどくさいんだよねー。管理室に電話しなきゃ」


(内面の混乱):(…めんどくさい? 彼は、この「吊り橋効果(恐怖)」を「恐怖」として処理(誤認)せず、「面倒タスク」として処理(論理)した? 私のロジック(吊り橋)が、サンプルの非論理(面倒くさい)に負けた…?)


陽太は、スマホでどこかに電話をかけ始めた。 「あ、もしもしー。すみません、旧書庫のエレベーター、止まっちゃって。いや、こっちの人がボタン押しちゃって…。はい…」


(外面の無表情): 私は、暗闇の中で、ただ立ち尽くす。 スマホの光に照らされた、彼の「非論理的」な横顔を見ながら。


実験2:吊り橋効果(プランB)。 結果:完敗(CATASTROPHIC FAILURE)。


(…第四章・了)

【シーン:大学・心理学部棟・研究室・翌日】


昨日の「バレバレな接触実験(プランA)」から一夜。 俺、夏目陽太は、姫宮鏡子マシナリーが次に何を仕掛けてくるのか、正直ちょっと楽しみにしていた。


(昨日のフリーズは傑作だったな…)


「不要だ」とか言って、カツカツカツ!って逃げてった時の、あの「完璧に乱れた」ヒールの音。 思い出すだけで笑える。


(さて、プランBは、いつ来る?)


俺が自分の「汚染区域デスク」でレポートと格闘していると、その「観察対象」が、静かすぎる足取りで俺の背後に立った。


(うわ、来た) (気配が、冷たすぎるんだよな、この人)


「夏目くん」 「はいはい、何でしょう」 俺が振り返ると、彼女は完璧な「無表情」で、俺を見下ろしていた。


「教授の指示タスクだ。『夏目くんのレポートに必要な資料ロジックが、旧書庫にしかない。姫宮くん(論理)と一緒に、二人で(非論理)探してこい』と」


(…………) (…来た。「二人で」!)


俺は、噴き出しそうになるのを堪えた。 (教授ラスボスまで巻き込みやがった! あのジジイ、絶対面白がってるだろ!)


俺の「直感」が、警告を鳴らしている。 『旧書庫』。 『二人きり』。 『姫宮さん(マシナリー)からの、お誘い』。


(…あー、なるほど。教科書通りだな)


「うわ、あのジジイ、人使い荒すぎ…。姫宮さん一人で行ってくれればよかったのに」 俺は、わざと面倒くさそうに答える。 さあ、どう切り返す? 姫宮さん。


「…二人で、と指示されている」 彼女は完璧な「無表情」で、そう切り捨てた。 (知ってた。そのセリフ、100%言うと思った)


(旧書庫、ねぇ…) あそこ、薄暗くて、カビ臭くて、オバケが出るとかいう、学内随一の「ホラー的」スポットじゃん。


(…分かった。完全に分かったぞ、姫宮さん) (あんたの「プランB」…) (**『吊り橋効果』**だろ!)


(うわ、マジか。心理学の学生が、今さら『吊り橋効果』!? ベタすぎるだろ! 面白い!)


俺は、この「分かりやすすぎる実験」に、あえて乗ってやることにした。 「(大きなため息)…はいはい。分かりましたよー」


【シーン:大学・旧書庫棟・3階エレベーターホール】


(うわ、カビ臭っ) (てか、暗っ) 旧書庫棟は、相変わらず空気が重い。 蛍光灯もチカチカしてるし、雰囲気は満点だ。


姫宮さんは、完璧な「無表情ポーカーフェイス」で、俺を例の「ポンコツ・エレベーター」へと誘導する。


(あー、これか。エレベーターが、今回の「吊り橋」か) (この、いつ止まるか分からないと噂のポンコツで、サンプルの「不安」をあおる、と) (なるほどねー。シンプルだねー)


ゴゴゴ…という不気味な音と共に、ドアが開く。


【シーン:エレベーター内部】


(せまっ! 臭っ!) 俺は、わざと文句を言いながら、奥の壁に寄りかかる。 姫宮さんが、俺と二人きりの「閉鎖空間」に入り、5階のボタンを押した。


ガコン、と重い音がして、ドアが閉まる。 ゴォー…ゴォー… エレベーターが、うなりを上げて上昇していく。


(さあ、いつ来る? いつ「止める」?) (てか、どうやって「偶然」を装う気だ?)


俺は、あえて「警戒ゼロ」を装い、スマホを取り出して、どうでもいいニュースを眺めるフリをした。 (彼女(実験者)の「アタック」が、最高の形で決まる(失敗する)ように、な)


3階から4階へ。 4階のランプが消える。 (…来るぞ)


その瞬間。 姫宮さん(実験者)が、 (お、来た! 『バランスを崩したフリ』!) と、俺の「直感」が検知した。


彼女の身体が、わざとらしく計算通りに傾ぎ、 彼女の指先が、寸分の狂いもなく完璧に、 あの、真っ赤な非常停止ボタンへと、吸い込まれていく。


(うわ、マジで押したよ、この人!)


ガッッッッッッッッッッッッ!!!!


(うおっ、すげえ音!) 強烈な振動と、金属音。


ブツン。 (あ、照明も消した) 完全な「暗闇(演出)」だ。


(…………) (…………) 静寂ゼロ・ノイズ。 そして、暗闇。


(…で?) (…姫宮さん、あんたの「プランB(吊り橋)」は、ここからが本番だろ?) (どうすんの? 悲鳴でも上げる? サンプルの腕にでも、しがみついてくんの?)


俺は、暗闇の中、彼女の「次の行動」を待った。 …5秒。 …10秒。


(…………) (…あれ? 何もしてこない)


暗闇(実験室)の中、彼女は、 (え、息、してんの?) ってくらい、静かだ。 微動だにしていない。


(…あー、なるほど。分かった) (この人、「恐怖」を「共有」するんじゃなくて、) (俺が、この「暗闇(恐怖)」で、勝手にパニックを起こすのを「待ってる(観測してる)」のか!) (そして、その「パニック(ドキドキ)」を、俺が「姫宮さん(実験者)への恋」だと「誤認」する、と)


(…いや、無理だろ!!) (怖くねーし! むしろ、めんどくせーし!)


俺は、もう飽きた。 この「完璧な(はずの)実験」を、終わらせることにした。


カチ、と。 俺は、スマホのライトを点灯させた。


(うわ、いた) 暗闇の中に、姫宮さん(マシナリー)が、完璧な「無表情」で、立っていた。 だが、俺の「直感」は、見逃さない。


(あ、今、一瞬、目が『残念だ』って言ったな)


俺は、スマホのライトを、彼女ではなく、 (彼女が一番「見られたくない」であろう) 「操作パネル」に、ゆっくりと向けた。


(…はい、見っけ) 真っ赤な「非常停止」ボタン(証拠A)。 これが、あんたの「完璧な論理」だ。


俺は、ゆっくりと息を吐いて、 彼女(フリーズ寸前)の目を見て、 「真実(答え)」を、言ってやった。


「……あ、」 「これ、姫宮さんが押したでしょ」


(…………) (…………あ、フリーズした)


彼女が、また固まった。 昨日(プランA)より、強烈に。 完璧な「無表情」のまま、彼女のシステムが、完全に「停止」したのが、空気で伝わってくる。


「…何を、言っている。これは、事故だ」 (お、再起動リブートした。だが、声が、完璧に「動揺」しているぞ)


「いや。だって、今『ガコン』ってなる直前、姫宮さんの指、そこ(非常ボタン)にあったもん」


(ウソだけど) (暗くて見えなかったけど) (あんたの「完璧な論理(教科書通り)」なら、そこ(ボタン)を「押す」以外に、選択肢ないだろ?)


彼女の「無表情」が、わずかに、本当にわずかに、 (…なぜ『看破』された…?) という「絶望」に歪んだのを、俺の「直感」は、見逃さなかった。


(あーあ。また「フリーズ」させちまった) (てか、マジで、これ、どうすんだよ)


俺は、スマホを取り出し、管理室に電話をかける。 「あーあ。これ、マジで止まると復旧めんどくさいんだよねー。管理室に電話しなきゃ」


(あんたの「実験」、不器用すぎて、面白すぎるけど) (後始末が、「めんどくさい」んだよ、姫宮さん)


俺は、管理室(教授?)に電話をしながら、 「あ、もしもしー。すみません、旧書庫のエレベーター、止まっちゃって。いや、こっちの人がボタン押しちゃって…。はい…」 と、暗闇の中で完璧に「フリーズ(停止)」している「面白い機械マシナリー」を、横目で見て(観測して)やった。

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