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そのアタック、ロジック違反です! ~完璧主義の「恋」は、非効率に攻略されたい~  作者: トムさん


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第2章:研究サンプル(非論理)の選定


翌朝、午前9時ジャスト。

研究室は、昨日とは違う冷たく澄んだ光に満ちている。

空気清浄機が発する「コー」という低い駆動音だけが、完璧な静寂を支配している。

ステンレスの棚に並んだ実験器具が、朝日に反射して鋭い光を放つ。

私はすでに自席ワークステーションに着き、本日実行すべきタスクリストの最終確認を行っていた。完璧な一日の始まりだ。


カチ、カチ…。 私のキーボードが刻む音は、メトロノームのように正確だ。 ディスプレイには、昨日作成した『Project: L.O.V.E.』のファイルが開かれている。


第一フェーズ:研究サンプル(ターゲット)の生態分析。 ターゲット:夏目 陽太。 コードネーム:Subject: Chaos(混沌体)。


私は、彼の基本データ(スペック)を淡々と入力していく。 年齢:21。 所属:同研究室。 成績評価:C(可)が5割、B(良)が3割、A(優)が2割。非常に不安定なアウトプット。 特記事項:レポート提出遅延の常習犯。


(内面の混乱):(理解不能。この低水準なタスク管理能力で、なぜ彼は「退学(システム排除)」処分にならない? 教授の評価ロジックに、何らかのバイアス(感情ノイズ)がかかっているとしか思えない) (外面の無表情):私は無表情のまま、彼のデータを「要観察」カテゴリに分類する。


その時だ。


バタンッ!!


研究室のドアが、鼓膜センサーを突き破るような暴力的な音(五感:音)を立てて開かれた。 私の完璧に調整された集中システムが、強制的に中断させられる。


(内面の混乱):(アラート! 物理的な衝撃音を検知。許容範囲外のデシベルだ。ドアのヒンジ(蝶番)が破損するリスクを考慮しない、非論理的な開閉!) (外面の無表情):私はゆっくりと顔を上げ、音の発生源(ノイズ源)を視界に捉える。


「はぁ…っ、はぁ…! せ、セーフ! ギリギリ、セーフ!」


そこに立っていたのは、私の「研究サンプル(Subject: Chaos)」――夏目 陽太、その人だった。


(五感:視覚) 視覚センサーが、彼の状態をスキャンし、データを羅列する。 ・頭髪:右側頭部に顕著な「寝癖カオス」を確認。スタイリングの放棄。 ・服装:Tシャツは裏返し。パーカーのジッパーは半分しか上がっていない。非対称性の極み。 ・所持品:PCケースと、なぜかコンビニの袋(中身は不明なスナック類)。 ・ステータス:軽度の酸欠状態(呼吸の乱れ)。


(内面の混乱):(午前9時2分の時点で、このコンディション。昨夜の活動ログ(睡眠)に重大なエラーがあったと推測される。完璧な私(午前6時起床)とは対極。非論理的。非効率。不愉快だ) (外面の無表情):私は再びスッと視線をPCに戻す。彼に投じるリソース(視線)は、1秒たりとも無駄だ。


「おはよー、姫宮さん。今日も早いねー」 彼は、息を整えながら、自分の「汚染区域デスク」に向かう。 私は返事をしない。非論理的な挨拶コミュニケーションに応答する必要はない。


「あれ、教授は? …あ、まだか。よかったー」 彼はPCを起動すると、おもむろにコンビニの袋から炭酸飲料を取り出し、「プシュッ」という不快な開栓音(五感:音)を立てて、それをあおり始めた。


(内面の混乱):(朝一番に、糖分と炭酸による血糖値スパイクを誘発する行為。愚の骨頂だ。私の常温水(最適解)とは、あまりにもかけ離れている…!)


彼は、私の「研究対象」として、これ以上ないほどの「非論理」を体現していた。 だが、それだけでは「最適サンプル」とは言えない。 重要なのは、彼の「対人コミュニケーション」だ。


ガララ、とドアが静かに開く。 昨日とは打って変わって、論理的な入室。教授だ。

「おや、非定常イベント発生だな。夏目くんが時間通りとは…」 「ひどいなー、教授。俺だってやるときは…やらないか(笑)」

教授が笑いながら話し始める「まあ、いい。それより、後輩の山田くんが、君に相談があるそうだ。昨日から、えらく落ち込んでいてね」


教授の後ろから、一人の男子学生、山田くんが、青白い顔で入ってきた。 彼は、私の分析データによれば、非常に繊細なシステム(メンタル)の持ち主だ。


山田くんは俯きながら「…夏目さん、あの…」 「ん、どしたの? レポートの書き方?」「いえ、それは…大丈夫なんですけど…。なんか、最近、研究室に来るのが、ちょっと…」


(内面:分析) (…なるほど。「抑うつ傾向」を検知。原因は「対人関係のストレス」あるいは「自己評価の低下」と推論される。教授が彼に要求するタスク(論理)は、彼の許容量キャパシティを超えている。最適解は、タスクの軽減ロジックを教授に提案することだ)


私は、この状況タスクに対する「論理的な正解」を、0.2秒で導き出していた。


だが、陽太の行動は、私の「論理」の対極にあった。

陽太は自分のデスクの椅子を引いて、山田くんに座るよう促し「そっか。…もしかしてさ、」


彼は、山田くんのPC画面やレポートを見る(データ分析する)ことなく、ただ彼の顔(表情)をじっと見つめた。 陽太:「昨日、俺らが話してた『来週の学会発表』の話、聞いてた?」 山田くん:「…え? あ、はい…」 陽太:「あれ、プレッシャーになっちゃった?」


山田くんがビクッと肩を揺らし、目を見開く。


(内面の混乱):(…なぜ? なぜ分かった? データ(根拠)はどこだ? 山田くんの言語アウトプットには、一切『学会』という単語は含まれていなかった。これは…『直感(非論理)』か? あり得ない。論理的な推論プロセスが存在しない!)


陽太:「あー、やっぱ。ごめんごめん。あれは教授が勝手に盛り上がってただけでさ。山田くんは、まず今の課題タスクを終わらせるのが最優先だって。な、教授?」 教授がやれやれという顔で「…私が悪者かね。まあ、その通りだ。山田くん、焦らなくていい」 山田くんは顔をあげて「…! あ、ありがとうございます…! なんか、俺だけできないと…」 陽太は笑って語り掛ける「大丈夫だって。俺なんか、去年の今頃、まだ何もできてなかったし。あ、このお菓子食う?」


(五感:視覚) 陽太が差し出した「非論理的なスナック」を、山田くんが「安堵」という非論理的な表情で受け取る。 さっきまで「抑うつ(エラー)」状態だった彼のシステム(表情)が、「正常(笑顔)」に復旧リカバリしていく。


…私の「論理的な正解(タスク軽減の提案)」よりも、 陽太の「非論理的な共感(直感)」が、 彼の「バグ」を、一瞬で解消デバッグしてしまった。


(内面の混乱):(…これだ。これこそが、夏目 陽太の『非論理』。彼は、データ(論理)ではなく、ノイズ(感情)を読み取る。そして、その『非論理』が、なぜか周囲の人間システム安定化ケアさせる。私の完璧なロジックとは、全く異なるアプローチ…!)


これだ。これこそが、私の『Project: L.O.V.E.』に、必要なサンプル。


私が分析タスクに没頭していた、その時。


(五感:匂い) ふわり、と。 私の嗅覚センサーが、未知のデータを検知した。 コーヒーのような刺激ノイズではない。 サーバーのオゾン匂でもない。 …これは、なんだ? 微かに甘く、温かい…。洗濯した衣類(柔軟剤)と、彼の皮膚パーソナルが混じり合った、処理不能な「匂い」。


(内面の混乱):(アラート! 接近! パーソナルスペース(半径50cm)への、無許可の侵入を検知! ノイズ源は…!)


(外面の無表情):私は、顔を上げられない。 私の視界の右端に、あの「非対称なパーカー(陽太)」が映り込んでいる。 彼が、私のデスクの真横に立っていた。


陽太:「ねえ、姫宮さん」 声が、近い。 鼓膜センサーが、彼の声の振動を、直接拾ってしまう。


(五感:肌触り(の予測)) 彼の体温(熱源)が、私の右腕の皮膚センサーに、じりじりと伝わってくるようだ。 私のシステム(体温)は、完璧に36.5度で制御されている。 だが、この外部からの「ノイズ」が、私のシステムの恒常性ホメオスタシスを脅かそうとしている。


(内面の混乱):(処理しろ。この「匂い」のデータを分析しろ。この「熱」のデータを分類しろ。これは「感情」ではない。「データ」だ。単なる「熱力学的な現象」だ。だが…なぜ、なぜ私の右腕センサーの処理(分析)が、こんなに遅延フリーズしている…!?)


陽太:「これ、さっきのお菓子。姫宮さんも、いる?」


(外面の無表情): 私は、ゆっくりと、機械マシナリーのように首を動かし、彼を見る。 彼の猫っ毛。人懐っこい笑顔。 そして、私に差し出された、あの「非論理の塊(スナック菓子)」。


私は、0.5秒の思考フリーズの後、口を開いた。


「…不要だ」 「そっか。残念」


彼はあっさりと手を引っ込め、自分の「汚染区域デスク」へと戻っていった。


(五感:肌触り・匂い) 彼が離れた瞬間、私の右腕を刺激していた「データ」と、鼻腔をくすぐっていた「匂い(データ)」が、フッと消え失せる。


…ドクン。


(内面の混乱):(!? システムアラート! 心拍数の異常上昇を検知! 原因:不明! バグだ! 私のシステムに、予期せぬ「バグ」が発生した!) (外面の無表情):私は、誰にも気づかれぬよう、白衣の下で、強く、強く拳を握りしめた。


夏目 陽太。 彼は、私の「論理」を、ただそこに「存在する」だけで脅かしてくる。 私の完璧なシステム(思考)を、いとも簡単に「バグ」らせる。


(内面:決意) (…間違いない) (彼こそが、私の『Project: L.O.V.E.』を完遂するための) (最悪さいあくにして、最適さいてきな、研究サンプル(ターゲット)だ)


私は、震えるエラーを隠しながら、キーボードを叩いた。 『Project: L.O.V.E.』フェーズ1(生態分析)完了。 フェーズ2(実験的アプローチ)へ、移行する。


(…第二章・了)

ヤバイヤバイヤバイ。 俺、夏目陽太は、全力で廊下を疾走していた。 目覚ましのアラームを、俺の「あと5分」が打ち破った結果がこれだ。


「はぁ…っ、はぁ…!」 バタンッ!! 研究室のドアを、壊れるんじゃないかって勢いで開ける。


「せ、セーフ! ギリギリ、セーフ!」


息を切らしながら室内を見渡す。 …よし、教授ラスボスの姿、なし。セーフだ。


…いや、セーフじゃなかった。 視界の隅に、研究室で一番ヤバい「オブジェクト」が、すでに鎮座していた。


(うわ、いたよ…)


姫宮ひめみや 鏡子きょうこ。 この研究室が誇る、完璧パーフェクトな「機械マシナリー」。


今日も午前9時ジャスト。完璧な姿勢。シワひとつない真っ白な白衣(結界)。 俺の「寝癖」と「裏返しのTシャツ」とは、住んでる世界(次元)が違う。


(こっち見た…? いや、見てないか?)


目が合った気がしたけど、彼女の視線は、俺の頭のてっぺんから足元までを、体感0.2秒で「スキャン」したように見えた。 そして、フイッ、と音も立てずにPCに向き直る。


(怖っ! 今、絶対『非論理的』『非効率』『カオス』って分析してタグ付けされただろ…)


「おはよー、姫宮さん。今日も早いねー」 …シーン。 ま、返事がないのは知ってた。彼女の「正常」運転だ。


俺は自分の「汚染区域」――姫宮さんの「無菌室」とは正反対の、カオスの島――にたどり着き、PCの電源を入れる。 息を整えるために、コンビニで買ってきた炭酸飲料を一気に煽った。


(ぷはー。あー、朝イチの炭酸、最高)


(…ん? なんか…スキャンされてる時より、背中が痛い気がする…? 気のせいか)


俺がそんな非論理的な(でも、よく当たる)センサーを働かせていると、ガララ、と静かな音を立てて、教授が入ってきた。


「おや、非定常イベント発生だな。夏目くんが時間通りとは…」 「ひどいなー、教授。俺だってやるときは…やらないか(笑)」


教授の後ろには、見慣れた後輩、山田くんがいた。 (あ) 一目見て分かった。 (山田くん、これ、完全に「詰んでる」顔だ)


山田くんは俯いたまま「…夏目さん、あの…」と、蚊の鳴くような声を出している。 教授の「レポートが」とか「相談が」とかいう論理的な説明は、正直どうでもよかった。


(こいつ、なんか「焦ってる」な) 俺がこの前レポート遅れた時(自爆)の「ヤベー」っていう焦りとは、種類が違う。 もっと、こう…「自分だけが置いてかれる」みたいな、真面目なヤツ特有の「焦り」だ。


(あー、もしかして…あれか) 俺は、山田くんの目線じゃなく、彼のまとう「空気オーラ」に集中する。 「…もしかしてさ、」 俺は、わざと椅子を引いて、安心させるように問いかける。 「昨日、俺らが話してた『来週の学会発表』の話、聞いてた?」 山田くんが、ビクッと肩を揺らして、目を見開いた。 (ビンゴ。分かりやす)


「あー、やっぱ。ごめんごめん」 教授がなんか難しい顔をしてるけど、今は無視だ。 「あれは教授が勝手に盛り上がってただけでさ。山田くんは、まず今の課題タスクを終わらせるのが最優先だって。な、教授?」


教授が「やれやれ」って顔で乗ってくれた。サンキュー教授。 山田くんの顔色が、みるみる「エラー」から「白(正常)」に戻っていく。 よしよし。


「大丈夫だって。俺なんか、去年の今頃、まだ何もできてなかったし。あ、このお菓子食う?」


山田くんが、ホッとした顔で、俺のスナックを受け取った。 うん。これでOKだ。


(…ん?) (…まただ)


さっきの炭酸飲料の時より、強い。 チリチリするような、強烈な「視線」を感じる。


俺が、その「視線」を辿たどると… 案の定、姫宮 鏡子マシナリーが、こっち(俺と山田くん)を、ガン見していた。


(うわ、怖っ!!)


なんだあの目。 「無表情」なのに、その奥が、俺の「直感」を「分析」してるのが、ビンビン伝わってくる。 『なぜデータもないのに、山田くんの焦りを看破した?』 って、彼女の顔に、書いてある。


(あー、なるほど。俺の『非論理』が、彼女の『論理システム』の、エラー対象になったのか) (面白いな、この人)


俺は、なんとなく非論理的に、手に持っていたお菓子の袋を、彼女にも見せてみようと思った。 あの「完璧な無菌室」に、「お菓子」をインプットしたら、どうなる(バグる)んだろう。


俺は、彼女の「完璧な結界パーソナルスペース」に、あえて踏み込む。 (うわ、近寄ると、マジで美人だな…) (でも、空気冷たっ。彼女の周りだけ、体温が2度くらい低い。完璧な『機械マシナリー』だ)


「ねえ、姫宮さん」 彼女が、ゆっくり(本当に機械みたいに)こっちを見る。 「これ、さっきのお菓子。姫宮さんも、いる?」


彼女が、固まった(フリーズした)。 体感0.5秒。 彼女の完璧なシステム(思考)が、俺の「非論理的な提案」を、どう処理するか、全力で計算してるのが見えた。


「…不要だ」


(だよなー。知ってた) 俺が「そっか。残念」と、彼女の「結界パーソナルスペース」から離脱しようとした、その瞬間だった。


視界の端で。 俺には、ハッキリと見えた。


彼女(姫宮鏡子)が、 俺が背を向けた、その一瞬。 あの「完璧な白衣(結界)」の下で、 強く、強く、拳を握りしめたのを。


(……え?)


俺は、自分の「汚染区域」に戻りながら、思考がフリーズするのを感じていた。


(…なんで?) (…なんで、今、バグ?) (俺、なんかしたか?) (あの『完璧』で『感情ゼロ』の姫宮さんが、俺が「お菓子」を差し出したごときで、あんなに『動揺』した…?)


(…なにそれ) (…この人、もしかして…)


俺は、自分の「カオス・デスク」に向き直り、誰にも気づかれないよう、口の端で非論理的に笑った。


(めっちゃ、面白い研究対象じゃん)

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