第11章:機械的(マシナリー)アプローチ、最後の実験
昨夜、私が「熱暴走」を起こしたのと同じ場所。
午後4時。研究室には、私と彼(陽太)以外、誰もいない。蛍光灯の冷たい光(五感:視覚)が、私の完璧に整頓されたデスク(論理)と、彼の混沌としたデスク(非論理)を、平等に照らし出している。
私は、完璧なメンテナンス(8時間の睡眠、計算された栄養摂取)を完了し、完璧な白衣(戦闘服)を纏い、彼を待ち構えていた。
(内面の混乱): (…システム(思考)、正常。昨日特定した『バグ(恋)』は、私の論理の制御下にある) (あれは「恋」などという非論理的なものではない。あれは「タスク未完了」によって発生した、単なる「システムエラー」だ) (そして、私は今から、その「バグ」を「デバッグ(解消)」する) (これは「告白」ではない。「バグ修正パッチ」の、論理的な「適用」だ)
(外面の無表情): 私は、完璧なポーカーフェイスで、彼が研究室のドアを開ける音を待つ。
ガララ、と。 予測通りの時刻に、ドアが開く。 夏目 陽太が、昨日逃げ帰った私(エラー源)を警戒するように、恐る恐る顔を覗かせた。
陽太:「…あ、姫宮さん。…いた」 彼が、私の様子を窺うように、距離を保ったまま、自席(汚染区域)へ向かおうとする。
陽太:「えーと…昨日の、熱は…もう平気なの?」 (五感:聴覚) 彼の声は、いつもの「非論理的な弛緩」を含んでおらず、「未知」に対する「警戒」を含んでいる。
(外面の無表情): 私は、椅子から静かに立ち上がる。 彼の「警戒」など、今の私(論理)には関係ない。 カツ、と。私のヒールが一度だけ、床を鳴らした。
「夏目 陽太。」 陽太がビクッと肩を揺らし答える「…え? なに、その呼び方…」
(内面の混乱): (…来た。彼を直視した瞬間、まただ。私のシステム(心拍数)が、不規則なノイズ(バグ)を発生させ始めた) (…うるさい。うるさいぞ、私の『バグ(心臓)』) (…だが、それも、この「提案」が受諾されるまでだ。この「論理的」な提案が終われば、私は正常(完璧)に、戻る)
(外面の無表情): 私は、彼(バグ源)に向かって、まっすぐに歩み寄る。 そして、彼が逃げられない(タスクを拒否できない)距離(1.5m)で停止した。
「ただ今より、一連の『実験』に関する最終報告と、次フェーズへの移行提案を行う」 陽太:「…は? さいしゅうほうこく?」
(五感:視覚) 彼(非論理)が、私(論理)の「機械的」な単語によって、完全に「混乱」しているのを、視覚で確認する。 計画通りだ。
(外面の無表情): 私は、研究室(プレゼン会場)で、報告を開始した。 「好き」などという、非論理的で、曖昧で、バグだらけの単語は、使わない。
「報告。」 私は、淡々と(機械的に)告げる。 「昨夜実行した『実験4:物理的接触』において、管理者(私)のシステムに、予測不能な『熱暴走』を検知した」 陽太が心配そうに答える「…う、うん。あれはマジでヤバかったよ」
「分析。」 「原因をデバッグ(分析)した結果、このエラー(バグ)は『非論理的な感情ノイズ』…通称『バグ(恋)』であると、昨夜、特定した」
(五感:視覚) 陽太の目が、最大まで見開かれる。 彼の口が、半開き(フリーズ)になる。 「…………は?」
(内面の混乱):(…よし。彼のシステム(思考)が、私の「論理的(異常な)」報告によって、完全に停止した。これで、彼(非論理)の『直感(看破)』は、機能しない)
(外面の無表情): 私は、構わず(論理的に)、報告を続行する。
「現状分析。」 「この『バグ(恋)』は、私の完璧な人生設計において、許容できないノイズ(エラー)であり、早急なデバッグ(解消)を必要とする」 陽太:「…(フリーズ)…え? かい、しょう?」
「仮説。」 「この『バグ』の発生原因は、プライマリ・タスク(=あなたを攻略対象として設定)が、『未完了』であることに起因すると推論する」
(外面の無表情): 私は、一歩、彼に踏み込む。 距離、1.0m。 私のシステム(心臓)が、うるさく(非論理的に)警告を発している。 だが、私の「論理(理性)」が、それを押さえつける。
(内面の混乱):(…静まれ。これは「バグ」だ。そして、今から、私は、この「バグ」を「消す」!)
「結論(提案)。」 私は、私の「論理」が導き出した、唯一にして「完璧なデバッグ(解決策)」を、彼(バグ源)に叩きつける。
「この『バグ』を解消する唯一の論理的手段は、タスクを『完了』ステータスに移行すること」
私は、彼の「フリーズ(混乱)」した瞳を、私の「完璧な無表情(論理)」で、まっすぐに見据えた。
「夏目 陽太。」
「私はあなたを、『攻略タスク完了(=交際)』対象として、設定する」 「この『バグ修正提案』を、今ここで、受諾(承諾)せよ」
(外面の無表情): …静寂。 私は、ただ、「YES/NO」の「回答」を待つ、完璧な「機械」として、彼の前に立ち尽くす。 私の「論理」が、正常(完璧)に戻るための、「回答」を。
(五感:視覚) 陽太は、 「心配」から「困惑」へ、 「困惑」から「唖然」へ、 そして、「唖然」から… (…『バグ(恋)』を『解消』するために、『付き合え(タスク完了)』…?) という、私の「非論理的な論理(破綻)」を、ようやく理解したようで、
…完全に、思考停止していた。
(…第十一章・了)
(…来た)
午後4時。 俺、夏目陽太は、研究室のドアが(いつもより0.5秒ほど遅れて)開く音を、全神経で検知した。
姫宮 鏡子。 昨日(プランD)、俺に「物理接触」を仕掛け、 盛大に「自爆」し、 俺の「電源どこだ!?」で「再起動」し、 「熱暴走(真っ赤)」のまま、逃げ帰った張本人。
(…大丈夫か、あの人)
昨夜の彼女の「フリーズ(熱暴走)」は、 今までの「実験」とは、明らかに「深刻さ」が違った。 (あれは、本気の「エラー」だった) (俺が「想像」してたより、あの人の「論理」、脆い(ヤバい)ぞ)
俺は、彼女が、 (…もしかして、泣き腫らして、今日は「欠席」か?) と、ちょっとだけ心配していた。
(…いや、来たな) 彼女は、入室してきた。 昨日と、何も変わらない。 完璧な(はずの)「無表情」。 完璧な(はずの)「白衣(結界)」。 完璧な(はずの)「論理」。
(…いや) (…違う)
俺の「直感」が、警告を鳴らす。 (…昨日と、違う) (…いつもの「完璧な無」じゃない) (…あの「無表情」の下システムで、とんでもない「熱量」が、今も「暴走」してるのが、分かる) (…あの人、昨日の「熱暴走」を、「理性」で、無理やり押さえつけてる…!)
(うわ、ヤバい。今の彼女、いつ「爆発」してもおかしくない「時限爆弾」だ)
俺は、あえてレポートに向き直り、気配を消す。 (頼むから、俺に、触る(アタックする)なよ…!)
カツ、と。 彼女(時限爆弾)のヒールが、起動した。
(うわ、来た! まっすぐこっちに来た!)
「夏目 陽太。」
(ヒィッ! なんだよ、その「機械」みたいな「呼び方」!) 俺は、ビクッと肩を揺らし、彼女を見上げた。 「(ビビりながら)…え? なに、その呼び方…」
彼女は、俺の「警戒」など、一切「無視」して、 俺の1.5m手前(絶対安全圏外)で、停止した。
俺の『直感』が検知した「熱量」は、昨夜(フリーズ時)の120%)
(ヤバいヤバいヤバい) (この人、「爆発」する気だ!)
「ただ今より、一連の『実験』に関する最終報告と、次フェーズへの移行提案を行う」
(…は?) (…『さいしゅうほうこく』?) (…え、なに? 昨日の「熱暴走」の『分析レポート』でも、始めんの…?)
俺の「恐怖」が、一瞬、「興味:面白い」に上書きされる。
彼女は、俺の「混乱」を「計画通り」と判断(誤認)したのか、 (ああ、そうだ。この人、「告白」なんて、できるワケないもんな) (「実験」の「報告」か。うん、それがあんた(マシナリー)らしいよ) と、俺が「納得」しかけた、その時。
彼女の「完璧な(はずの)論理」が、俺の「予測」を、遥かに超える「エラー」を、吐き出した。
「分析。」 「原因をデバッグ(分析)した結果、このエラー(バグ)は『非論理的な感情ノイズ』…通称『バグ(恋)』であると、昨夜、特定した」
(……………) (……………) (……………は?)
俺は、 (…え? いま、なんつった?) (…『バグ(恋)』?) (…『とくてい(ロジケート)』?) と、自分の耳を疑った。
(え、ウソだろ!?) (この人、昨日の「熱暴走」を、) (「恋(という名の非論理的なバグ)」だと、) (「論理的(システム的)」に「分析」して「特定(認識)」しやがったのかよ!?)
俺の「混乱」は、頂点に達した。 だが、彼女の「熱暴走」は、止まらない(ノンストップ)。
「現状分析。」 「この『バグ(恋)』は、私の完璧な人生設計において、許容できないノイズ(エラー)であり、早急なデバッグ(解消)を必要とする」 「(俺:フリーズ)…え? かい、しょう?」
(「解消」!?) (「恋」を「消す(デバッグ)」!?)
「仮説。」 「この『バグ』の発生原因は、プライマリ・タスク(=あなたを攻略対象として設定)が、『未完了』であることに起因すると推論する」
(…………) (…ああ) (…ダメだ) (…俺、もう、あんた(マシナリー)の「論理システム」が、理解の許容量を超えた)
そして、彼女は、 (…あ、一歩、踏み込んだ) と、俺の目の前(1.0m)まで接近し、
「結論(提案)。」 と、 俺(夏目陽太)の「観測史上」、 最高に「非論理的」で、 最高に「論理的」な 「告白(という名のデバッグ提案)」を、 完璧な「無表情」で、 叩きつけ(インプットし)てきた。
「この『バグ』を解消する唯一の論理的手段は、タスクを『完了』ステータスに移行すること」
「夏目 陽太。」 「私はあなたを、『攻略タスク完了(=交際)』対象として、設定する」 「この『バグ修正提案』を、今ここで、受諾(承諾)せよ」
(……………) (……………) (……………) (…はは) (…あっははははははははは!!)
俺は、もう、笑いを堪えるのを、やめた。 (ダメだ、無理だ) (こんなの、笑うなっつう方が、無理だろ!)
(「バグ(恋)」を「消す(デバッグ)」ために、) (「付き合え(タスク完了しろ)」!?) (姫宮さん(マシナリー)!) (あんた(論理)の「システム(思考)」、完璧に「破綻」してんぞ!)
俺は、 (あー、面白い) (面白すぎるだろ、姫宮鏡子!) と、 (こんな「告白」、) (俺が、) (「受諾(YES)」しないワケ、ないだろ!) と、心の中で、彼女の「最高のバグ」を、抱きしめる(受諾する)ことを、決めた。




