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あなたへ
本を棚に戻そうとした手が止まった。
もう一度、生成り色の表紙を撫でる。
――また明日、ここで。
私は受付に図書カードも出さずに、その一文がどうしても気になって罪を隠すように落ちた栞を挟み直し本をカバンへ沈ませた。返さなきゃとは思ったけれど、どうしても離したくなかった。まるで、明日の自分をこの中に置いてきたような気がしたから。
家に戻って部屋に行きその本を机に置いた。ご飯を食べているときもその本のことばかり考えていた。母が私に喋りかけてきた。
「何かあった?」
今日のご飯は私の母の作った大好きな肉じゃが。いつもはおかりをするほど食べるのに箸が進んでいない私を見てよっぽど心配したのだろう。
「ん?なにもないよ!」
慌てて肉じゃがをかけこむとのどに詰まらしてしまった。そんな私をみて母が安堵した。
ご飯を食べ終えいつもより早く部屋に戻った。
図書館の本を盗んだような罪悪感、栞の言葉の意味。まるで薄いガラスの上をひとりで歩いているようだ。
ベットの上から机の上の本を眺める。私は重い腰を上げベットから降りて本を手に取った。
机の上のスタンドライトの下でページをめくった。昼間にはなかった一行が増えていた。




