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異世界のフィクサー ―城を追われた転生皇子は裏社会で王になる―  作者: 紫音紫


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67話 動機の根

「覚えてないかい?

 あの児童養護施設――名前は『クラウゼ養護施設』だ。所長はオットー・クラウゼ」


「!」


 ゼノフォードの言葉に、アルノーが目を見開いた。

 何のことを言っているのかは、明白だった。

 ついこの前、ゼノフォードがその化けの皮を剥いだばかりの、子供の臓器を売買していたとして問題になった児童養護施設のことである。

 オットー・クラウゼは、その悪名高い施設の所長だった。


「あのあと――所長は逮捕されてたっすよね? 臓器売買の件で責任を問われて。

 もしかして、エルンストさんのお父さんとか、親戚の方だったとか――?」


 ゼノフォードは頷いた。


「その可能性は充分にあるだろうね。

 理由をこじつけてまで、ピエトラの幹部連中を逮捕した動機が見えてきた気がするよ」


 ゼノフォードは思考を整理するように眉を寄せた。


「逮捕されたオットー・クラウゼは、彼の父親が、親戚か――とにかく身内の可能性がある。そこまでは君も理解している通りさ。

 それから表向きには、養護施設の一件にピエトラは関係していないことになっているけど、警察内部の人間なら把握していてもおかしくはない。取り調べで、施設職員の誰かが『ピエトラが殴り込んできたんだ!』って供述していたとかね」


「それで、『オットー・クラウゼさんが逮捕されたのはピエトラのせいだ!』って逆恨みした……ってことっすか?」


「半分は正解さ。

 彼はオットー・クラウゼの逮捕に納得がいっていなくて、その原因をつくったピエトラを恨んだんだ。

 ただ、そうだとすれば気になることがある」


「気になること?」


 意味ありげに言葉を止めたゼノフォードに、アルノーは疑問の言葉を口にした。

 ゼノフォードはまた頷くと、言葉を続ける。


「逮捕に至った理由がなんであれ、オットー・クラウゼ自身罪を犯していている上に、その自覚があった。罰を受けるべきだ、ってことさ。

 彼の逮捕は妥当だったんだよ」


 オットー・クラウゼは、児童養護施設の実態が、ホルツの言葉を借りると『臓器の養殖場』であることを知らされていなかった。

 代わりに、あの施設が『新薬の実験をするための施設』であると伝えられていたからだ。


 だが、だからといって臓器売買が行われていたという事実を知らなかったわけではない。

 『治験の際の副反応により亡くなってしまった子供たちの臓器を、研究目的で』という誤解はあれど、臓器を売買していること自体は認識していたのだ。


 それにそもそも、『子供が亡くなる可能性が高い』ということを理解していながら、それでも子供を集めていたのは、紛れもない事実である。


 オットー・クラウゼには明確に罪があり、罰を受けて然るべきなのだ。


「仮にも騎士警察であるエルンスト君が、それを理解できないほど未熟なはずがない。

 だからいくら感情的になったとして、逆恨みなんて筋違いなことをするだろうかって思うと、疑問が残るわけだ。

 言っただろう、逆恨みっていうのは、自分の火の不始末で起きた火事を、通報した隣人のせいにするような、筋違いなものだって」


 逆恨みとは、因果関係を誤認し、責任の所在をすり替える行為なのだ。


「彼は堅物なんだろう? 少なからずピエトラに『恨み』はあるだろうけど、それでも親の罪を棚に上げて、実態を暴いたピエトラを責め立てたりする、なんて感情的なことをするかな」


 エルンストは騎士警察という立場にあり、法と秩序を守る訓練を受けた人物である。

 その彼が浅はかな感情で行動するか、と問われれば、そこには大きな疑問符が付くのだ。


「だからひょっとしたら――いや、これはこじつけかもしれないんだけどね。

 『オットー・クラウゼは無実で、ピエトラのせいで罪人に仕立て上げられた』って思い込んでいるのかもしれない」


「そんな……」


「エルンスト君の発言を思い出してみたまえよ。

 『無実の人間を陥れた罰を下す』。この『無実の人間』って表現だけどさ。最初は『何の罪もない一般人たち』って意味かと思った。ピエトラが一般市民に被害を与えた、っていうニュアンスだってね。


 だけどもしかしたら、この『無実の人間』っていうのは、オットー・クラウゼただ一人を指していたのかもしれない。

 『ピエトラが、無実のオットー・クラウゼを陥れて罪を着せた』――って」


 そして、と言葉を紡いだ。


「こう考えたのかもしれない。『無実の人間に罪を着せるようなピエトラは悪だ、だから排除しなくては』ってね」


 彼の行動の全ては、『無実の人間を陥れた悪を排除するための信念』に基づいている――というわけだ。


 ゼノフォードはさらに「それに」と言い含んだ。


「もう一つ、加味するべきことがある。

 オットー・クラウゼ自身は罪を認めていて、罰を受けることを望んでいたってことさ。

 ――良心の呵責に堪え兼ねてね」


 オットー・クラウゼは、書斎の隠し部屋から地下の実験室に行ったとき、ゼノフォードに書類を渡してきた。


『――投薬記録?

 ――君自身のためかい?』


 その真意は明らかだった。

 これを証拠品として、この施設の真実を世間に公表しろ――ということだ。


 その出来事を思い出して、ゼノフォードは目を細めた。


「彼が逮捕されている現状は、オットー・クラウゼ自身の意志でもあるわけだ」


 オットー・クラウゼは、自らの行為に対して責任を取ろうとしていた。それは『ピエトラによって無理やり罪を着せられた』という構図とは、矛盾している。


「エルンスト君がオットー・クラウゼの意思を把握しているなら、『ピエトラは悪だから罰しよう』なんて考えにはならないはずだ」


 アルノーは少し考え込むように眉を寄せ、それから口を開いた。


「エルンストさん、オットー・クラウゼさんを取り調べしたりしてないんすかね……?

 そうしたら、本心も聞けると思うっすけど」


 ゼノフォードは首を振った。


「制度的に、身内は身内に尋問できないんじゃないかい。『身内だから甘くしたんじゃないか』って疑われたりしたら、捜査の公平性を保てなくなるからね。

 それに、そういうのを許可すると、便宜をはかったり、情報漏洩をしたりする輩が出かねないのさ。不正防止のためにも、仕方ないんだよ」


 少なくとも現実世界における現代日本ではそうだった、とゼノフォードは心の中で付け加えた。

 この世界と現代を比較したところでナンセンスではあるが、エルンストがオットー・クラウゼと意思疎通できていないという仮定が正しければ、その理由としては妥当だろう。


「そんなぁ……」


 アルノーは肩を落とし、短く嘆息する。

 ゼノフォードは「だけど」と言葉を継いだ。


「君の意見はもっともだ。

 別に尋問なんてしなくても、面会させればいい」


 制度の抜け穴を通るようなものではあるが、別に法律違反ではないだろうし、問題ないだろう。


「当初の、汚職警官が通報した『暗殺計画にマフィアが関わっている』って内容を覆す、って目標は、達成できないだろう。


 だから、方針を変える。

 エルンスト君がピエトラ幹部を逮捕した動機――『ピエトラは、無実のオットー・クラウゼを罪人にするような悪だ』っていう誤解の方を潰してしまえばいい。


 オットー・クラウゼは無実だ、っていうエルンスト君の思い込みを、覆すんだ。

 オットー・クラウゼの逮捕が道理に適っているって判断すれば、ピエトラ幹部らの逮捕は不適切だったと考えを改めるかもしれない」

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