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異世界のフィクサー ―城を追われた転生皇子は裏社会で王になる―  作者: 紫音紫


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66話 正義の騎士警察

「エルンストさん……!」


「知り合いかい?」


 目を見開いて男を見詰めるアルノーに、ゼノフォードが小声で問い掛けた。

 服装から、この場に現れた青年がただの警官ではないことは、一目瞭然だった。

 アルノーはこくりと頷いた。


「はいっす。

 自分の同期で、今は騎士警察として警察局に勤務してるっす」


「『騎士警察』……」


 後ろに流した真っ直ぐな銀色の髪、生真面目そうな青い瞳。その様相が、彼の性格をそのまま表しているようだった。

 その立ち姿には隙がなく、まるで剣を構えているような緊張感があった。銀髪の整い方ひとつ取っても、彼の几帳面さと内面の硬さが滲んでいる。


 青年――エルンストは、自身をじっと見てくるアルノーに視線を向けた。


「アルノー・リーベンタール。

 休暇と言っていたが、こんなところで会うとはな」


「エルンストさんこそ、どうしてここに」


「愚問だ。

 私は騎士警察。ここ警察局が、私の職場だ」


 ゼノフォードは帽子の影の中で目を上げ、エルンストに向き直って口を切った。


「盗み聞きとは感心しないけど、そうも言っていられないか。

 どうして暗殺の実行犯としてピエトラの名前が挙がったのか。どうしてピエトラの上層部が一斉に検挙されたのか――その理由を知っているのかい」


 容疑の時点では『マフィア』という総称に過ぎなかったのに、それが『ピエトラ』であるとして、ピエトラの幹部たちが一斉に逮捕された理由だ。

 エルンストはゼノフォード――帽子で顔を隠しているために、その正体が逃亡して死去したことになっている『第二皇子ゼノフォード』であることには気付いていないらしい――に向き直った。


「私が騎士警察の権限で逮捕状を出したからだ。

 マフィア『ピエトラ』が――暗殺計画の実行犯であると」


「え!?」


 アルノーは驚きの声を上げた。

 ゼノフォードは眉を顰める。


「……確証はあるのかい?

 ピエトラが、あの暗殺計画に加担したっていう確証が」


「そんなものは不要だ」


 何を馬鹿なことを言っているんだ、とでも言わんばかりに、エルンストは不機嫌そうに氷のような目を細めた。


「たまたま連中を逮捕するのに使えそうな理由が、その『第一皇子暗殺計画の実行犯』だったというだけだ。

 そもそも、罪状はなんだっていい。


 ――『ピエトラ』を、壊滅させられるのならな」


「でっち上げってことっすか!?」


 アルノーは思わず一歩後退った。

 驚きの声を上げたアルノーに、エルンストは向き直る。


「いいか、石頭のアルノー・リーベンタール。

 貴様に教えてやろう、世の中のマフィアが法の網に引っ掛からず、のさばっている理由を。


 それは――罪を立証できないからだ。


 殺人、ヤク、密輸、賭博経営――。

 奴らは無法者で、山のように罪を犯しているというのに、足を掴ませない。罪を立証できなければ、罪は存在しないことになる。

 それでは奴らは、永遠に大手を振って太陽の下を歩けてしまう。

 だから、多少の虚偽を含んででも足を掴めるのであれば、それでいい。


 ――法と正義は、必ずしも一致しないのだ」


 目的は、悪を裁くこと。

 その過程で多少の事実が歪められようとも、最終的に悪が滅びるならば、それは正義と呼べるということなのだ――少なくとも、エルンストの中では。


「マフィアの連中を完膚なきまでに叩きのめし、無実の人間を陥れた罰を下す。

 これが、私にとっての『正義』だ」


「エルンスト君――っていったね」


 演説をするエルンストに、ゼノフォードは静かに目を向けた。


「君、マフィアに恨みでもあるのかい」


 彼の発言を聞く限り、表向きは『正義のため』という理由で、ピエトラの逮捕に踏み切ったようにも思える。

 だが――無感情にも思えるほどに淡々と放たれるエルンストの言葉の節々に、憎しみにも似た表現が混ざっているのを、ゼノフォードは聞き逃さなかった。


「……」


 エルンストは答えず、沈黙した。

 その様子に、ゼノフォードはさらに目を細めた。


「否定しないっていうことは、肯定と捉えてよさそうだね。

 どうしてだい?」


「……他人に教える義理はない」


 エルンストはそれだけ短く告げると、踵を返して警察局の玄関へと歩み去った。


 沈黙が残る中、ゼノフォードは視線をアルノーに向けた。


「――アルノー君。彼、君の同期なんだろう?

 君が知っている範囲内でいい、エルンスト君について教えてくれるかい」


「はいっす」


 アルノーは少し考えるように首を傾け、それから口を開いた。


「彼は、さっきも言ったとおり騎士警察っす。

 それから、戦闘能力は確かっす。……殿下がご存じかはわからないっすけど、実は自分たちは、腕を認められて騎士になった、選りすぐりのエリートなんすよ!」


 アルノーが、褒めてもらいたくて尻尾を振っている犬のように見えて、ゼノフォードは少しおかしくなって唇の端に笑みを乗せた。


「君、第一皇女の専属騎士なんてやってるくらいだもんね」


「だから、その」


 アルノーは真顔になると、話を戻した。


「こう言っては何っすけど……エルンストさんは、力では殿下に敵う相手じゃないっていうか」


「おいおい。僕が彼と肉弾戦なんてするはずないだろう?」


 ゼノフォードは肩を竦めた。


「訓練を積んだ筋肉隆々の騎士なんぞに、勝てるわけがないからね。華奢で美しい、繊細な芸術作品のようなこの僕が」


「……自信満々に言われても困るっすねぇ」


 アルノーは咳払いをしてから続ける。


「それから、性格は見ての通り、お堅い人、って感じっす。

 正直、規律を破るような人には見えなかったんすけど――。なんていうか、『正義のため!』とかなら、やりかねないかもしれないっすね。

 そうだ、あの人のフルネームは――。


 ――エルンスト・クラウゼっす」


 その名が口にされた瞬間、ゼノフォードの目がわずかに動いた。

 思考が、過去の記憶を辿るように静かに巡り始める。


「……クラウゼ?」


「どうかしたんすか?」


 ゼノフォードは少し間を置いてから、首を振って静かに言った。


「覚えてないかい?

 あの児童養護施設――名前は『クラウゼ養護施設』だ。所長はオットー・クラウゼ」

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