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異世界のフィクサー ―城を追われた転生皇子は裏社会で王になる―  作者: 紫音紫


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61話 新しい朝

 荷馬車に物を一通り詰め込み終えたカルメンは、ぐっ、と伸びをした。


 私物はほとんどない。せいぜい衣服、自分用のタオル、ちょっと水を飲むときに使っていたマグカップ――そんな日用品くらいだ。

 だがそれが数十人分ともなれば、詰め込むだけでもそれなりに重労働だった。


 子供たちが次々に馬車に乗り込む。

 それを見ながら、カルメンは目元を緩めた。


「これで、皆が死ぬことはなくなったわね」


 彼らはこのまま、別の孤児院や児童養護施設に移されるのだと、昨夜来た大人――『ピエトラ』というマフィアの連中らしい――が言っていた。


「アタシもここから出るのね。実感湧かないわ」


 もしかしたら、自分はいずれ施設から脱走できたかもしれない。

 だけどきっと、施設全体を変えることなんて――この悪夢を終わらせることなんて、できなかった。


 それに引き換え、あの『ゼノ』とかいうヤツは、自ら施設にやってきたかと思えば、一晩で全てをひっくり返していったのだ。


「――もしアイツが来なければ、この施設は何も変わっていなかった」


 潜入、と言っていたので、もはや『ゼノ』というのが本名なのかどうかはわからない。

 それに騎士らしき人に『殿下』と呼ばれたり、彼を追ってマフィアが雪崩れ込んできたりするあたり、只者ではない。


「何者なのかしら。――詮索するつもりはないけど」


 まあ見た目だけは悪くないが、性格は生意気で偉そうで、頭は悪くなさそうなのに、そのくせ無鉄砲で慎重さに欠けるし、何よりいけ好かない。


 ――だというのに。


 彼の大胆さは、物事を変える力があった。

 それはどうしても、認めざるを得なかった。


「……変なヤツ」


 ギィという門の開閉音が聞こえてきて、カルメンは顔をそちらに向けた。

 見れば、その『変なヤツ』と、それからホルツを止めた騎士、そして記者らしき者たち数人が、施設の敷地に入ってくるのが見えた。


 記者らは取材が目的らしく、そのまま建物の方に向かっていった。

 それを見送った『ゼノ』は、やがてこちらの方へと歩いてきた。――騎士は少し離れた場所で見守っている。『ゼノ』の護衛なのだろうか、とカルメンは思った。


「見たまえよ、カルメン君」


 『ゼノ』はカルメンと目合うなり、歩きながら手帳を取り出して、差し出してきた。


「夕刊には、こんな記事が世に出回る予定なんだ。センセーションが巻き起こるだろうね」


 カルメンはその手帳を受け取り、目を落とした。


《国営施設で臓器売買! 模範施設の裏の顔》


 国営のクラウゼ児童養護施設で、職員が児童の臓器を売買していた疑いが浮上した。

 偶然訪れた帝国騎士が、殺されかけていた子供を救出したことで発覚した。


 臓器は新たな医療技術に流れていたとみられる。当施設は帝国政府直轄のため、帝国政府が関わっている可能性が高い。

 福祉模範として表彰された過去もあるクラウゼ児童養護施設なだけに、驚きを隠せない。

 帝国政府は本当に信用できるのだろうか。我々国民は何を信用すればいいのか――。


「何よ、品のないゴシップ記事じゃない」


 カルメンは一蹴して手帳を『ゼノ』に返した。が、『ゼノ』は「いいじゃないか」口を開いた。


「ゴシップ記事メインの大衆紙プロマイドくらいでしか書けないよ、こういうのは。


 理由は二つ。

 一つ目。お堅い高級紙クオリティ・ペーパーは政府寄りだからだ。

 国営施設の不祥事なんて、帝国に尻尾振ってる連中が取り上げてくれるわけないだろう?

 そもそも『臓器売買』なんて内容は、ちょっと刺激が強すぎる。お貴族様向けのお上品な高級紙は、そういうのを敬遠するのさ。


 二つ目。大衆紙は、こういうセンセーショナルな話題が大好きなんだ。

 施設の残酷さを、オブラートに包んだりせずに余すところなく丁寧に報じてくれるだろうし、そういう記事は読まれやすい。拡散もされる。


 どうだい? 理に適っているだろう?」


「……まあ、少しは考えたのね」


 カルメンは口籠もりつつもそう返すと、施設の方を見た。


「――この件が公になれば、きっと帝国政府は黙っていないわね。少なくとも、証拠隠滅に走って施設を取り壊すなり、何なりしようとするわ」


 施設の窓から時折、新聞社の記者と思われる者の頭がちらちらと見える。帝国政府の闇を暴こうと奔走しているのだろう。


「……その前に、現場を見てもらえてよかった」


 言いながら、カルメンはふと思い付いて眉を寄せた。


「っていうか、今ホルツたちって、施設の中に監禁されてるんじゃなかったっけ?」


 ホルツや職員らは、あのゴタゴタでピエトラに拘束されたあと、尋問まがいの質問攻めをされて、今は施設内の適当な部屋に放置されているらしい。


「記者と鉢合わせしたらどうすんの? 危険だわ!」


「大丈夫さ。拘束されてるんだから」


 『ゼノ』はあっけらかんと言った。


「記者たちにもその旨を伝えてあるから、危険はないさ。

 むしろ記者にとっては、幸運なんじゃないかい? 犯人に直接取材できるわけだからね」


 施設の方に目をやりながら、『ゼノ』は顎に手を当てた。


「――ホルツたちは、処罰を受けることになるだろうね」


「帝国政府が、帝国政府の人間を裁くわけでしょ?

 無罪放免になる、あるいは軽い刑罰で止まる、ってことになるんじゃないの?」


「きっと帝国政府は、関与を否定するだろうね。

 臓器移植のために国家ぐるみで子供を殺害していた、なんて国を揺るがす大スキャンダルだから。ホルツらが勝手にやったことだ――って処罰を下すだろう。蜥蜴の尻尾切りってわけさ。

 まあ規模が規模だけに、言い訳としては苦しいけど」


「クラウゼ所長はどうなるのかしら」


「やっぱり、処罰されるだろうね」


「――」


 カルメンが俯くと、『ゼノ』は首を振った。


「心を痛める必要なんてないさ。

 彼だって、良い人間じゃない。子供たちの臓器が売買されていること自体は知っていたし、その上で子供を集めていたんだから。

 それに何より、彼は良心の呵責に耐えかねていた」


 クラウゼ所長は、『ゼノ』の証拠品の持ち出しを黙認した。その上、さらに追加の証拠品を渡し、逃げるよう諭したのだ。


「彼は、この施設の実態が公になることを望んでいた。罪悪感から解放されて、楽になりたがっていたんだ。

 罰を受けることは、彼のためにもなる」


「――そうね」


 カルメンは地面を見つめたまま、そっと返事をした。

 そんな様子を見つつ、『ゼノ』は口を開いた。


「他に気になることはあるかい? カルメン君」


「……そうね。あるわ、気になること」


 と、カルメンは手を腰に当てて『ゼノ』の方に身を乗り出した。


「そのカルメン『君』っていうやつ!

 気になって仕方ないわ!!」


 『ゼノ』は一瞬きょとんとしたあと、「あー」と言葉を詰まらせた。


「お気に召さなかったか。

 じゃあ、カルメン嬢とでも呼ぼうかい?」


「なによそれ」


「まだお気に召さない?

 なら、レディ・カルメンとかの方がいい?」


「そう呼んでほしくて言ったわけじゃないわ!」


「じゃあマドモアゼル? セニョリータ?」


「どうしてそうなるのよ!」


 カルメンは咳払いをしたあと、俯いて地面を見つめてぼそりと言った。


「……『カルメン』でいいわ」


 反応がなかった。

 カルメンはそっと顔を上げると。

 ――何故か、『ゼノ』の困ったような顔がそこにあった。


「……ハラスメントにならないかい?」


「何の話?」


「紳士たるこの僕が、あろうことか野蛮にもレディを呼び捨てだなんて。

 知ってるかい? 呼び捨てっていうのは、心理的安全性の低下を招くとも言われているんだよ」


「……許すって言ってるでしょ」


「許す、って程度か……」


 なおも哀しげな表情を浮かべる『ゼノ』に、カルメンは怒ったように「もう、なんなのよ!」と切り出した。


「アタシがそう呼んで欲しい、って言ってるの!!」


 そう言ってからカルメンは、はたと目を見開いた。

 なんだか、恥ずかしいことを言ってしまった気がした。


 と、『ゼノ』がにいっと笑った。なんというか、純粋な笑みではなく、「しめた」といった感じだ。


「そうかそうか、君が望むなら仕方ないね。

 そう呼ばせてもらうよ、『カルメン』」


「……なによ――」


 不意に、またギィと門が開く音がした。

 直後、わらわらと男たちが入ってきた。マフィア『ピエトラ』の連中だろう。

 うち一人、黄色味がかった金髪の男が『ゼノ』の方に向かって歩いてきた。


「おうゼノよォ。そろそろ帰るぜェ。

 記事が世に出たら、警察とかが来んだろォ? 鉢合わせちまったら面倒だからよォ」


 と、男はちらりと、先程まで『ゼノ』と会話をしていたカルメンを見た。特に何か意味があるわけではない、視界に入ったという程度だったのだが――。

 ――その瞬間、目を見開いた。


「なッ……赤毛に、赤い目――?」


 カルメンは、怪訝そうに眉をひそめる。


「なによ」


 男はしばらく彼女を見つめたまま言葉を探し、やがて口を開いた。


「もしかして嬢ちゃん――

 名前は『カルメン』だったりしねェか?」


 カルメンは、警戒を込めた目で男を見返した。


「……なんでアンタがそれを?」


「マジかよ……」


 男は首を振ると、『ピエトラ』の男たちがいる方に向かって声を上げた。


「叔父貴! おい、ロレンツォの叔父貴!

 娘だ!


 ボス(ドン)の、行方不明になっていた娘だ!!」


□□□

(――『カルメン』が、ピエトラのボスの娘?)


 ダンテの言葉にいちばん驚いたのはきっと、ロレンツォはおろか、カルメン本人ですらなく。

 ――ゼノフォードだろう。


(『ピエトラ』っていう単語は聞き馴染みがなかったから、てっきり本編とは無関係の連中だと思っていたのに――)


 デザイナーの輝石は、メインストーリーに通暁していないために把握していないだけか。

 あるいは、そもそもこの件はメインストーリーで触れられない、裏設定とかなのかもしれない。


(原作のメインキャラだっていっても、僕が把握していないこともあるんだな。

 もし今後、この作品のメインキャラクターに会うことがあったとして――)


 もっとも原作のメインキャラクターと関わるのは、『ゼノフォード』本来の運命――『主人公たちに倒される』という運命に引き戻されかねないので、遠慮したいところだが。


(――僕の原作に関する知識は、参考程度にしかならないかもしれない)

お読みいただきありがとうございます。

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