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異世界のフィクサー ―城を追われた転生皇子は裏社会で王になる―  作者: 紫音紫


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37話 新居祝い

 トルカーナ、共同墓地。


 ダンテの姿は、一つの墓の前にあった。


「ここがおまえの新居かァ。

 ――まさか、俺だけじゃなくて、オメェもこっちに越して来ることになるたァ思わなかったぜ」


 ティノ、と刻まれた墓石。

 その下に、弟が眠っている。


 今朝、遺体を引き取るために警察署へ赴いた際には、『死体が生き返った!』と騒がれたりもした。

 だが、ティノとダンテが瓜二つだったこともあり、身元確認と引き取りはスムーズに済んだ。

 そして今、簡素な葬儀を終えたところである。


「オメェを殺ったスーツ野郎はよォ、俺が始末しといてやったぜ。

 ――俺ちゃん、偉いだろォ? 感謝しろよなァ。

 死体はよォ、ロレンツォの叔父貴の指示で、メタロの事務所に投げ込まれたって聞いた」


 ピエトラに所属するダンテの身内を殺害したこと。

 そして、ピエトラの幹部であるロレンツォを殺そうとしたこと。

 その二点への抗議と、『二度目はない』という警告の意を込めた――らしい。


「……心配すんな、抗争にゃあならねェからよ」


 共犯者――タツィオがピエトラの構成員だったこともあり、この件は『内部の不始末』ともとれる、という見方もあった。

 要は、全責任をメタロに押し付けるのは難しいという判断だ。


 結果として、メタロがピエトラに示談金を支払うことで手打ちにする見込みなのだそうだ。


 ちなみに、タツィオはピエトラを破門された上、ティノ殺害の罪を一身に負うことになった。今は、警察の厄介になっている。

 犯罪の責任を押し付けられたことで、『対外的にはケジメを取った』と言えるだろう。


「――そんで、どうだ? 新しい家は。

 小せェし、寂れてるよなァ」


 ダンテは、ぐるりと周囲を見渡した。

 どことなく陰鬱な雰囲気のある、閑散とした墓地。

 帝都で見られるような立派なレリーフや、美しい彫刻など、ここにはない。

 すぐ近くの墓など、ただ木の切れ端に『ニコ』と書いて突き立ててあるだけだ。


「……言ったろ? トルカーナってのは貧民街でよォ、家だって貧相なんだって。

 新居祝いなんて、やるほどじゃあねェって」


 そう言いながら、ドン、とビール瓶を二本、墓前に置いた。


「……こいつァよォ、船ん中から見つかった、オメェの荷物ん中にあったぜ」


 事件性ありと判断された今回の件は、貧民街にしては珍しく警察の捜査が入っていた。

 その過程で荷物が発見され、関係資料として押収されていたのだという。

 偶然とはいえ、ティノの荷物が手元に戻ってきたのは幸運だった。


「最近よォ、面白ェガキと知り合ったんだ」


 ――彼は『ゼノ』と呼ばれている。

 外見はどう見ても貴族のそれで、ロレンツォ曰く『保護している』とのことなので、何か訳アリなのだろう。

 ピエトラ幹部という、本来なら雲の上の存在の元に当然のように居座っているわ、本人も生意気の権化みたいに可愛げのない奴だわで、側から見ればまあまあ気に入らない、という感想になっても仕方ない少年だった。


 ――だが。


(俺は、そのガキのおかげで記憶を取り戻した。

 ティノの仇を討てたのも、ソイツのおかげだ)


 気に入らない。

 なのに。

 ――そう。


「――本当に、面白ェガキなんだ」


 不思議なことに、嫌いにはなれなかった。


「そいつに聞いたんだ。

 新居祝いってのは普通、招待される側が手土産を用意するらしいじゃねェか。


 だからよォ、オメェの新居祝いで、オメェが用意した酒を飲むってェのは、まァー変な話かもしんねェ。


 けどそいつ、面白いこと言ってたぜ」


 『そいつ』は、ダンテが誰かに新居祝いを送ろうとしているのだと思ったのだろう、『手土産は、刃物やガラスみたいな、切るものや割れるものを連想させる物は駄目だ』だの、『お金を贈るなら、偶数は避けた方が無難だ』だのと色々と予備知識を前置きしてから、こう言ってきた。


『まあでも、僕は好きなようにすればいいと思うけどね。

 親しき中に礼儀あり、とは言うけど、結局付き合いの形っていうのは、当人同士が決めるものだろう?

 世間様がご都合主義で勝手に意味付けした、迷信めいた慣習にお行儀よく従うよりもさ。当人同士が――いや、相手が望むことを第一に考えるのが『礼儀』ってものじゃないかい。


 ま、人付き合いに関して専門外の僕が言うことじゃないけどね』


 ダンテは墓石に目を落としたまま、ぽつりと呟いた。


「オメェが望んでるこたァ、俺にはよくわかるぜ。


 『飲む理由が欲しいだけ』。

 ――そうだろ?」


 ダンテは、ビール瓶のスクリューキャップをくるくると回して外すと、手の中のそれを一気に煽った。

 溢れたビールが、ぽたぽた、と、地面に吸い込まれていった。


「――苦ェや」


□□□

 ――ダンテの様子を遠目に見ながら、ゼノフォードは指で四角を形作った。

 いつものようにその四角形が光の枠で縁取られ、やがて見慣れたインターフェースになった。

 『ステータス』と書かれたボタンを押下する。


『ゼノフォード』

『ロレンツォ』

『ダンテ』


 これが現在のパーティメンバー扱いになっている面々だ。

 以前までダンテの名前についていた疑問符『?』が外れたのは、彼が本物のダンテであると確証を得られたためだろう。


 『ダンテ』と書かれた項目を押下する。


「――消えたね。『記憶障害』の表記が」


 この前まであった『状態異常:記憶障害』という文字がなくなっている。ダンテは完全に記憶を取り戻したと見ていい。


「ダンテについては問題なさそうだな。

 ――問題は、こっちだ」


 ゼノフォードは、自分――『ゼノフォード』と書かれた項目を押下した。


 そこには、こう書かれていた。


『状態異常:記憶障害』


 ――と。


 心当たりが無いわけじゃない。


(――“龍門輝石”が、死んだときの記憶)


 この世界に来る直前の記憶が、ない。

 だから自身が『なぜ』死したのか、わからない。


 かといって、その記憶を取り戻したところで、それが自分にとって良いことなのか。

 このまま、何もわからない方が幸せなのではないか。


 ――それもまた、わからなかった。


 風が吹いた。

 トルカーナの空は、どこまでも静かだった。

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