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異世界のフィクサー ―城を追われた転生皇子は裏社会で王になる―  作者: 紫音紫


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11話 順を追って説明してあげよう

「この人たちは、ピエトラじゃないってことっすか!?」


 地面に倒れた男たちを見て驚愕するアルノーに、ゼノフォードは笑みを浮かべた。


「まあ、僕の見立てだけどね。順を追って説明してあげよう。

 まず、あの汚職警官君の発言は覚えているかい?」


 ゼノフォードは先ほどのやり取りを回想しつつ続けた。


「『ピエトラに荒らされたくなけりゃ、治安維持費を払え』。

 だけど、考えてみたまえよ。別になにもピエトラの名前を出さなくたって、貧民街には危険なんて山ほどある」


 貧民街というものは、得てして治安が悪い。

 盗難、強盗、暴力に裏賭博――貧民街とは、そもそも無法地帯なのだ。


「それなのに、わざわざ『ピエトラ』の名前をちらつかせたんだよ、あの警官君は。随分と限定的じゃないかい?」


「確かに」


「そしてその直後。ピエトラを名乗る人たちが、『治安維持費を払わなかっただろう? だから早速来てやったぞ』って言わんばかりの、あまりにも出来すぎた大変よろしいタイミングで、ここに来店してきたわけだ。

 見せしめのパフォーマンスだったのさ」


 足元の倒れた男たちを見やり、アルノーは「なるほど」と頷いた。


「つまり、あの警官はピエトラの名前を使って、茶番をしてまで金を巻き上げてた……ってことっすね?」


「そう。あの警官君と、この『自称ピエトラ』の彼らは癒着している、ってことはほぼ確実だろう。それから」


 ゼノフォードは言葉を続ける。


「思い出してごらんよ、貧民街で聞いたピエトラの噂を」


「確か、二種類の噂があったっすね。

 一つは、『ピエトラが周辺の店を襲う』ってもの。

 もう一つは真逆で、『ピエトラは密輸や賭博経営はするけど、一般人に直接危害を加えたりはしない』ってものだったっすかね。

 人によって、ピエトラの印象が全然違うんだな、って思ったっす。なんていうか、同じ組織の話をしてるとは思えなかった、っていうか――」


 そう呟いたアルノーは、ふと何かに気づいたように瞠目した。それを見て、ゼノフォードは「そう」と目を細めた。


「つまり、その噂の片方が本物で、もう片方が偽物の評判ってことさ。

 内容からして、普通に考えれば、後者の『密輸や賭博経営をしてる』なんて、いかにもマフィアらしいほうが本物。前者の『店を襲う』って方が、この『自称ピエトラ』のものだろうね」


「その『自称ピエトラ』さんっすけど、チンピラっぽいことをしてるだけの、『本物のピエトラの下っ端』って可能性もあるんじゃ?」


 ゼノフォードは「鋭いじゃないか、アルノー君」と形の整った唇に笑みを乗せた。


「でもね。マフィアっていうのは、本来は警察を避けたがる生き物なんだ。『ピエトラは一般人には直接危害を加えない』って話があるのは、ピエトラにも警察沙汰を避けたい、って習性があるからなんだろう。

 だけど、この『自称ピエトラ』の彼らは違う。

 想像してみたまえよ、アルノー君。君がピエトラ所属の下っ端だったとして、ほんの一部の警官に依頼されて、派手に飲食店を壊して一般人を襲う――なんてことができるかい?」


 少し考えたあと、アルノーは首を横に振った。


「できないっす!

 警察沙汰になって、その『一部』じゃない、ちゃんとしたお巡りさんが来たりしたら……!」


「一巻の終わりだよね。下手をすれば、ピエトラ全体に飛び火して、大騒動になりかねない。よほど目前の利益に目が眩んだお馬鹿さんでもない限り、そんなリスクは犯さないよ。

 だから彼らは本物のピエトラじゃない、ってわけさ」


 ゼノフォードは結論を静かに告げた。


「つまり、警察がピエトラの名前を使って、店から金を巻き上げていた。そして信憑性を持たせるため、かつ見せしめにするために、『偽物のピエトラ』を用意していたってことだ」


「なるほど! さすがっす!」


 アルノーは手を打った。


「ってことは、あのお巡りさんがこの人たちをけしかけたんすね!」


「この街の警察組織の腐敗具合には、ゾンビもびっくりだろうね」


 そう言ったものの、ふとゼノフォードの顔が曇った。それに気付いたアルノーが、端麗な顔を覗き込みながら問い掛ける。


「どうしたんすか?」


 ゼノフォードは深く溜息を吐き、髪の房を指先で弄りながら言った。


「それはそれとして、『ピエトラに関する手掛かりを探す』って目標は、振り出しに戻ったわけだ。何せ、見つけたのは『偽物のピエトラ』なんだから。悲しいね」


「あー……」


 アルノーは額に手を当てた。


「……とりあえずそのことは、この偽ピエトラさんたちをどうにかしてから考えないとっすね――」


 そう言って、地面に転がる『偽ピエトラさん』に目を向けたアルノーの顔が、ふと強張った。


「……あれ?」


 所々に、料理や飲み物が溢れた粗末な木製の床。その上に転がっている男の数は、一人、二人――。


「――三人、だったはずなのに」


 ――いない。

 あの、親玉らしき大男が。


「――クソがッ!」


 突如振ってきた怒声。

 ゼノフォードとアルノーは、振り返った。


 視界に飛び込む、振り上げられた拳。

 突進してくる、巨体。


 男がいつの間にか立ち上がり、臨戦態勢になって、こちらに攻撃を仕掛けてきていたのだ。


(まずい)


 ゼノフォードは、判断すらできぬまま立ち竦んだ。

 そしてそれは、アルノーもまた同じだった。


 二人はただ、こちらに向かってくる大男を見ていることしかできなかった。


 その、刹那。


「――よしな」


 低く、威圧感に満ちた声が、店の入口から響き渡った。


 バシュッ!


 耳を打つ鋭い発射音とともに、何かが空気を裂く。

 瞬きをする間に、厚手の網が大男の全身に覆いかぶさり、床に叩きつけた。

 絡みつく麻縄と、重り付きの結節が一瞬で四肢を封じ、巨体はもがくことすらできない。


「う、動けねぇ……っ……!? ぐぅ、がッ……!!」


 ゼノフォードは、思わず息を呑んだ。


(これは――)


 見たこともない、投網。そしてそれを発射した、銃の形をした奇妙な武器。

 ゼノフォードが“龍門輝石”として生きてきた世界では、こんな装置は一度も目にしたことがなかった。


 コツ、コツ。


 床を踏む、硬質な足音。

 ゼノフォードの視線は、吸い寄せられるように店の入口へ向いた。


 店の明かりに照らされて現れたのは、黒のロングコートに身を包んだ、壮年の男。帽子を深く被り、その目元は影に覆われている。

 ただそこにいるだけなのに、空気が変わった。


 男はゆっくりと店内へと歩を進めながら、網に包まれてもがいている大男に、重々しく言い放った。


「これ以上暴れてみな。

 このまま網ごと運河に沈めて、魚の餌にしてやるからよォ」

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