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第18話 燻る疑心

 花嫁の方々の居住区に入るのはこれが二回目になる。以前よりも人が減ったような気もするが、今は馳川さんの様子を見に行くのが先だ。早足のハシボソさんの後を必死について行った。

 ノックをして入った先でコクマルさんがベッドの横の椅子に座っていた。ハシボソさんが出ている間、馳川さんを看病してくれていたらしい。俺とハシボソさんを見るなり首を傾げた。

「ずいぶんと早い帰りだな。それにネロまで一緒とは……何かあったのかい?」

 ハシボソさんはコクマルさんに事情を全て話しながらベッドで眠る馳川さんを確認していた。

「なるほど。じゃあシロから連絡がくるまでここで待機だな。今ならミヤマもパトロールに来ているから安全だろう」

「馳川さんに変わりはありませんでしたか」

「ああ。熱も下がったままだし、大丈夫そうだ」

 コクマルさんの言うとおり馳川さんの顔色は色白だけど良さそうだった。それをハシボソさんも見て確認して安心したようだ。

「さっき寝たところだからしばらくは起きないだろう。今のうちにハシボソは仮眠をとるといい」

「いえ、僕は……」

「良いから良いから。何かあったらおじさんが起こすから安心して寝てろ」

 そう言うと有無を言わせずコクマルさんはハシボソさんの肩をグイグイ押して、ソファーに寝かせた。そして大きくてゴツゴツした手でハシボソさんの目を覆って十秒。ハシボソさんから小さな寝息が聞こえてきた。

「早っ!」

 思わず声に出して慌てて手で口を押さえた。コクマルさんは満足そうに笑いながらハシボソさんに毛布をかけて、また馳川さんの眠るベッドの横の椅子に座った。

「ネロはシロからの連絡があるから寝るなよぉ? あ、冷蔵庫にコーヒー冷やしてるから飲んでいいぞ」

「あ、ありがとうございます……あの、ハシボソさんは大丈夫なんですか」

 こもちをテーブルに下ろして、適当な椅子に座った。以前馳川さんとご飯を食べた席だ。すぐに眠りに落ちたハシボソさんのことをコクマルさんに聞くと、なんとも困った顔をされた。

「まあ……自分の身内の花嫁が余命わずかで風邪を引かれたら、誰だってああなるさ。ハシボソはまじめだから特に神経をすり減らして看病しただろうし……この子が持ち堪えてくれて良かったよ。元気な姿を見ればハシボソの尖った空気も元に戻るだろうさ」

 寝不足の目つきが怖いだろ、と言われてつい頷いてしまった。

「実は怖くてまともに話もできなくて……」

「ここ数日は徹夜してたからな〜」

 コクマルさんと話していたらシロから連絡がきた。手短に用件だけを伝えてすぐに切られたけど、シロの安全を確認できてよかった。

「シロからかい?」

「はい。俺の家に誰かいた形跡があったとかで、ホシさんも確認の為に俺の家に来て、それが済むまで俺はハシボソさんと一緒に待機だそうです」

「誰か家に入れる人に心当たりはあるのかい? 合鍵は何本作っている? 鍵を無くした経験は?」

 コクマルさんの確認に俺は首を横に振った。家を知っている知り合いはいない。友達にも家の場所は教えていないし親戚にも知っている人も訪ねる人もいない。鍵を持っているのは俺と父で一つずつ。合鍵はない。

 そこで俺は気がついた。父が持っていた鍵はどこにいったのか。

 ホシさんが渡してくれた、父の遺品をまとめた紙袋を開けずに仏壇の横に置いていた。その中をきちんと確認していない。勝手にその中に入っていると思っていたが。

 俺はすぐにホシさんに連絡して紙袋の中身を確認をお願いした。

「仏壇の横の紙袋の中です! 犬のキーホルダーがついた鍵はありますか?」

 少し紙袋の中をあさる音がした後にホシさんから返ってきた言葉は、無い、の二言だった。

 単純に鍵の紛失だけならば、ここまで警戒することはなかったのかもしれない。ホシさんはすぐに察してくれた。必要な物を回収してきてくれると言ってくれたので、俺は父と母の位牌をお願いした。通話を切るといつの間にか部屋にミヤマさんがいた。

「ワタリから連絡がきてね……ネロから目を離すなと言われてしまったよ」

「おじさんの方にも連絡きたよ。例のチョウかもしれないってさ、モテるって大変だな〜」

「嬉しくないです」

 不快が声色に出た。冗談だとわかっていても、今の俺はそれを笑って返す余裕がないのだ。テーブルの上に手をおくと、こもちが寄り添ってくれた。頭を撫でようとして手が震えていることに気がついた。緊張だろうか。小さく持ち上げた震える手をジッと見ていたら、こもちが親指を掴んでよじ登ろうとした。反対の手で宙ぶらりんのお尻を支えてやると、するすると手の中に収まり満足そうにくつろぎはじめた。

「震える手の中で毛繕いするなよ……」

 でもこもちのおかげで手の震えが少しだけマシになった気がした。


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