第15話 朝の運動
翌朝四時過ぎに、俺は白猫に鼻を噛まれて起きた。シロの召喚獣の一匹であるムツだ。甘噛みではないのでしっかり痛みで目が覚めた。
「ムツ、おはよう……起こしてくれてありがとう」
ふわふわの長毛を優しく撫でると、お返しにモップのようにふわっふわの尻尾を顔に当てられた。鼻に長い毛が入った痛みで飛び起きた。
「なーぅ」
俺が悶絶している姿を満足そうに見下ろし、ムツは部屋の外に出て行った。さすがお猫様。
シロと一緒にいる時間が長いので、お世話になる召喚獣も増えた。一番お世話になっているのは俺を乗せて走れるほど大きい狼のタロウと、大型の梟のヨタの二匹だ。主にタロウとヨタ、まだ会っていないコジロウとサブノスケが主力らしい。俺の護衛をしてくれる。あとは大量にいるハムスターのみんなはシロの気分で召喚される子が違うので、多分まだ全員とは会っていない。白猫のムツと柴犬のゴリタは普通のペットとして接している。
あまり詳しく聞いていないが、シロの育った環境は普通ではなかったらしい。たまに感覚の違いで驚くことがある。そうなると、シロは慌てて話題を変えてしまう。自分の価値観や考えが普通ではなく、それを深く突っ込まれたくないように思える。だからか、シロは俺と当たり障りのない話しかしない。
「あ、おはようネロ! もうホシさん来てるから行こう!」
朝のランニングのため準備をして本部の玄関に行くと、すでに準備万端のシロがいた。
「おはよう。ムツの目覚ましありがとうな、おかげで昨日の今日でもちゃんと起きられたよ」
普通の朝の挨拶だけでも、シロは嬉しそうに笑う。長い前髪で目は隠れているが、シロの表情は豊かだ。
「いい加減に慣れたら? 挨拶のたびに喜んでるけどさ、これ普通だろ?」
「え? ええー? だってオレが挨拶したらトモダチが返してくれるんだぞ? 毎日嬉しいよ!」
「ホシさんも他の黒服の人も挨拶したら返ってくるのに? たいして変わらないと思うけど」
「ちーがーうーのー! ホシさんも黒服のみんなも返してくれるけど、ネロはオレのトモダチだから! トモダチとの挨拶は特別だから!」
そう、シロは友達というのを特別に大切にしている。召喚獣のみんなも、シロが俺のことを友達だと言ったからか、特に指示を出したわけでもないのに俺のことを守ってくれる。俺のためというよりは、シロのために動いているように見えるのだ。
俺にはいまいちわからないから、そっか、なんて軽く流してしまう。きっと深く突っ込んではいけない。
「ホシさん、おはようございます。今日から一緒にランニングさせてもらいます」
「おはようございまーす!」
本部を出たところに、高そうなランニングウェアを着こなしたホシさんが立っていた。
「ああ。おはよう。昨日コクマルから聞いたぞ、ミヤマに引きずり回されてバテたらしいじゃないか」
ホシさんは愉快そうに目を細めた。俺とシロは思い出しただけで疲れがぶり返した。
「ミヤマさんの体力についていけるのってコクマルさんだけじゃん。しかもネロの能力でバンバン駆除できるからミヤマさんのやる気がすごかったんだからさ」
「アイツはそうだろうな。ネロと一緒に狩りに出られることを一番に楽しみにしていたからな。報告書もいつもより提出が早かったくらいだ。また近々、一緒に組ませるかもしれない」
「俺の体力がついてからにしてくれませんか?」
そんな話の後、近くの大きな公園のランニングコースで準備体操をしてから何周か走った。覚悟はしていたけど、ホシさんもシロも走るのが早い。無理せず自分のペースで走るように言われたけどこれは辛い。
「ホシさんはフルマラソンを四時間以内にゴールする体力あるからペースがおかしいんだよな」
前を走っていたシロが後ろから走ってきた。いやお前もペースおかしいだろ。
「シロも早いだろ」
「毎日走ってるからな。でももう無理だからタロウに乗るー」
息切れしている横で狼のタロウを召喚して背中に乗って寝転がった。タロウはさも当然のようにシロを乗せたまま俺の横を走った。タロウの毛並みが白いのもあり、こうしてみると狼というよりも大型犬に乗っているようだ。
「ネロも辛かったら休憩しろよ〜」
「うん。でももうちょっと頑張るよ」
そう言った矢先に突風が吹いた。と思ったらホシさんが俺たちを追い抜かした風圧だった。
「さすがホシさんは早いなぁ〜」
シロがタロウの背中で呑気な声で笑った。俺はあまりの早さに引きつり笑いしかできなかった。




