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第11話 シロの暴走

 シロに能力の制御のコツを教えてもらったけど、どうにもできているのかわからない。

「やっぱり師範の指導がないと慣れるの大変だよなー……ま、あとは実践あるのみだな」

「……シロも指導してもらったのか?」

「うん。おかげで力加減を覚えれたよ」

「そっか…………」

 父の指導はどんな感じだったのだろう。時間圧縮の能力とは別に、父の教え方が気になった。

 しかしそれをシロに聞く前に、部屋の外、おそらく廊下が騒がしくてシロが席を立ってしまった。

「なにさー? ネロが休んでるんだから静かにしてよ」

 シロがドアを開けて顔だけ廊下に出したら、外が更に騒がしくなった。誰かの叫び声が部屋にいても聞こえた。

「シロさん! アンタまた召喚獣を大量に出しましたね!」

「本部内では──というか室内では二体までってホシさんに言われてますよね! なんでこんなに召喚してんですか!? ぞわっとするわ!」

「いつの間にこんな大量のハムスターを飼ってたんスか!? ちょ、早く戻して戻して! 踏んじゃう!」

「齧歯類苦手な奴が泡吹いて倒れたぞ! 担架持ってこい!」

 ここから見えないが、なかなかに壮絶なことになっているようだ。甲高い悲鳴も聞こえてきた。

「あ、ごめーん。番いで飼ったらスゴイ勢いで増えちゃった時の子達なんだ、可愛いでしょ? さゆり、こたろう、すずき、まゆみ、なお、ここあ、やまと、だいき、こはる、こなつ、あき、みふゆ、せいじろう、こもち、もものはな、シリウス、ペテルギウス、ウテナ、ガーネット、たくろう、つばき、なおき、ジュジュ、ごろう、ときた、まつのはな、ゆきな、ひなた、さや、やたろう、プリン、ホイップ、のりこ、べにひ、ろくしょう、ひかりだよ〜」

 外の阿鼻叫喚に呑気なシロの笑い声がなんとも場違いで浮きまくっている。そんな笑い声も鶴の一声で止まった。

「シロ! またテンションが上がって大量召喚したのか!」

 知った声だ。多分ホシさんの怒声で間違いないと思う。シロの全身が跳ねた直後、明らかに先程より小さくなった。飼い主に怒られた犬みたいだな。

「室内では二体までだと言っているだろう! 小型でも二体までにしろ! 足の踏み場が無い!」

「ご、ごめんなさい……ネロがトモダチになってくれて、嬉しくて……つい」

 能力の制御のコツを教えてもらったけど、制御できていないのを目の当たりにして不安になってきた。

 廊下がさっきより静かになったので恐らく落ち着いたのだろうか。明らかに怒られてしょんぼりしているシロと、眉間のシワが二割増のホシさんが部屋に入ってきた。

「起こしてすまないな。コイツの能力は無自覚に発動するから厄介なんだ」

「い、いえ……」

 全然制御できていない、とは本人に言えなかった。あまりにも肩を落としているものだから声もかけにくい。

「一定の日数を一緒に過ごした動物を自由に召喚できるんだがな、テンションが上がると小動物をメインに大量召喚して今のようになるのが傷だ。過ごした時間が長いと意思疎通もできるようだが……タロウくらいしかいないだろうな」

「タロウはオレの兄ちゃんだもん! そりゃオレより賢いかもしれないけど、それにしたってホシさんはタロウにしか指示しないときあるし、タロウ贔屓すごいよね!?」

「むしろお前はタロウ以外を召喚するな」

「酷いよ! コジロウとサブノスケとヨタもいいでしょ!?」

 シロがホシさんの補佐をできる理由がなんとなくわかった。今にも人を殺せそうな目をしているホシさんとタメ口で臆せず話せている。俺は怖くて口を挟めなかった。

「まあいい、それよりもネロだ」

「やっぱり捜索で間違いなさそうだよ? 今夜オレと一緒に狩りに出たら確実だけど、どうしよっか」

 シロの提案にホシさんは首を横に振った。

「まだ能力の制御ができていないのに狩りに出すのは不安だ。今夜はミヤマとコクマルが狩りに出る」

「じゃあオレはネロの家で護衛してればいい?」

「当然だ絶対に生かせ。ネロの許可する範囲で召喚していいぞ」

「やった!」

 話について行けずに黙っていると、どうにもシロが俺の家に泊まることは確定で、いずれ狩りとやらにも出されるような話に進んでいる。もうシロが泊まることはいいとして、狩りについては不安がある。

「あの、俺も皆さんのように護身術というか、戦えるように鍛えたいんですけど、どうすればいいですか?」

 タテハを目視したのに何もできなかったことが悔しくて、次に見つけた時に戦えるようになりたいと強く思った。でも効率の良い鍛え方なんてわからない。だから聞いたのに、二人はお互いの顔を見合わせて視線を横にずらした。

「ネロはオレが守るから大丈夫だよ! そうだ! タロウをずっとネロに付けちゃう! それでも不安ならヨタも付けるよ!」

「いや……そうじゃなくて……」

「タロウは普通の人はよく犬と勘違いするから昼間でも一緒にいられるし、ヨタは夜目もきくから夜も安心だよ!」

「シロ、俺はタテハを殺したいんだ。だから守られっぱなしは……」

 父を殺したタテハ。アイツは俺が殺したいんだときっぱり言うと、シロはしどろもどろになり、困ったようにホシさんに顔を向けた。そして深いため息を吐いたホシさんが眼鏡をかけ直して口を開いた。

「鷹木との契約に違反する。そもそもお前を黒服にした時点で契約違反ギリギリまでいっているんだ。能力が捜索ならばこれ以上前線に出させる訳にはいかない」

「なんですか……それ。ホシさん俺に言いましたよね? 黒服として害虫駆除しろって! なんで急に……!」

 立ち上がろうとしてシロに抑えられた。

「さ、最初は比較的安全なサナギ駆除をさせようって話だったんだ。イモムシやチョウだと危ないけど、サナギ駆除なら安全だから」

「最初から?」

「師範が師範になる条件に、息子の安全の無期限保証を出したんだよ。だから常にネロの周りには黒服が護衛についていたんだけど……あのチョウが……」

 予定を狂わされたと二人に言われ、俺は開いた口が塞がらなかった。

「捜索の能力なら案内として前衛に出ざるを得ないが、だからこそシロを護衛につけるんだ。シロ、暗くなる前にネロの家に行け。必要な荷物はバイクに積んだから先に玄関前に荷物を運んでからもう一回戻ってこい」

 窓の外は夕暮れ時。シロはホシさんに言われるがまま慌ただしく部屋から出て行った。もはや家の場所が知れ渡っていることには驚かない。

「じゃあネロ、荷物置いたら戻ってくるから、待っててな!」

「いい。一人で帰れるよ」

 口ぶりから俺をバイクに乗せて一緒に帰るようだったから断ったら、ホシさんに睨まれた。視線をそらして誤魔化そうとしたけど、ため息をつかれた。

「シロ、先に行って待機してろ。俺が車で送る」

「あ、じゃあせいじろうをつけとくよ! 車の中でもふもふしていいから!」

 そう言ってシロは俺の肩に一匹のハムスターを乗せた。普通のハムスターと変わらないように見える。俺の頬に前足をテシテシと当ててくるので、掌を差し出したら大人しく乗り移ってくれた。

「賢いんだな……せいじろう?」

 手を噛むことも、逃げ出そうともせず、大人しく俺の手に収まる姿は、つい口元が緩む。

「じゃあネロ、後でな!」

 シロはホシさんからバイクのキーを受け取って元気いっぱいに手を振ってから走って行った。俺はせいじろうを預けられた以上行かないわけにもいかないので、気まずいがホシさんの車に乗せてもらうことにした。


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